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夏休みの思い出は平安で  作者: 震電みひろ
41/68

41、筑波山の戦い(その8)、貞盛残党との死闘1

そこから十五分も行かないうちに、前方が明るくなってきた。

森が終るのだ。

「山頂が近くなってきたよ。でもこの森が切れた所で、平氏のヤツラは待ち伏せている。どうする?」

「どこかで相手の様子を見られる場所はないかな?」

俺の問いに彼女は

「あるよ。ちょうどこの道の手前を左手に回れば見られる所がある。こっちだよ」

彼女は左側の茂みに入っていった。

俺も続く。


やがて崖になっている場所に出た。

「この崖を登れば、ヤツラの様子を見られるよ」

俺とミズハはその崖をよじ登った。

崖は砂礫で崩れやすいので、雑草を手掛かりにして登る。


最後に岩をよじ登ると彼女の言った通り、森の出口から開けた所全体が見回せた。

目の前に1人の兵士が潜んでいる。

男は出口の方を見入っていた。

こちらには気づいていない。


ミズハはそっと見張りの兵士に近寄り、2Mくらいの距離から飛び掛かると、一瞬で後ろから心臓をえぐった。

さすがに手慣れたものだ。

男は声も無く崩れた。

俺は背筋がゾッとする。


俺が6人倒して今彼女が1人倒したから、残りの敵は8人のはずだ。


よく見てみると、森の入り口近くに左右に1人づつ、広場の中程に1人づつ、一番山頂に近い所に1人づつと配置されている。

俺が広場の中程まで来たら、包囲して射殺すつもりだったのだろう。

残りの2人の姿は見えない。


彼女が森の入り口側の2人と中央反対側の1人を、俺が中央手前側の1人と山頂の2人を、それぞれ始末する事に決める。

そう決まると、ミズハは音の無く立ち去った。まるでネコみたいだ。


俺は正面のヤツに近寄る。

だがその男は横向きになっていて、中々忍び寄れない。

俺は焦った。ジッとチャンスを待つ。

彼女の方は既に1人始末したようだ。


俺は気が急いていた。

ちょっと無謀だったが、剣を低く構えて男に向かって突進した。

だが相手は横向きになっていたため、すぐに気付かれた。

男は俺の剣を盾で防ぐ。


だが男も、思いがけない方向から俺が襲ってきたので慌てたらしく、そのまま広場の真ん中に飛び出して叫んだ。

「敵襲だ!!」


俺は男に追いすがって、足を払うように剣を振るった。

男はもんどりうって転げ回る。


あたりの敵が一斉にこっちに気付いた。

矢を放ってくる。


俺は盾を持って急いで元の位置に戻り、木の影に隠れる。

足を斬られた男は仲間の方へ這いずって行く。


俺はあらためて相手の数と場所を確認した。

さっきの6人以外に、一段高くなった場所に1人いることがわかった。

もう1人がどこかにいるはずだが解らない。


ミズハは大丈夫だろうか。


俺を包囲する作戦が失敗したため、敵も一ヶ所に集まろうとしているようだ。

やがて一ヶ所から、矢が連続して飛来してくるようになった。


チャンスだ。相手は固まっている。

俺はベレッタを立て続けに4発撃った。

悲鳴が聞えると共に、そこに集まっていたヤツラが全員逃げ出そうとした。


「待て!!」

良く通る澄んだ声が聞えた。

左手の藪の中から声の主が姿を表わす。

平安時代の武士の格好をした、まだ若いその男が仲間に向かって叫んだ。


「見慣れぬ武器を持った相手とはいえ、一人相手に皆が逃げ出すとは何事ぞ!それでも勇猛を持って知る坂東武者か!恥を知れ!そこの方!そちはたった1人で、よくぞここまで来られた!感服いたす。ならばこの平雅盛、一対一で勝負いたしたい。参られよ!」


俺は出ていくかどうか考えていると、ミズハがやってきた。

「アイツが親玉さ。でもアイツ自身はけっこういい奴で、あたしらに何かしたって訳じゃないんだ。でもまだ若くて兵隊がアイツの言う事を聞かないんだよ。実際に兵隊を仕切っているのは、瑞江の子春丸ってヤツだけどね。子春丸にはアタシらも随分恨みがあるんだ。アンタが足を切ったヤツさ」

「俺が出ていったらどうなる?」

「もちろん真剣勝負だろうね。でもここで出ていかなかったら、残りのヤツラ全部を倒さないとならないよ。どうする?」

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