39、筑波山の戦い(その6)、木霊
森の中を進んで行くと、大岩が重なって今にも倒れそうになっている場所に出た。
道はその大岩の間を通っている。
ここなら知っている。「弁慶の七戻り」だ。
小学校の時の遠足を思い出した。
あの時はこの直前に茶店があって、そこでみんなで弁当を食べたんだっけ?
思えば普通の生活から何て遠い所に来たんだろう。
ついこの前まで、俺が平安時代で銃を人に向かって撃っているなんて、考えもしなかった。
その上この山登りには、みんなの命もかかっている。
疲れていたのか、ボンヤリそんな事を考えていたせいなのだろうか?
岩の重なった隙間を出る時、落ちていた木の枝を踏んで足を滑らせた。
地面が濡れていたため、そのまま尻餅をつく。
ブウン!ガコォッ!
目の前を何かが風を切ったかと思うと、大音響とともに岩全体が振動した。
見ると、俺が足を滑らせなかったら立っているはずの地点に、巨大な丸太が横になっていた。
恐る恐る調べてみると、折れた木の枝を踏んだ瞬間に、ロープで釣り下げられていた丸太が落ちてきて、左手の岩に叩きつけるという仕掛けになっているらしい。
デッドフォール・トラップというやつだ。
俺は青くなった。
何だ?ワナの前になったら、俺を助けてくれる手筈になっていたんじゃないのか?
それともやはり俺を殺す事にしたのか?
俺はパニックになった。しかしここで逃げ出す事もできない。
丸太を乗り越えると慎重に進んだ。
全神経を集中する。
ここはもうほとんどケモノ道になっている。
両側から草が覆い茂っていて足元が見えないので、余計に神経を使う。
剣を杖のようにして、前を確認しながら歩いた。
一ヶ所地面に変な感触があった。
剣でそこの土をかき分けてみると、予想通り落とし穴があった。竹槍が植わっている。
落とし穴を脇によけて先に行こうとして、その横の大木に手をかけた時だった。
木の影から「バチン」という音と共に、櫛のようになった仕掛けが弾けてきた。
櫛の歯は尖っている。
ザクッ、と左手の肘の下の皮膚を、7センチの長さに渡ってえぐった。
思わず悲鳴が上げる。
運良く左手に剣を持ち変えていたため剣が盾になり、体には櫛の歯が刺さらずにすんだ。
落とし穴と櫛のワナを越えた先で、俺はうずくまった。
櫛の歯には茶色い物が塗られている。
毒に違いない。
血が止らなかった。
俺は毒を出すために出来るだけ血を絞り出した。
幸い筋肉に刺さらず、皮膚と皮下脂肪を削りとっただけだ。
だが痛い。竹筒の水で傷を洗い流す。
そしてTシャツの裾を再び切り裂いて2本包帯を作り、1つは傷の部分、もう1つは二の腕に巻き付けた。止血のためだ。
短い木の棒を拾ってきて、二の腕の裏側でねじった。
ここに動脈があるので、とりあえず出血は止まった。
10分ほどじっとしている。ともかく出血が収まるのを待った。
傷口が焼けるようだ。
疲れもあるのか、俺は無防備に木の根元に寄りかかり、足を投げ出して休む。
もし今だれかが襲ってきたら、ひとたまりもないだろう。




