23、川崎の渡し・脱落
その時、宇田川が突然剣を振るってバイクの前輪のタイヤにたたきつけた。
一気にパンクする。すごい力だ。
「すみません、僕達はまだ帰るつもりは無いので」と言う。
「あなたたち、一体どうする気!現代に帰れなくなるわよ!」
斎藤さんはヒステリックに叫んだ。
「ごめんなさい」
俺はそう斉藤さんに言うと馬にまたがった。みんなも馬に乗る。
と、吉岡は動かずに下を向いていた。柴崎が
「行くぞ、吉岡!」
と呼び掛けると顔を上げて
「俺はここでホテルに戻るよ」
と言った。
「何だよ、今更!」
柴崎がうながすと吉岡は顔を振って
「やっぱりあまりこの時代の事件に深入りするべきじゃないと思う。ここまででも俺達は、十分すぎるほどやり過ぎてるよ。せっかく斎藤さんも来ている時だから、ここらで帰るべきだと俺は思う。今までだけでも2回も危ない目に会っているじゃないか。この先、本当に殺し合いがあったらどうする?俺はもう遠慮するよ」と言った。
「おまえ、それでも友達かよ!!」
言いながら柴崎は馬を降りかけたが、俺が止めた。
「しょうがない、こんな事、強制はできないよ。確かに今までだって危険な目に会ってきたんだし、これからだって会うに違いない。色んな人にかける迷惑を考えたら、吉岡の方が正しいよ。第一、俺のためにみんなをこんな事に巻き込んでいいのかと、自分自身でも疑問なんだ。もしみんなも密かにイヤだと思っているのなら、ここで帰ったほうがいい。今までの事を感謝こそすれ、決して恨みはしないよ。みんなのお陰でここまで来れたんだから・・・」
柴崎が馬を俺の方に寄せた。
「おまえ、今更弱気になって降りるつもりじゃないだろうな」
俺は否定した。
「俺は弱気になんかなってない。1人で行くつもりだ。ただみんなを巻き込むのが恐いだけだ」
「だったらそんなこと言うんじゃねぇ。おまえ1人でこの先無事やって行けると思っているのか?彼女を助けるために行くんだろ?だったらおまえ1人じゃどうしようも無いじゃないか。そんな適当なこと言うな!もしオマエが本当に責任を感じているのなら、彼女を助けるためにも、みんなに土下座してでも一緒に行ってくれって、言うべきじゃないのか」
柴崎がめずらしくシリアスに言った。
俺には返す言葉もない。
柴崎の気持ちは本当にうれしかった。でも一緒に行ってくれの言葉が出なかった。
宇田川が言った。
「もういいよ、出発しようぜ。こんな所で時間を取ってる場合じゃないだろう」
柴崎も話しを打ち切るように言った。
「そうだな、行こうぜ。もう宮元も細かい事を気にすんなよ。俺達は来たくて来たんだからさ」
斎藤さんと吉岡をその場に残し、みんな馬を進め始めた。
俺も最後尾について馬を進めた。みんなの気持ちがうれしかった。
普段冗談ばっかり言って、いいかげんなヤツラなのに。
馬の背に揺られているうちに、いつの間にか俺の目からは涙があふれ出ていた。
俺はみんなには気付かれないように、そっと袖でぬぐった。




