26、坂東へ(その1)
食事も済んでみんな寝転がった。このまま寝るつもりだ。
夢丸も一緒に横になった。
柴崎が近寄ってくる。宇田川も来た。
「おい、あの男の言う通り一緒に行動するのか?」
俺も起き上がると
「でも他に方法あるのか?何か問題でも?」
と聞くと柴崎は
「あの男が言ってた平将門ってな。平安時代に藤原純友と同じ時期に承平の乱・天慶の乱を起こした有名な人物なんだ。自らを『新皇』と称して朝廷に対立した人物として、歴史に名を残している。平安京を築いた桓武天皇の五代目の子孫にあたるらしい」
俺は興味を持って聞いた。
「それってどんな事で反乱を起こしたんだ?」
「最初は坂東平氏の私闘だったらしい。将門の父親・平良持の遺領をめぐる争いだったと言われている。それを将門の叔父つまり良持の兄弟・国香、良兼、良正が奪い取った事から始まったそうだ。その事は『将門記』という書物に残っている」
俺達のこれから先の旅に役立つ情報だ。さらに俺は聞いた。
「それで最後はどうなった?」
柴崎は難しい顔つきで
「最後は将門が『新皇』と称した事で朝廷に敵対したものとされ、藤原秀郷が討ち取った、という筋書きだ」
ここで一度、柴崎は言葉を切った。俺達の顔を見回して
「だからここで俺達が将門の陣地に入って挨拶をすると言うことは、後々朝廷から反乱に荷担したと思われるかもしれない、と言う事だ」
俺はそれをすぐに打ち消した。
「まさか!ただ単に故郷の母親と会いたいので通してくれ、と言うだけだぜ。そしたら将門の領地を通る人は皆反乱者になるじゃないか。そんな事はねぇだろ」
柴崎はそれでも納得しない顔で
「ただ俺達が通り過ぎるだけで済めばいいかもしれないが、それでは済まないと思うぞ。」
「俺も柴崎と同感だ。俺達の服装や携行品から見るとな」
宇田川も慎重な意見だった。
「だったら聞くが、それほどの実力者が支配している地域で怪しまれながらも、そこを敵地まで無事通してくれると思うか?敵の兵と疑わられて捕まったら、それこそお終いだぜ」
俺は2人に切り替えした。
「それはそうだが・・・。」
「ともかくここで将門側の夢丸と出会ってしまったんだ。「やっぱり一緒に行かない」なんて言ったら余計に怪しまれるに違いない。ここはあいつに頼んで一緒に行く他ないよ」
2人はこの説明でしぶしぶ納得した。
だが2人が寝に入った後、俺自身にも自分の言った事がどこまで正しかったか不安だった。




