28、謁見・平将門(その1)
国府台を過ぎたあたりからだろうか。
だんだんと沼や湿地が多くなってきた。
アシも馬に乗った俺達の背よりも高い。
道も沼や湿地を避けるためか曲りくねっている。
回りを背の高いアシに囲まれ、グネグネとうねった細い小道の中は天然の迷路だ。
一体こんな中をどこまで行くのだろうと思っていると、突然目の前が開けた。
利根川に出たのだ。
利根川でも渡し舟に乗る。
ここは普通の舟以外にも、大型のイカダような形で馬も何頭か乗せる事ができるような舟があった。
利根川からは川沿いに、途中鬼怒川に沿って進み、将門の城・鎌輪宿に着いたのは深夜になってからだった。
本来は別の所にいるそうだが、今はここに逗留しているという。
さすがは地方領主というか桓武天皇の末裔だけあって、立派な屋敷に住んでいた。
しかし俺達が知っているような城ではなく、周囲に堀があり塀も高いが、大きな屋敷と言った方がいいような感じだった。
「開門!」
大声で夢丸が叫ぶと、門上にある物見櫓の兵士が合図して門を開けさせた。
門も立派なものだ。
俺達は感心しながら屋敷内に入った。
俺は柴崎に聞いた。
「こういうの荘園っていうのか?」
柴崎は
「うーん、荘園とはちょっと違うんじゃねぇか。ここは豪族の館だからなぁ。これが武士の始まりなんだ。だから貴族の領地と違って、城や基地としての機能も備えているんだ。まぁ中世の武士と違って、そんなに領主と武士の絆が強いわけでもないけどね。どちらかと言うと、豪族連合の一番力を持っている人が、この時代の領主って言った方がいいかな。だからこの屋敷の回りにも、それほど建物は多くないだろう?この屋敷内や回りに住んでいるのが将門直轄の部下で、それ以外は近辺の有力な豪族や農民が、一応将門に味方する事を約束している程度なんだ。だから旗色が悪くなれば逃げ出すのも多いって話だぜ」
屋敷の中は意外に色んな建物があって入り組んでいた。
俺達の回りは武装した兵士が取り囲んでいる。所々に篝火が焚かれている。
馬は門から少し入った馬屋につながれた。
やがて俺達は庭の広くなった所に連れて来られ、正座させられた。
後ろには槍を構えた兵士が立っている。
目の前はどうやら本殿らしい建物だ。障子がしまっている。
その本殿の前の兵士が叫んだ。
「平小次郎将門様のお成りである。ひかえろう!」
兵士が一斉に頭を下げた。夢丸も土下座する。
俺達も合わせて頭を下げた。
障子がサッと開いた。
良く通る太い声が響いた。
「頭を上げいっ!」
俺はそっと頭を上げてみた。そこには仁王立ちになった平将門がいた。




