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夏休みの思い出は平安で  作者: 震電みひろ
23/68

23、川崎の渡し・脱落

その時、宇田川が突然剣を振るってバイクの前輪のタイヤにたたきつけた。

一気にパンクする。すごい力だ。

「すみません、僕達はまだ帰るつもりは無いので」と言う。

「あなたたち、一体どうする気!現代に帰れなくなるわよ!」

斎藤さんはヒステリックに叫んだ。

「ごめんなさい」

俺はそう斉藤さんに言うと馬にまたがった。みんなも馬に乗る。

と、吉岡は動かずに下を向いていた。柴崎が

「行くぞ、吉岡!」

と呼び掛けると顔を上げて

「俺はここでホテルに戻るよ」

と言った。

「何だよ、今更!」

柴崎がうながすと吉岡は顔を振って

「やっぱりあまりこの時代の事件に深入りするべきじゃないと思う。ここまででも俺達は、十分すぎるほどやり過ぎてるよ。せっかく斎藤さんも来ている時だから、ここらで帰るべきだと俺は思う。今までだけでも2回も危ない目に会っているじゃないか。この先、本当に殺し合いがあったらどうする?俺はもう遠慮するよ」と言った。

「おまえ、それでも友達かよ!!」

言いながら柴崎は馬を降りかけたが、俺が止めた。

「しょうがない、こんな事、強制はできないよ。確かに今までだって危険な目に会ってきたんだし、これからだって会うに違いない。色んな人にかける迷惑を考えたら、吉岡の方が正しいよ。第一、俺のためにみんなをこんな事に巻き込んでいいのかと、自分自身でも疑問なんだ。もしみんなも密かにイヤだと思っているのなら、ここで帰ったほうがいい。今までの事を感謝こそすれ、決して恨みはしないよ。みんなのお陰でここまで来れたんだから・・・」

柴崎が馬を俺の方に寄せた。

「おまえ、今更弱気になって降りるつもりじゃないだろうな」

俺は否定した。

「俺は弱気になんかなってない。1人で行くつもりだ。ただみんなを巻き込むのが恐いだけだ」

「だったらそんなこと言うんじゃねぇ。おまえ1人でこの先無事やって行けると思っているのか?彼女を助けるために行くんだろ?だったらおまえ1人じゃどうしようも無いじゃないか。そんな適当なこと言うな!もしオマエが本当に責任を感じているのなら、彼女を助けるためにも、みんなに土下座してでも一緒に行ってくれって、言うべきじゃないのか」

柴崎がめずらしくシリアスに言った。

俺には返す言葉もない。

柴崎の気持ちは本当にうれしかった。でも一緒に行ってくれの言葉が出なかった。

宇田川が言った。

「もういいよ、出発しようぜ。こんな所で時間を取ってる場合じゃないだろう」

柴崎も話しを打ち切るように言った。

「そうだな、行こうぜ。もう宮元も細かい事を気にすんなよ。俺達は来たくて来たんだからさ」

斎藤さんと吉岡をその場に残し、みんな馬を進め始めた。

俺も最後尾について馬を進めた。みんなの気持ちがうれしかった。

普段冗談ばっかり言って、いいかげんなヤツラなのに。

馬の背に揺られているうちに、いつの間にか俺の目からは涙があふれ出ていた。

俺はみんなには気付かれないように、そっと袖でぬぐった。

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