53、牛人
俺は海月の居場所を確信すると、みんなを手招きする。
足音を立てないようにして、盛り土してある築山を越えると、そこにお堂があった。
俺はお堂に近寄る。
お堂横手の明かり取りの窓に忍びよった。
障子の隙間から中を覗く。
いた!
海月と神主だ。
スケベ神主は、上半身はまだ着物を来ていたが、袴の紐を緩めているところだった。
海月は呆けたように、前を向いて正座している。
白い巫女の衣装はそのままだ。
神主は荒い息と共に海月ににじり寄った。
着物の上から、海月の胸のふくらみを撫で回した。
その手が胸元から入り込もうとした時、俺は我慢できず獣のようなうなり声と共に、お堂の中に飛び込んだ。
神主はビックリしてこっちを見た。手も止まる。
俺は入ってきたそのままの勢いで、神主に右ストレートをぶちかました。
次に右の回し蹴りをお見舞いする。
神主はなす術もなく、ふっ飛んだ。
俺は海月の方を見た。
目の焦点が合ってない。
何かされたのか?
「テメエッ!この子に何かしたのかっ?!」
俺は吠えるように聞いた。
神主はあわてて首を振った。
「し、し、し、してない。まだ、何もっ!」
だが最早、俺はコイツをブッ殺すつもりだった。
腰から夢丸に貰った守り刀を引き抜く。
その時だ。
ダダダという足音と共に、入り口とは別の襖が開いた。
まだ別の部屋があったのか?
入ってきたのは1人だけだった。
しかしその身体の大きいこと!
身長は2メートル近くありそうだ。
体重も120キロを越えているだろう。
体はガッチリしている。
そしてその顔は・・・
三つ口で鼻の下の唇が切れ、両目の目蓋は腫れたようになっている。
そしてそのスキンヘッドの頭には!
信じられない事に、2本の角が生えていた。
いや、良く見ると矢が刺ったものらしいが、それが刺さった根元で折れ、角のように見える。
神主はその男を見ると急に勢いづき
「牛人!その痴れ者を殺せ!」
と言い放った。
痴れ者はどっちだ!と思ったが、目の前の大男が咆哮を上げて迫ってきた。
大男とは思えぬ動きで突進してくる。
俺は横っ飛びにかわした。
牛人はそのまま壁に突っ込んだ。
急に進路は変えられないらしい。
牛人は俺を向き直ると
「ぐもうぉー」
という本当に牛のような雄叫びを上げて、再び突っ込んで来た。
またもや俺がかわすと、牛人はそのまま方向を変えられず、よろよろっと進路を見失う。
なるほど牛人とは良く言ったものだ。
俺はこの状況にも関わらず、あまりのネーミングの良さに感心した。
コイツのスタートダッシュは凄いが、それさえかわせば何とかなりそうだ。
だが、甘かった。
いくら何でも牛ほど馬鹿ではないらしい。
今度は両手を広げて、ジリジリと迫ってくる。
俺は一気に横に走った。
思いっきり横腹に蹴りを入れる。
しかし牛人は平然としていた。
俺はそのまま走って、壁にかかっていた槍に手を伸ばした。
最初から今の蹴りが通じる相手とは思っていない。
今の蹴りはフェイントだ。
槍の先のカバーを外した。
ちくしょう、槍先が錆ついている。
牛人が迫ってくる。
俺は槍を構えた。
その時、入り口が開いた。
柴崎と宇田川だ。
柴崎は剣を、宇田川は石の棍棒とショットガンを構えている。
牛人が振り返った。
その隙を逃さず、俺は牛人の左足の甲を思いっきり突き刺した。
床まで刃先が食い込む。
衝撃で刃先が根元を残してポキンと折れた。
苦痛のうめきを上げ、牛人がこっちを向き直る。
俺はその顎めがけて、穂先の無くなった槍を振り上げた。
ゴツンという固い手ごたえがあった。
しかし、ガッチリと顎を捕らえたのに、牛人は怯む様子はない。
柴崎が剣を低く構え、脇腹に突っ込んだ。
左後ろ腹に剣が刺さる。
だが浅い。
牛人は拳を振るった。
かろうじて柴崎も後ろに転がって避ける。
俺が今度は、槍をこめかみ目がけて打ちこんだ。
石突きがこめかみに突き刺さる。
牛人は怒り狂って吠えた。
目が真っ赤だ。
今度は効いたらしい。
宇田川が後ろから延髄めがけて、棍棒を打ちおろす。
すかさず俺も、今度は石突きで股間を突き上げた。
膝をついた牛人の顔面がこっちを向いた瞬間に、穂先の折れた部分を牛人の右目に突き刺した。
ものすごい悲鳴が上がった。
宇田川がさらに石でできた棍棒を、牛人の後頭部に思いっきり振り降ろした。
石の棍棒は、バコッという音と共に、爆発したように砕け散った。
ものすごい力だ。
牛人は音をたてて崩れた。
すかさず柴崎と宇田川が、牛人を縛り上げる。




