29、謁見・平将門(その2)
将門はこの時代には珍しい大男だった。
この時代の男は成人でも160センチくらいの身長しかないのに、将門は180センチ以上ある。
体もがっちりしているが、太っている体型ではない。ラグビー選手型の身体だ。
色は黒いがこれは日焼けのせいかもしれない。
年齢は30才くらいだ。
顔じゅう髭だらけの海賊みたいな顔を想像していたが、これも予想が外れた。
もっと知的なタイプだ。
もっともこの時代の豪族を束ねるのだから、力だけではどうしようも無いだろう。
頭の良さと人徳も必要という事か。
将門は障子の敷居にどっかと腰掛けて、俺達を隅々まで見回して言った。
「おぬし等は変わった装いをしている。いずこから来た?」
目つきは鋭い。
圧倒されている俺達をそのままに夢丸が答えた。
「これらの者どもは唐よりも遠い異国より参られたとの事です。お館様も御存じの右大臣様が招かれた一行と聞いています」
「これよりどこぞに行こうというのか?」
今度は海月が答えた。
「筑波郡水守でございます。そこが私の故郷であり、母が住んでおります。水守では4年に一度の龍神祭りがあり、それまでに帰らねばなりません。私が今年の生贄に決まっているのです。あと4日しかありません。どうぞお通しください」
将門もうなずいた。
「なるほど、龍神祭りに生贄の巫女が遅れる事は許されぬ。もし生贄の巫女が遅れる事があれば逃げ出したものと見られ、一族全ては石で打ち殺される事になっているからな」
「なんちゅうムチャクチャな」
柴崎がつぶやいた。
「よかろう。娘!おぬしは通るが良い。明日、水守まで送り届けてやろう。しかしその他の者はすぐには通すわけにはいかん。最近貞盛めの軍勢を討ち破ったばかりだが、奴は京に逃げきり、またいつ軍勢を集めるか判らんでな。もっと詳しく取り調べねばならん。まあ、おぬしらにも悪いようにはせん、ゆっくり骨休みだと思うてここに居るがよい。何も無ければすぐに帰してやるわ」
「どのくらいですか?」
俺は聞いてみた。
将門はのんびり考えるように
「まあ京や坂東のあちこちの間者や営所に聞いてみるので、早ければ半月ほどじゃろう?」
冗談ではない、ここで半月も過ごしていたら、海月は利根川の藻屑となってしまう。
何のためにここまで来たのかわからない。
「お願いします。僕等もどうしても龍神祭りに出なければならないのです。どうか一緒に行かせてください」
俺は必死に頼みこんだ。
「何故、異国のおぬし等が龍神祭りに出なければならないのだ?」
俺は言葉に詰まった。
まさか「生贄をやめさせるためだ」とは言えない。
そんな事を言えば、余計に行かせてもらえないだろう。
黙っている俺をジロリと睨んで、将門はこう告げた。
「調べが済むまでおぬし等を行かせるわけにはゆかぬ。別に牢には入れぬが、この館から出る事はならぬ。もしこれに背けば、おぬし等1人残らず首と胴が離れる事になる」
そう言い残すと将門は立ち上がり、館の奥に消えていった。




