15、老婆(その1)
ここまでのあらすじ
主人公の高校2年生・宮元駿馬は、同級生の柴崎に誘われて夏休みに非公開のビーチ・リゾートにモニターとして参加する事になった。柴崎の兄が開発責任者であり、そこで招待されたのだった。
一緒に行くのは理系トップで怪力が自慢の宇田川、文系トップで冷静で女子に人気のある吉岡、それと女子4人による合計8人だ。
秩父の山奥にある巨大研究室の地下に作られた不思議な列車に乗り、わずか10分でたどり着いたのは素晴らしく海と空気がきれいなリゾート地だった。
しかしその場所に徐々に違和感を覚えていく宮元。
その中でディナーショーに出演していた白拍子の少女・海月に一目ぼれしてしまう。
海月が大臣の夜の相手をさせられる事を知り、宮元は彼女を助け出す。
しかしその海月が、12日後に地元の坂東地方で「龍神祭り」で生贄とされてしまう事を知る。
彼女が行かなければ、一族全員に迷惑がかかると言う。
宮元はそれを阻止するため、他男子3人と一緒にリゾートを脱出する。
脱出する時に周辺の地図が必要と考えた宮元達は、警備員室に忍び込み、様々な備品と一緒に拳銃2丁とショットガン1丁を盗み出す。
こうして、現代の高校生4人と平安時代の少女とは、平安時代を坂東の地まで目指す事になった。
「おい、あっちに光が見える」
しばらくたって突然宇田川が言い出した。
「追っ手か?」
俺もそっちを向いた。
「いや、多分違う。1つしかないし光が動かないからな。民家かなんかだろう」
柴崎が時計を見た。
「今1時だぜ。こんな時間にか?」
吉岡も言った。
「俺もおかしいと思う。さっきから追っ手が来ないのも不思議だったが、おそらく今が丑三つ刻だから、この時代の人間は恐れて出てこないんだろう」
「一応何か見てみようか?」
俺が言った。
みんなで光源の方に歩いてみる。意外に距離があった。15分はかかる。
確かに民家だ。その外で何か燃やしている。
「だれじゃ!!」
鋭い声と共に人影が踊り出た。
老婆だ。手には柄の長い鎌を持っている。
はっきり言って肝がつぶれた。一瞬声が出ない。
焚き火に赤く照らされたその顔は、アバタだらけの上に醜いデキモノがあり、右目はふさがりかけていた。
こんな顔は魔女か山姥でしかお目にかかれない。どっちもまだお目にかかった事はないが。
柴崎があわてて言う。
「すみません、僕達は旅の者で夜道に迷ってしまい、光が見えてここに来てみたのです。決して怪しいものではありません」
この言い草ほど怪しいものは無いのだが、当然この老婆も俺達の格好と言葉使いで怪しいと思ったようだ。
「嘘をつけ、この時刻に旅の者がおるわけなかろう。それにおぬしらのその姿、まさしく異族のものじゃ。それにその言葉もおかしい。さては冥府より迷い出た鬼か?」
吉岡が注釈を付けてくれた。
「この時代の鬼っていうのは、俺達が考える鬼以外に幽霊って意味もあるからな」
海月が前に出て言った。
「すみません、でも私達は本当に旅の者なのです。私は京の白拍子で郷里の常陸の国に帰る所ですが、この人達は一緒に旅している唐よりも遠い国の方々なのです。しかし賊に襲われてしまって、こうして夜更けにさまよっているのです。驚かせてしまってすみません。すぐに退散しますゆえ、お許しを」
海月の丁寧な言い方に少し気を許したのだろう。老婆はフンと言って鎌を降ろすと、
「その異賊の男どもは信用できぬが、おぬしなら信用できよう。とりあえずこの夜更け。中に入れ」
と言って、家の中に入るよう鎌で戸口を指した。
「食われるんじゃねえか?」
柴崎がブツブツ言いながら中に入る。




