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夏休みの思い出は平安で  作者: 震電みひろ
42/68

42、筑波山の戦い(その9)、貞盛残党との死闘2

仕方が無い。

相手は正々堂々と闘おうとしている。

ここで逃げれば、ミズハ達の支持も得られないだろう。


俺は立ち上がった。

「俺は宮元駿馬。李高仙人に会いたい。それだけだが、どうしても闘わねばならないのか」

雅盛は答えた。

「いた仕方あるまい。おぬしを李高仙人の所に通す訳には参らぬ。ところでおぬしは、この筑波の山衆の娘を味方に付けておるな」

俺は一瞬ミズハの方を振り返ったが黙っていた。

「やはりな、子春丸のやり方をワシは好かぬ。いずれシッペ返しを食らうであろうと思っておったが、やはりな」

彼は剣を俺の方に置いた。

「さあ、取られよ、いざ勝負!」


俺はその剣を拾った。

構える。

正直言って剣道はあまり得意ではない。体育の授業でやったぐらいだ。

それがまさか真剣を持って戦う事になろうとは。


この時代の刀は、通常の反りが入った刀以外にも、直刀と言われるまっすぐな刀もあった。

そして直刀には、両刃の剣と片刃の剣と両方ある。


今、俺が持っているのは両刃の剣だ。

対して雅盛が持っているのは、通常の反り入った刀だ。

向こうの刀の方が少し長い。

だが身長は俺の方が10センチ以上高いので、リーチを入れると同じくらいかもしれない。


真夏の太陽がジリジリと照り付けてくる。

セミの声もやんでいる。

一番暑い時刻だ。


俺は隙を見て、雅盛をベレッタを撃つつもりだ。

剣での勝負じゃあ勝ち目がない。


雅盛が切り付けてきた。

剣で防御する。

素早い!

あの小さい体でこの重い剣を、どうやってあんなに素早く振れるのか?

防御した剣を持つ手が、ジンと痺れる。

剣道で言えば小手、面、胴の連続技だろうか。

そこを”切る”というよりは”突き刺す”ように攻めてくる。

俺は防戦一方だ。

徐々に追い込まれていく。


このままではいけないと思い、思い切って剣を横に薙ぎ払った。

雅盛は楽々と避けると、サッと小手の要領で俺の右手を切った。

すぐに手を引いた。深くはないがパックリと斬られている。

またもや俺は追い込まれていく。

血が右手から手のひらの方に流れて滑りやすい。


次に雅盛が大きく打ち込んで来た。

俺はそれを剣で避けようとする。

すると雅盛は剣を絡めとるように、急に剣を跳ね上げた。

俺は剣ごと体が泳ぐ。

その俺の胴めがけて、雅盛は剣を打ち降ろして来た。

かろうじて身をひねってよける。

剣は取り落としていた。


雅盛は静かに俺が落とした剣を見つめると、無表情にこっちを見た。

俺はレスリングのクラウチング・スタイルのように腰を落とし、両手を心持ち前に出して構える。

ベレッタを抜く一瞬だ。


だが彼は剣をこっちに蹴りよこした。

俺が拾うのを待つ。

相手がこうフェアに戦うのに、俺が拳銃を使う訳にも行かなかった。

俺は黙って剣を拾った。


ふたたび剣での打ち合いが始まった。

と言っても俺は防ぐだけだが。

雅盛はノドに向かって突きを入れてきた。

それを避けようと、俺は剣を右から左に払う。

だが、それが向こうの作戦だった。

俺が自分で振った剣のせいで自分の視界をふさいだ瞬間、太腿に焼けるような熱さを覚えた。

右の太腿を雅盛の剣が刺していた。

貫いてはいないが、刃先は5~6センチは潜りこんでいる。

雅盛は素早く剣を抜いて戻していた。

俺は思わず後ずさる。


それから2、3撃はかわしたが、4撃目の攻撃で、俺は仰向けにひっくり返ってしまった。

雅盛が頭上にせまった。

まぶしい真夏の太陽で、彼の顔は逆光で見えない。

正直言って半分あきらめた。

ここまで自分でもよくやったと思う。皆にはあの世で謝ろう。

「覚悟!」

雅盛の声が聞えた。


その瞬間、俺の頭の中で何かはじけた。

雅盛の剣がスローモーションのように、俺めがけて振り下ろされる

俺はその刃の根本を、右手で平手打ちしながら身体を起こす。

同時に左手で守り刀を抜いて、体ごと雅盛にぶつかるように腹に突き刺した。


雅盛は間近に俺の顔を見て、驚いたような表情でゆっくりと倒れる。

入れ替わるように、俺が立ち上がった。


俺の回りだけ、時間の感覚が無くなったようだ。

真夏の暑い太陽の下で、俺は茫然と立ち尽くした。

全てがスローモーションのようだ。

後ろで人の声が聞える。

どうやらミズハ達の仲間が、貞盛の残党を捕らえているようだ。

兵士の哀願の声も聞えた。

足元では雅盛がうめいている。

その全てが、俺にはどうでもよく感じられた。


そうだ、この世界の全ては俺には無関係のハズだった。

俺がこの手で直接人を刺すなんてあろうハズもない。

いわんや、俺が日没までに帰らなかったからと言って、みんなの命が危なくなるなんて、ある訳ないじゃないか。

全て俺の思い込みで、目が覚めたら部屋でうたた寝でもしてるに違いない。

きっとそうだ。

疲れた、それに体のアチコチが痛い。

もう何もかも忘れて、このまま倒れて眠ってしまおう。

現実感を喪失している俺の意識に、唯一滑り込んで来た言葉があった。

「ワシを探しておるようだが?」

俺は腑抜けたように声の方を見た。

作務衣というのだろうか?

そんな胴着を来た初老の男が立っていた。

「ワシが李高じゃ」

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