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夏休みの思い出は平安で  作者: 震電みひろ
43/68

43、仙人の回答は

俺はミズハにささえられ、李高仙人の住む小屋に入った。

腹を刺された雅盛も、ミズハの仲間に運びこまれてくる。


李高仙人は雅盛の様子を見ると

「うむ、命は助かる」

と言い、手当をし始めた。


俺の傷も見てくれる。

へんな茶色の塗り薬を塗ると、冷たい緑色のお茶らしいものを出してくれた。

「飲むがいい」

その言葉に従う。

苦いが、冷たくておいしいお茶?だ。頭がスッキリしてくる。

先ほどまでの現実感喪失から、徐々に思考が戻ってきた。


頭がハッキリしてくると、俺は自分の置かれている立場を思い出す。

「李高仙人、お願いです。俺と一緒に山を降りてください!」

俺はいきなり切り出した。

仙人は

「どうしてワシが山を降りるのだ?」

と聞いてくる。

「あなたを連れていかないと、俺の友達の命が危ないのです」

と言うと仙人は静かに

「ワシにとってはその者の事は関り合いの無いこと。なのにどうして行かねばならない?行けばワシの命が危なくなるかもしれぬと言うのに?」

と言った。俺は

「そんな事は無いと思います。ただ李高仙人を軍師としてお招きしたいという事ですから」

とウソをついた。

だが仙人はそれもお見通しで

「それは今、おぬしが口から出任せで言ったのであろう。たとえ将門が真にワシを軍師として招きたいという事であっても、ワシがそれを断ればやはりワシを殺すやもしれぬ。結局ワシはわが身を考えれば、行かぬ方が良いという事になる」

俺は何も言う事が出来なかった。

「世の中とは、そういうものだ。自分だけの都合を考えれば、他人の都合は成り立たぬ事が多い。おぬしもそうして貞盛の残党やミズハの仲間を殺めたのではないか?」


俺は仙人を睨みながら言った。

「無理矢理にでも連れて行くことだって出来るのですよ」

彼は相変わらず淡々と言う。

「どうやってだ?おぬしのその武器で脅しながらか?だがここ筑波の山はワシの庭。いつでも好きな時に逃げられるのだぞ」

確かにそうかもしれない。

俺は下を向いた。これからどうすればいい?


「お願いです!本当に友達の命が危ないのです。どうか一緒に来て下さい。仙人の命は私がお守りします。時間が無いのです!」

俺は額を地面にこすりつけて頼んだ。口惜し涙が出てくる。

彼はただ飄々と

「そう急ぐな!時間はある。それにおぬし自身がその傷では、しばらく休まねば身が持たなかろう。ついでに言うておくが、ワシは将門の軍師になどならんぞ。別に貞盛の軍師にもなっておった訳では無いからな」

時計を見る。もう3時半を回っていた。

時間があるどころじゃない。

今すぐに山を降りても、ギリギリ間に合うかどうかだ。

「日没まであと3時間もありません。一緒に山を降りてください。お願いです」

俺の必死の願いも、李高仙人はどこ吹く風だ。


俺はベレッタを抜いた。

仙人の足元に向けて1発撃つ。

銃声が響いた。


「次はあなたの足を撃ちます。手、腹、胸と順番に打ち込みます」

彼はまったく動じなかった。俺を無視する。

俺は至近距離で、李高仙人の服裾を撃った。


だめだ。どうしようとこの男は動かない。


俺はベレッタをホルスターに収め、外に出ようとする。

「どこに行くのじゃ?」

仙人の声がする。

俺は振り返り

「傷の手当、ありがとうございました。数々の御無礼をお許し下さい」

と言って頭を下げた。


ミズハが腕にすがりつく。

「どうするの?アンタ」

俺は彼女を見つめ

「ともかく俺が帰らないと仲間が殺される。俺が日没までに戻れば、俺1人の命で済むかもしれない。それにどうせダメならみんなと一緒に死にたい。ここまで来てくれた奴らと一緒にね。卑怯者とは思われたくないんだ」

と説明した。

彼女の目が潤んでいる。

「あたしも一緒に行くよ。あたしがいれば帰り道もわかるだろ、なっ」

俺は感謝の気持ちを込めてうなずいた。


小屋を立ち去る時

「やれやれ、急がず事を見極めた方が良い場合はあるのに・・・」

という声が聞えた。


帰りは山を駆け降りた。

何度転んだか知れない。

ミズハのおかげで「木霊」「陽炎」は通らずにすんだ。

だが、出血のためだろうか。すぐに息が切れる。

それに昨夜からほとんど寝ていない上、山登りと戦いとで、俺は力を使い果たしていた。

「大丈夫?」

時々ミズハが俺を気に掛けてくれるが、彼女にも遅れてばかりいる。


汗と汚れで傷口も泥だらけだ。そこから常に鈍い痛みが走る。

目が汗で霞んでいる。

それは体力が無くなっているためなのか、判断できない。

ただ足だけを動かした。

もはやミズハの姿も見えなかった。

森を抜けて最初の戦闘があった草原まで来た時、ついに俺は倒れて意識を失った。

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