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夏休みの思い出は平安で  作者: 震電みひろ
49/68

49、祭りの前夜(その1)

水守には約1時間ほどで到着した。

海月の家を尋ねてみる。


貧しい草吹きの家だった。

木材がほとんど使われていない。

柱と壁の下側だけに板が少し貼られているくらいで、あとは壁も屋根も全て茅でできていた。

入り口はムシロが掛けられているだけだ。

2人いれば一日で作れそうな家だ。

家の中を覗いてみたが、中には誰もいなかった。

隣の家のおばさんに聞いてみると、海月は母親を連れて散歩に出たらしい。

きっと母親と別れを惜しんで、ゆっくり話でもしているのだろう。


邪魔しちゃ悪いと思って、俺達は先に龍神神社の方を偵察してみることにした。

牛久沼を迂回して、取手市と柏市と我孫子町の中間くらいに来た。

西に利根川と渡良瀬川、北東に鬼怒川と小貝川、南に手下浦(現在の手賀沼)がある。

龍神神社は、利根川を見下ろせる小高い丘の上に建っていた。

かなりの大きさの神社だ。

俺は単なる神社だと思っていたが、それは違っていた。

将門の屋敷のように、高い板塀や土塁に囲まれている。

むしろ有力豪族の館、と言った方が正しい。

実際、神社が支配している荘園もかなりの大きさだった。

「昔から宗教っていうのは儲かるんだな」

変に感心したように柴崎が言う。


地元の人に聞き、生贄の巫女が投げ込まれる場所を案内してもらった。

巫女を乗せる豪華な輿と桟橋は、龍神神社のある茨城県側に設置されていた。

輿は大人が4~5人乗っても沈まない頑丈なものだ。

桟橋も村人が補修していた。

夢丸が言った。

「土手の上は祭りの主催者やお役目方で一杯になるだろう。土手の両側も見物人が満ちあふれている。この辺はアシも少ないし、あたり一面に祭りに来た村人がいるから、到底隠れるような所はないぞ。」


その時、土手に自転車が駆け登ってくる。

吉岡だ。

この時代にマウンテン・バイクが突然登場したので、周囲の人間は呆気に取られていた。

「おまえ何?チャリで来たの?」

柴崎があきれたように言った。

「いや、馬がちょっと手に入らなくてさ」

吉岡はぬけぬけと答える。

「回りの注目を引くだろう?」

宇田川が聞く。

「それだったら俺達、この服装でもう十分人目を引いているよ」

それもそうだ。


「それで作戦はできたのか?」と吉岡。

「いや、この付近一杯に祭りに集まった人で埋まるそうだから、密かに助け出すのは難しいみたいだ」

宇田川が言った。

柴崎が「ヘリで助けだすというのはどうだ?」と言ってきた。

「空に舞い上がれば、龍神に召されたと思うだろう?」

宇田川が異議を唱える。

「いや、どうしてもならしょうが無いけど、もう少し目立たない方法を考えよう。もしかしたら天狗かなんかに巫女が攫われた、という事になるかもしれない。そうしたら追いかけて来るかもしれないしな。どっちにしろ誰かが彼女に近寄ったら怪しまれる。ヘリは最後の手段にとって置いた方がいいな」


俺が今までの話をまとめた。

「今まででわかっている事は、まずこのあたりは村人で一杯になるという事。それに生贄の巫女は、護衛付きで川の上に浮かべられる。当然誰か近づけば村人達にバレてしまう。と言って祭りの前に生贄を逃がしてしまうと、海月の親族に迷惑がかかるため、これもできない。さてどうする?」

柴崎が言った。

「祭りそのものをブッ潰すしかねぇだろう?」

吉岡がそれには反対した。

「たった4人でか?このあたり一帯の村人となると何千人といるぞ。それを全部敵に回す気か?」

「銃があるじゃんか」

「宮元はマガジン2個。柴崎がマガジン2個と銃に入っている残りの10発くらい。マガジン1つで19発だぜ」

宇田川も言った。

「俺が持っているショットガンも、弾は10発しか残ってない。とても相手にできないよ。リスクが大きすぎる」


夢丸が言った。

「祭りを打ち壊すのは反対だ。村人は銃や兵士よりも龍神の祟りを恐れる。祭りを妨害する者を、どんな犠牲を払っても排除しようとするだろう。おまけにケシ汁(麻薬)に酔っていればなおさらだ」

吉岡が別の案を述べる。

「祭り自体を延期させる方法はないか。その間に生贄を助けるとか」

夢丸がやはり首を振った。

「ここまで来て延期なんてまずありえないし、たとえ延期しても事態は変わらない」

それらの話を聞いている間、俺はジッと川を見つめていた。

何か方法があるはずだ。

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