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夏休みの思い出は平安で  作者: 震電みひろ
51/68

51、祭りの前夜(その3)連れ去られた海月

水守に戻ったのは午後2時くらいだ。

俺は、里中の様子が何かおかしいことに気づいた。

喜ぶ者あり、悲しむ者あり、異様な雰囲気だ。


1人の村人に聞いてみる。

「ああ、今年の生贄の巫女が今しがた出たんだ。だから村には神主様から御下賜の品が届いたんで、村の衆も喜んでいるのさ」

と言う。こいつは酔っていた。

俺は驚いて

「祭りは明日じゃないのか?」

と勢いこんで聞くと

「ああ、祭りは明日だが、前日の夜は神社に泊って禊するのさ。ケガレを払ってな。まあ、それは建前で、実は『生娘かどうか確かめる』という名目で、神主さぁが娘を頂いちまうのさ。何せ土地一番の器量良しの娘が選ばれるんだ。ただ坂東太郎にくれちまうのも勿体無いだろ。もっとも神主さぁには、この時期は龍神様が乗り移っておられると言うで、まんざら建前でも無いがな。この事はみんな知っている事だ。だけど誰もおおっぴらには言わないだけよ。この品は口止め料も兼ねているでな」

「いつだ?いつ出発した?」

俺は男を絞め殺しかねない剣幕で聞いた。

「おっかねぇ顔すんなよ。もう一刻以上前かな。神社で祝詞を上げたら、夕方くらいから神主さぁと巫女と2人きりで、お払いの儀式をするんだ。あの神主さぁも好きだから、きっとあの娘も今夜は寝かせてもらえないえ。おまけに今年の巫女さぁ、前々から神主さぁが目ぇつけてた娘だしな」

俺は我慢できなくなり、男の顔面を殴り飛ばした。


夢丸の方を見ると「知らなかった」と、本当に意外そうに驚いていた。

海月の家に飛び込む。

海月の母親は顔を伏して泣いていた。

俺は彼女に

「お母さん、私は海月さんを助けに来た者です」

と声をかけた。

彼女は顔を上げると

「それではオマエさんが、宮元さんという若人かえ?」

と聞いて来た。

「そうです、必ず誰にも迷惑がかからないように、海月さんを助けます」

と言うと、彼女は俺の手を取り

「頼む、ワタシが病気なばかりに、あの子に辛い目ばかり会わせてしまった。どうかあの子を助けてくだされ」

と泣いて頼んだ。


俺が外に出ると、ミズハが走り寄ってきた。

「大変な事になったよ!」

「知ってる」

俺は彼女に何も言わせなかった。


ミズハは俺達が出かけた後、すぐに追いかけて来てくれたらしい。

俺達がいずれやってくると踏んでこの里に着いた所、海月が連れていかれる所を目撃したのだ。


柴崎が聞いてきた。

「どうする、宮元?」

こうなったら仕方がない。

俺は宣言した。

「龍神神社に乗り込む!いざとなったら神主を血祭りに上げてやる」

俺の剣幕に気圧されたのか、誰も何も言わない。

「夢丸は将門様に迷惑がかかるから館に戻ってくれ。みんなも吉岡のキャンプに行っていてくれ。ミズハも筑波に帰れ。俺1人で行く」

「馬鹿言うな。俺達も行くに決まってるだろ」

柴崎が言った。

宇田川と吉岡も頷いたが

「吉岡はキャンプに残って、明日の準備をしておいてくれ。時間がない」

と改めて頼むと、仕方なく同意してくれた。

「アタシだって行くよ」

ミズハも引かない。

夢丸は

「じゃあ俺は一度館に戻って、援軍を連れて来よう」

と言うと、吉岡が

「いや、アンタは明日のための準備を頼みたい。まだ明日の祭りが潰れたわけじゃないからな」

と説得した。

夢丸はうなずいたが、少し不安そうに聞く。

「龍神神社の神主は、あの一帯の豪族の頭でもある。その力も並大抵では無い。大丈夫か」

だが俺は言い切った。

「ともかく任せてくれ。もし夜中の丑の刻までに連絡がなかったら、俺は死んだと思って、海月だけでも助けて欲しい」

「わかった」

そう言うと夢丸は、将門の屋敷に馬を走らせて行った。

俺達も今来たばかりの道を引き返して、龍神神社を目指す。

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