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夏休みの思い出は平安で  作者: 震電みひろ
33/68

33、筑波山へ(その2)

翌朝、と言っても3時間くらいしか経っていないだろうが、昨夜と同じ女性が俺を呼びに来た。

みんなすぐに体を起こした所を見ると、やはり誰も眠っていなかったらしい。

俺はジーンズとTシャツ、アーミーナイフをポケットに入れ、後はベレッタだけを腰につけた。

走らなければいけないだろうから、出来るだけ身軽にする。

みんなは無言で見守った。

俺は体を軽く動かし、ジャンプすると言った。

「少し寝たから体の疲れは取れてるよ。調子はいい」

宇田川が

「ムリすんなよ。」

と肩をたたいた。

部屋から外に出る時

「しっかり頼むぜ、メロス!」

という柴崎の声が聞えた。

俺は軽く手を上げて答えた。


まだ暗い中、最初に俺達が将門に接見した場所に連れて来られた。

俺達の荷物が置いてある。

弓矢や剣、盾に鎧まであった。

兵士が近くに寄ってきて尋ねた。

「どれを持っていく?」

俺は首を振って答えた。

「どれもいらない」

兵士は驚いたようだ。だが何も言わなかった。

門の前まで兵士が誘導する。

そこには2頭の馬と夢丸が待っていた。

夢丸は俺の様子を見ると

「武器や盾は持っていかないのか?」

と聞いた。

俺は

「ああ、身軽の方がいいと思ってな」

と答える。

彼は心配して言ってくれた。

「あそこには貞盛の残党がいるんだ。必ず襲ってくるぞ。武器を持っていった方がいい」

「心配ありがとう。だけど日没までに帰らなければならないんだ。少しでも走れるように身軽の方がいい」

俺達は馬に乗ると、まだ暗い中を筑波山に向かって走った。


筑波山の麓(ここは貞盛の本拠地石田宅と、海月の故郷水守の間くらいらしい)まで15キロほどの距離を、1時間以内で到着した。

もうあたりはうす明るくなっていた。

夢丸が言う。

「それじゃあここからはあんた1人で行くんだ。日没までにここに戻って来ないと、アンタの友達の命は無くなる。ここでお館様もみんないらしてお待ちになっているだろう。それからこれはお館様よりご拝領の荒魂避けの守り刀だ。頑張ってな」

夢丸は刃渡り20センチほどのきれいな飾りの付いた小刀を、俺に渡した。

俺はその小刀をベルトにくくり付けると聞いた。

「夢丸。アンタただの手下にしては、将門様に対して色々話ができすぎるように思う。本当はアンタの立場は何なんだ?」

夢丸は答えた。

「俺はお館様の弟、平将武だ。あんたらの事は、これでも一応お館様に取り成してはみたんだが・・・すまない事になったと思っている」

俺は言った。

「いいよ、アンタのせいじゃない。それよりこの山に登る方法について何か知らないか」

彼は残念そうに言った。

「いや、俺も詳しくは知らない。ここは領地ではなかったし、入らずの山だからな」

俺はあきらめた。

「そうか、それじゃあ無事を祈っていてくれ!それから俺は必ず戻ってくるから、もし遅れそうになっても、お館様が短気を起こして処刑しないように頼むよ」

そう夢丸に言うと、俺は東の赤くなり始めた空をバックに、そびえたつ筑波山に登り始めた。

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