33、筑波山へ(その2)
翌朝、と言っても3時間くらいしか経っていないだろうが、昨夜と同じ女性が俺を呼びに来た。
みんなすぐに体を起こした所を見ると、やはり誰も眠っていなかったらしい。
俺はジーンズとTシャツ、アーミーナイフをポケットに入れ、後はベレッタだけを腰につけた。
走らなければいけないだろうから、出来るだけ身軽にする。
みんなは無言で見守った。
俺は体を軽く動かし、ジャンプすると言った。
「少し寝たから体の疲れは取れてるよ。調子はいい」
宇田川が
「ムリすんなよ。」
と肩をたたいた。
部屋から外に出る時
「しっかり頼むぜ、メロス!」
という柴崎の声が聞えた。
俺は軽く手を上げて答えた。
まだ暗い中、最初に俺達が将門に接見した場所に連れて来られた。
俺達の荷物が置いてある。
弓矢や剣、盾に鎧まであった。
兵士が近くに寄ってきて尋ねた。
「どれを持っていく?」
俺は首を振って答えた。
「どれもいらない」
兵士は驚いたようだ。だが何も言わなかった。
門の前まで兵士が誘導する。
そこには2頭の馬と夢丸が待っていた。
夢丸は俺の様子を見ると
「武器や盾は持っていかないのか?」
と聞いた。
俺は
「ああ、身軽の方がいいと思ってな」
と答える。
彼は心配して言ってくれた。
「あそこには貞盛の残党がいるんだ。必ず襲ってくるぞ。武器を持っていった方がいい」
「心配ありがとう。だけど日没までに帰らなければならないんだ。少しでも走れるように身軽の方がいい」
俺達は馬に乗ると、まだ暗い中を筑波山に向かって走った。
筑波山の麓(ここは貞盛の本拠地石田宅と、海月の故郷水守の間くらいらしい)まで15キロほどの距離を、1時間以内で到着した。
もうあたりはうす明るくなっていた。
夢丸が言う。
「それじゃあここからはあんた1人で行くんだ。日没までにここに戻って来ないと、アンタの友達の命は無くなる。ここでお館様もみんないらしてお待ちになっているだろう。それからこれはお館様よりご拝領の荒魂避けの守り刀だ。頑張ってな」
夢丸は刃渡り20センチほどのきれいな飾りの付いた小刀を、俺に渡した。
俺はその小刀をベルトにくくり付けると聞いた。
「夢丸。アンタただの手下にしては、将門様に対して色々話ができすぎるように思う。本当はアンタの立場は何なんだ?」
夢丸は答えた。
「俺はお館様の弟、平将武だ。あんたらの事は、これでも一応お館様に取り成してはみたんだが・・・すまない事になったと思っている」
俺は言った。
「いいよ、アンタのせいじゃない。それよりこの山に登る方法について何か知らないか」
彼は残念そうに言った。
「いや、俺も詳しくは知らない。ここは領地ではなかったし、入らずの山だからな」
俺はあきらめた。
「そうか、それじゃあ無事を祈っていてくれ!それから俺は必ず戻ってくるから、もし遅れそうになっても、お館様が短気を起こして処刑しないように頼むよ」
そう夢丸に言うと、俺は東の赤くなり始めた空をバックに、そびえたつ筑波山に登り始めた。




