17、老婆(その3)
ハッと目が覚める。
馬の足音は夢じゃない。現実に聞えてくる。
みんなもほとんど同時に目を覚ましていた。耳を澄ませる。
人の声も聞えてきた。何か命令しているらしい。
みんな跳ね起きた。
吉岡が入り口の筵の隙間から外を覗いてみる。
「この時代の兵士がやってきてるぞ」
吉岡が低い声で鋭く言った。
「あのババア!俺達の事をチクリやがった」
柴崎が吐き捨てるように言った。
外の兵隊が声を掛けてきた。
「中にいる異国の者!上意によりおぬしらをひっ捕らえる。神妙に庵を出るがよい」
俺も外の様子を見ると、馬に乗った兵士が剣を抜いて話していた。矢をつがえた者もいる。
「どうする?」宇田川がいう。
「出てった途端、ブスリはないだろうな」
急に馬が家の周囲を走り回る音がした。屋根にドサッと何かが乗った音がする。
しばらくすると焦げくさい臭いがした。家に火を放ったのだ。
ほとんど全部が草拭きに近い家は真夏で湿気が多いとはいえ、たちまち燃え上がり始めた。
「ちっくしょう」
「火攻めだ」
「どうする」
みんなパニックになった。
あいつら、俺達を殺すつもりなのか?
まだ中に火は回っていないとは言え、すぐに燃え落ちてくるだろう。
俺は叫んだ。
「盾になる物を探せ!」
壁に多少張ってある板や薪の束などをかついだ。他にもバックを手にして盾にする。
宇田川が言った。
「まず俺がショットガンで指揮官を撃つ!それから続けて回りに散弾を打ち込む!そこめがけて突っ走れ!」
「人は撃つな!」吉岡が叫んだ。「後々執念深く追ってくるぞ」
「そのつもりだよ」宇田川も言った。
屋根が一部燃え落ちて穴が開いた。家の中にも火のついた草屋根が落ちてくる。
宇田川は慎重にねらいをつけた。馬の足元めがけて引き金を絞った。
バゴン、ショットガンの強烈な銃声がした。
指揮官の乗った馬が驚いてひっくり返った。
宇田川もその強烈な反動に驚いていたが、続けて3発打ち込む。
回りの兵士も唖然とした。
俺達は一気に飛び出し、指揮官の方に向かった。
距離は20メートル。
何本かの矢が飛んできたが当たらなかった。それに指揮官を傷つける事を恐れているらしい。
吉岡が飛び掛かった。吉岡は柔道初段だが、指揮官ともつれ合ったままだった。
俺がすぐに走りより、棍棒代わりに持っていた薪で指揮官の頭を殴りつける。
指揮官は頭を押さえてうずくまった。彼の剣を奪い取って首に当てる。
「おとなしくしろ!」
俺は大声で怒鳴った。
こんなに大声で怒鳴ったのは、生まれて初めてかもしれない。
「武器を捨てろ!捨てないとこいつの首をたたっ切るぞ!」
兵士は指揮官を人質に取られたことより、俺達の予想外の反撃に驚いたようだ。
宇田川がショットガンに散弾を1発装填して、脅しに燃えている家にめがけてブッぱなした。
普段割とおとなしい宇田川に、こんな度胸があったとは驚きだ。
兵士たちは武器を捨てた。馬に乗っていた奴は馬から降りる。
柴崎は握り締めていたベレッタをベルトに挟んだ。
ピストルの威力を知らないヤツラに、いつまでも構えていても仕方が無いと思ったのだろう。




