41、筑波山の戦い(その8)、貞盛残党との死闘1
そこから十五分も行かないうちに、前方が明るくなってきた。
森が終るのだ。
「山頂が近くなってきたよ。でもこの森が切れた所で、平氏のヤツラは待ち伏せている。どうする?」
「どこかで相手の様子を見られる場所はないかな?」
俺の問いに彼女は
「あるよ。ちょうどこの道の手前を左手に回れば見られる所がある。こっちだよ」
彼女は左側の茂みに入っていった。
俺も続く。
やがて崖になっている場所に出た。
「この崖を登れば、ヤツラの様子を見られるよ」
俺とミズハはその崖をよじ登った。
崖は砂礫で崩れやすいので、雑草を手掛かりにして登る。
最後に岩をよじ登ると彼女の言った通り、森の出口から開けた所全体が見回せた。
目の前に1人の兵士が潜んでいる。
男は出口の方を見入っていた。
こちらには気づいていない。
ミズハはそっと見張りの兵士に近寄り、2Mくらいの距離から飛び掛かると、一瞬で後ろから心臓をえぐった。
さすがに手慣れたものだ。
男は声も無く崩れた。
俺は背筋がゾッとする。
俺が6人倒して今彼女が1人倒したから、残りの敵は8人のはずだ。
よく見てみると、森の入り口近くに左右に1人づつ、広場の中程に1人づつ、一番山頂に近い所に1人づつと配置されている。
俺が広場の中程まで来たら、包囲して射殺すつもりだったのだろう。
残りの2人の姿は見えない。
彼女が森の入り口側の2人と中央反対側の1人を、俺が中央手前側の1人と山頂の2人を、それぞれ始末する事に決める。
そう決まると、ミズハは音の無く立ち去った。まるでネコみたいだ。
俺は正面のヤツに近寄る。
だがその男は横向きになっていて、中々忍び寄れない。
俺は焦った。ジッとチャンスを待つ。
彼女の方は既に1人始末したようだ。
俺は気が急いていた。
ちょっと無謀だったが、剣を低く構えて男に向かって突進した。
だが相手は横向きになっていたため、すぐに気付かれた。
男は俺の剣を盾で防ぐ。
だが男も、思いがけない方向から俺が襲ってきたので慌てたらしく、そのまま広場の真ん中に飛び出して叫んだ。
「敵襲だ!!」
俺は男に追いすがって、足を払うように剣を振るった。
男はもんどりうって転げ回る。
あたりの敵が一斉にこっちに気付いた。
矢を放ってくる。
俺は盾を持って急いで元の位置に戻り、木の影に隠れる。
足を斬られた男は仲間の方へ這いずって行く。
俺はあらためて相手の数と場所を確認した。
さっきの6人以外に、一段高くなった場所に1人いることがわかった。
もう1人がどこかにいるはずだが解らない。
ミズハは大丈夫だろうか。
俺を包囲する作戦が失敗したため、敵も一ヶ所に集まろうとしているようだ。
やがて一ヶ所から、矢が連続して飛来してくるようになった。
チャンスだ。相手は固まっている。
俺はベレッタを立て続けに4発撃った。
悲鳴が聞えると共に、そこに集まっていたヤツラが全員逃げ出そうとした。
「待て!!」
良く通る澄んだ声が聞えた。
左手の藪の中から声の主が姿を表わす。
平安時代の武士の格好をした、まだ若いその男が仲間に向かって叫んだ。
「見慣れぬ武器を持った相手とはいえ、一人相手に皆が逃げ出すとは何事ぞ!それでも勇猛を持って知る坂東武者か!恥を知れ!そこの方!そちはたった1人で、よくぞここまで来られた!感服いたす。ならばこの平雅盛、一対一で勝負いたしたい。参られよ!」
俺は出ていくかどうか考えていると、ミズハがやってきた。
「アイツが親玉さ。でもアイツ自身はけっこういい奴で、あたしらに何かしたって訳じゃないんだ。でもまだ若くて兵隊がアイツの言う事を聞かないんだよ。実際に兵隊を仕切っているのは、瑞江の子春丸ってヤツだけどね。子春丸にはアタシらも随分恨みがあるんだ。アンタが足を切ったヤツさ」
「俺が出ていったらどうなる?」
「もちろん真剣勝負だろうね。でもここで出ていかなかったら、残りのヤツラ全部を倒さないとならないよ。どうする?」




