46、将門の館にて
翌日、俺は夜明けと共に目を醒ました。
襖を開けて庭に出てみる。
まだ寝ていた宇田川がまぶしそうに寝返りをうった。
不満そうに顔をしかめている。
夕べはあれから将門の館で宴会があった。
酒が入ったおかげか、俺達も将門の部下と打ち解けて盛り上がっていた。
俺は傷に触るのであまり酒は飲まなかったが、山海の珍味を十分に堪能した。
この時代は基本的に菜食主義だ。
肉類はおろか魚も口にする機会は少ないらしいが、将門の支配地域では違っていた。
牛、馬などは大切な労働力のため食べないが、イノシシ、シカ、熊、キジなどの山の肉類に、クジラ、スズキ、タイ、海老、カニなどの海産物がごっそり並んでいた。
将門が言うには
「米と菜だけでは力にならぬ。ケモノの精気も取り入れねばな」
ということだった。
将門は、物事やその時代の因習にとらわれない人だ。
ミズハにとっては獣肉を食するのは当たり前の事だった。バクバク食べる。
ミズハ達の事を、俺は将門にお願いした。
「将門様、彼女等サンカの仲間は大和人に迫害され、追いやられて山に住む人となりました。貞盛軍も彼等を都合よく利用しただけです。何とか彼ら蝦夷の人達を大和人と同じように、平等に扱ってもらえないでしょうか?彼女等の仲間は日本全国にいて、その情報網は朝廷ではまるで及びません。もし彼女等と手を組み、彼女等の助けが得られるなら、将門様にとってこの上無き味方となると思うのですが?」
彼もうなずいて
「よーく、わかっておる。ワシは別に朝廷や帝に対して弓引こうとしておるのではない。だがワシが支配するこの坂東で、京の公家どもにあれこれ都合良く指図されるのも御免なのだ。ワシは民が安らかに田畑を耕し、暮らせる国を作りたい。もちろん大和人、蝦夷と隔たりなくな」
と言ってくれた。
それで俺は安心した。
李高仙人はやはり将門の軍師にはならないらしい。
しかし俺達の事に興味があるらしく、しばらくは山に帰らずに客分としてこの館に泊るつもりだ。
そして彼も、将門やその配下が筑波山に仙人の知恵を借りに来る事には、異存はないと言う。
彼がほとんど俺の傷の手当をしてくれた。
彼こそが大陸から渡ってきた渡来人だ。
李高仙人は様々な中国医学の知識を持っていた。
柴崎はミズハを随分気に入ったらしい。
しきりと話かけているのを見ながら、俺は疲れと傷のため、先に宴を失礼した。




