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夏休みの思い出は平安で  作者: 震電みひろ
34/68

34、筑波山の戦い(その1)

【前回までのあらすじ】

高校2年生の宮元は、同級生の柴崎、宇田川、吉岡と夏休みに「画期的なリゾート」にやって来た。

そこは企業が開発したタイムマシンで、平安時代に作られたリゾートであった。

そこで出会った白拍子の少女・海月に心を惹かれた宮元だが、彼女は12日後に坂東の地で行われる「龍神祭り」で生贄として死ぬ運命だと言う。


彼女を助けるためにリゾートを脱走した宮元達3人は、坂東の地へ向かう。

だが坂東の有力者・平将門の屋敷で3人は軟禁される。

将門は宮元に、解放の条件として「筑波山に住む李高仙人を連れて来い」と言う。

だが筑波山には、将門と敵対する平貞盛の残党が巣食っていた。

登山道の最初は、麓の神社の鳥居から始まる。

神社の中に誰か潜んでいるかもしれないが、一々そんな事を気にしていたらとても日没までに帰って来られない。

俺は派手な音は立てないように注意しつつ、かつ出来るだけ早く走った。

一気に神社の境内を抜ける。

社の後ろは腰までの高さの柵だ。

そのまま一気に飛び越えた。

ここからがきっと神社の神域になっているのだろう。

そういえば何かの本で、大昔は山全体が御神体で信仰の対象だった、というのを読んだ事がある。

いちおう細い樵道がついている。

俺はどんどん走った。

傾斜があるため、すぐに足は重くなってくる。

そのうちかなり傾斜がきつくなってきた。

もう走れるような傾斜ではない。

それからしばらくは雑木林の中を、木や草につかまるようにして登っていった。

しばらく進むと、通ってきた樵道を遮るようにしめ縄が張ってある。

ここからが入らずの山の結界らしい。

飛び越えようかと思ったが、なぜかその時アレキサンダー大王の「ゴーディオンの結び目」の事が思い出されて、俺は守り刀でそのしめ縄を断ち切った。

ヒーーーッ!

その瞬間、山全体に何かの声が木霊したような気がした。

何だ?

俺はベレッタを引き抜き、周囲の様子をうかがった。

だが別に何もない。

しばらく用心しながら進む。

途中で突然藪の中から、鳥の集団が派手な羽音と共に飛び立った。

身構えて周囲を見回すが、何もない。

ベレッタを腰に戻し、先を急ごうとすると前の方に何かが立っている。

そこまで行ってみた。

それは木の板だった。

そこにまだ書かれたばかりの濡れた墨で、こう書いてあった。

「ここは入らずの山なり。神罰恐るるならば早々に立ち去れ」

いつの間にこんな物が置かれたのだろう?

鳥が飛び立つ時以外は前を見ていた。

目を離したのはわずか5、6秒のはずだ。

誰かが俺を見張っている。

俺はかなり神経を研ぎ澄ませて回りを見張ったが、以前として誰もいないし、何の気配もなかった。

俺はまた先に進んだ。

どんなに注意をしていても、山の中には枯れ葉や小枝がたくさん落ちているので、どうしても音を立ててしまう。

山の中程まで登っただろうか?

突然視界が開けた。なだらかな登りの草原になっている。

森を出る前に、木の影に隠れて様子をうかがう。

人の姿は見えないが、あちこちに岩や草むらが点在しているので油断はできない。

腕時計をみると9時頃だ。けっこう早いペースで登っている。

この調子なら日没なんて楽勝なのだが。

意を決して草原に出る。ビビッていたって仕方が無い。

俺はこのゆるやかな登りの草原を早く抜けようと、全速力で走った。

草原の中程まで進んだ時だろうか。

突然、前の方から矢が降ってきた。

俺は頭を押さえて、横にある大岩の影に駆けこんだ。

雨のように矢が降ってくる。

カチカチとひっきりなしに岩に矢が当たった。

矢は上から斜め45度の角度で降ってくる。

射手の姿は見えない。

俺は勘違いをしていた。弓道部の練習を見ていて、矢とは一直線に狙うものだとばかり思っていた。

だから基本的に相手の姿を見つければ大丈夫だし、遠距離から狙えないとばかり思っていたのだ。

今の様子からわかるように、敵は空に向かって矢を打っている。

放物線を描いて矢は飛んできているのだ。

しかもその正確な事!確実に俺のいる地点に、矢は届いている。

とりあえずここは死角にはなっているので、矢は岩に当たって何本かがすべり落ちてくるくらいで、俺には当っていない。

1本の矢だけが飛んでくるのなら、よく見ていればかわせるだろう。

しかしこんなに何本も雨のように降ってくるのではかわしようもない。

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