31、謁見・平将門(その4)
「えっ?」
そんな簡単な事でいいのか?
これには何か裏があるのではないだろうか?
「もちろんタダ登ればいいのでは無い。筑波の山の頂には李高仙人という男がいる。この男は貞盛の軍師だった男だ。この男を連れてきてもらいたい。明日の日没までにだ」
筑波山?
俺は考えた。
バイクで筑波スカイラインは走った事がある。あとは小学校の遠足で駐車場から登った事があった。
麓から1日で往復できるのだろうか?
考え込んでいる俺を気にせず、将門は続けた。
「さらに筑波の山の麓は貞盛の残党が守っている。我が軍が残党狩りに出ると山に散り散りに逃げてしまうし、軍を引くと出てくるので、中々李高仙人を捕まえられないのだ。できるか?」
できるかと言われても自信はなかった。
しかし選択の余地は無い。
「わかりました。やります」
将門は笑いながら
「よかろう。しかし心しておけ。もしおぬしが日没までに戻らぬ時は、おぬしの連れは全て利根川の雑魚の餌となるからな。それからあの女子の事だが、予定通り明朝この館を発つ。筑波の山より無事戻ってくれば、すぐに後を追いかけるがよかろう。しかしわしが龍神祭りの生贄を止めさせる事はできんぞ。この地方の大事な祭りだからな。もしわしがそれを止めさせたとしたら、配下の族長どもが騒ぎ出しかねん」
「明日はいつ頃出発するのですか?」
俺は何とか海月にこの事を伝えたかった。
「日の出前に筑波の山の麓には行く。夢丸が案内してくれる手筈じゃ。わずかな間だが、少しでも部屋に戻って休むとよかろう」
「最後に彼女に逢わせてもらえませんか?」
俺は必死に頼んだ。
将門も俺を気の毒に思ったのか
「よかろう。だれかに案内させよう。だが明日の筑波行きを忘れぬようにな。眠っておかぬと体が持たんぞ。少しの間だけじゃ」
将門は廊下に出ると人を呼んだ。
俺はどうしても疑問だった事を聞いてみた。
「どうして僕と2人だけで話したのです?僕に危険な銃まで持たせて?僕が刺客だった事も当然考えたはずです」
将門はニヤッと笑うと
「知りたいか?おぬしの本音を知りたかったのよ。それにこれらの品々は、今後わしの役に立ってくれるやもしれん。それにおぬしがわしを狙った所で、おぬしも即座に命を落としていた」
そして天井を指さした。
俺は天井を見上げる。
なるほど、天井に護衛の兵士が潜んでいたのか。
「天井だけではない。床下にもいるぞ」
もし俺が将門に危害を加えようとしたら、上下から串刺しにされていたらしい。
俺はすっかり将門という人物にまいっていた。
所詮、俺達など鼻から相手にならなかったのだ。
あの富士の麓の経験で、この時代の兵士をすっかりナメ切っていた。
さすがは「新皇」と名乗るだけの事はある。
度胸、洞察力、観察眼、人間的魅力、そして用心深さ。
これらが備わっていないと、鵜の目鷹の目で領土をかすめとろうとする豪族たちの統領にはなれないのだろう。
やがて将門の部屋へ案内した女性がやってきて、俺は将門の部屋を後にした。




