44、天の助け
・・・ここはどこだろう?・・・何だか妙に揺れている・・・・
何の音も聞えない。あたりも真っ暗だ。
もしかして俺は死んだのかな。
もしそうだとしたら柴崎たちはどうしたのだろう?
みんなここに来るのだろうか?
みんなに会ったら何て詫びればいいのか?
そのうち段々なにかの音が聞えてきていた。
いや、音が聞えてくるなんてレベルじゃない。
轟音の中にいる。
どうやら俺は生きているらしい。
生きてる?
と、いう事は真っ暗なのは、今は夜だからか?
だとしたら、みんなはもう処刑されてしまったのか?
俺はあわてて体を起こした。
誰かが体を押さえた。
「まだ無理だよ。もう少し寝てなくちゃ」
ミズハの声らしい。
そこにまた誰かの声がした。
「気がついたのか?」
この声は?
聞き覚えがある声だが?
やがて李高仙人のとぼけた声が聞えた。
「やれやれ、毒消しがまだ効かぬ内に山を走り出すとは、まったく無謀なヤツよ」
轟音の中で会話か聞える。
「でも体中こんな傷で山を降りるなんて・・・」
さっきのこの声!
吉岡だ。
俺は目を見開いた。また真っ暗だ。
今度はすぐに、目から額にかけて冷たく濡らしたタオルが置かれているのがわかった。
それを取り払う。
ぼんやりした視界の中に見えたのは、吉岡とミズハだ!
「吉岡!」
思わず俺は叫んだ。
吉岡は心配そうに聞いた。
「大丈夫か?宮元」
そこで初めて俺は周囲の様子がわかった。
大型輸送用ヘリコプターの中だ。
陸上自衛隊が使っている。リゾートの物だろう。
「おまえ、どうしてここに?」
俺が聞くと、吉岡は照れ臭そうに言った。
「オマエラがみんな行ったから、俺1人から事情聴取する訳には行かないんだとよ。それで仕方ないから滞在期間を伸ばして、オマエラを追跡する事になったんだ。どうせ少々帰るのを延期しても、タイムマシンだから予定通り現代には着けるからな。それにこの先、俺だけリゾートに戻ったんじゃ、現代に帰ってから皆の話についていけないじゃん」
俺はこの時は素直に言えた。
「ありがとう、吉岡」
「よせよ、それよりその娘に感謝しろよ。俺達がこのヘリでオマエを追いかけたところ、草原の中で一生懸命オマエを担いで山を降りようとしていたんだぜ」
俺はミズハを見た。
彼女は恥ずかしそうに横を向いた。
「ありがとうミズハ」
「いいんだよ、アンタのおかげで、あたし達の里も救われたんだから」
と言って、うれしそうに笑った。
俺は吉岡の方を向き直り
「でもよくここにいる事がわかったな?」
と聞くと
「オマエらが持っていった警備員室のリュックに、トランシーバーがあるんだよ。こっちから呼び掛けた所、柴崎から応答があった。それで将門の館に閉じこめられている事、そしてオマエが筑波山に登った事などを聞いて、まず斎藤さんと柴崎の兄さんが貢ぎ物を持って将門の館に挨拶に行き、柴崎達と面会した。次に筑波山上空を飛んでオマエを探したんだが、見つからなかった。そこで先に山頂の李高仙人に会って、オマエを待っていたのさ」
「だったらどうして、俺が李高仙人に会っている時に出てきてくれなかったんだ?」
俺は不思議に思って聞くと、李高仙人が
「おぬしが急ぎすぎるのじゃ。おぬしの仲間が下に捜索に行っている間に、行き違いでおぬしがやってきた。傷もかなり負ってるので、仲間が来るまで少し休ませてやろうと思っておったのに、急いで山を降りてしもうた。そこで後からおぬしの仲間と追いかけて来たというところじゃ。ま、おぬしの覚悟のほどを見たいというのもあったがの」
こんのヒネクレジジイが!
俺は心の中で毒づいた。
斎藤さんがやって来て言う。
「麓よ、着陸するわ。将門が陣を張っている場所から見えない所にヘリを降ろすから、我慢して歩くのよ」
やっぱり彼女は怒っているらしい。俺の顔を見ようとしない。
その時、彼女の後ろから、体のがっちりした男の人が出てきた。
一目でわかった。柴崎の兄さんだ。
俺は何と言っていいか解らずモジモジしていると
「しかしスゴイ事をやったね」
と予想外に柔らかい調子で話しかけて来た。
顔を見ると、呆れたように笑っている。
「ともかく命だけは無事で良かった。これで君らに何かあったら、僕だけでなくこの斎藤さんも僕の上司も、リゾートの責任者まで首が飛ぶところだったよ」
斎藤さんはすぐに言った。
「みんなを連れてきたら、すぐに帰るのよ!」
俺は焦った。海月をこのままにしては帰れない。
そのために来たのだ。
「待ってください!海月がまだ危ないんです。今帰る訳には行きません。もう少し待って下さい!」
斎藤さんは呆れて言った。
「あなた、こんな目に会って、まだそんな事を言ってるの?みんなだって危険にさらしたんでしょ?」
俺は下を向いた。
だが意外な事に柴崎の兄さんが助け舟を出してくれた。
「きっと君はそう言うと思っていたよ。ここまでやったんだもんな。いいよ、もう少し頑張ってみなよ」
と言ってくれたのだ。
俺は驚いて柴崎の兄さんの顔を見つめた。
「何言ってるのよ!ここからすぐに帰るに決まってるでしょ!」
彼女は驚いて声を上げた。
だが柴崎の兄さんは
「いや、せっかくみんなでここまで来たんだ。中途半端じゃ今までの苦労の意味が無くなる。それにそこまで好きな女の子ができるなんて、一生に一度あるかないかの事だよ。もう後2・3日のことなんだ。待ってやるべきだよ。だけど今度は危険が無いように頼むよ。僕等はヘリで様子を見ている」
と言ってくれた。
その時ミズハがショックを受けたような顔をしているのが視界に入ったが、俺はその意味には気付かなかった。




