14、脱走(その2)
ちょうどリゾート側の門と反対側に分厚い木の門がある。
海月の話では門の外に番所があるらしく、ここからは出られない。
よって周囲の板塀をよじ登って外に出るのだが、塀の高さは3Mはある。
俺は荷物を下ろし、一番背が高い宇田川に肩車をしてもらう。塀の上に馬乗りになった。
次に海月を宇田川が肩車した。俺が彼女の手を取り塀の外に静かに降ろす。
俺も飛び降りた。つぎに柴崎が塀の上にまたがった。
下から吉岡がみんなの荷物を柴崎にに放り投げる。柴崎は俺に手渡しして荷物を全て外に出した。
やはり宇田川が梯子がわりになっているらしく、柴崎、吉岡の順に外に出てくる。
最後に吉岡が塀の上で下半身を外側に出し、上半身を内にして宇田川を引っ張り上げた。
ようやく全員外に出ることができた。
柴崎、俺と海月、吉岡、宇田川の順に夜の雑木林を走った。
ともかく遠くに逃げなければ。
柴崎がいきなり立ち止まった。みんなを手で制する。そして前を指さした。
鉄条網がある。と、言うことは番小屋もあるはずだ。
見渡すとリゾートほどじゃないが、やはり互いに見える位置に見張り小屋があった。
しかも歩哨まで立っている。
どうしよう?俺達はあたりを見回した。
するとちょうど小屋と小屋の間くらいに、木と草叢で影になって暗くなっている所がある。
俺達はそこに近寄った。柴崎が警備員室から取ってきたリュックからペンチを取り出す。
そこに這いより鉄条網をカットし始めた。
うまい具合に影が濃くて、向こうからこっちは見えないらしい。
人が1人通れるくらいに鉄条網をカットし、1人づつ外に出た。
音がしないように気を付けながら足早に立ち去る。
鉄条網から50メートルくらい離れただろうか?
俺達はもう安心と油断しきっていた。
すると、突然番所からサイレンが鳴り始めた。警備の兵隊が緊張する。
番所からだれか飛び出して来て、こっちの方角を指さしている。
「くそっ、赤外線警報装置だ」
柴崎が言った。
「走れ!」
俺は海月の手を引っ張って走った。全員いっきに走り出す。
兵隊はこっちの方に集まって来てはいるが、俺達をハッキリ見つけたわけじゃないらしい。
俺達は雑木林の中を息が切れるまで走った。
雑木林がいつのまにか草原になっていた。草原といっても草は俺の背丈よりも高い。
しばらく草原の中を歩いた。
と先頭の柴崎が「わっ」という声と共に姿が消えた。
「どうした?」
俺が近寄って聞くと
「ちくしょう、ここだけ窪地になってる」
と言って立ち上がった。しかし胸から上しか出ない。
良く見ると5、6坪ほどのちょっとした穴のようになっている。
「大丈夫か?」
「草がクッションになってくれたし、穴も深くないから大丈夫だよ。それよりここらで少し休もうぜ」
全員がその窪地に入って座り込んだ。
「水くれ、水!」
柴崎が言った。
「ホテルの冷蔵庫から取ってきたジュース飲めよ」
宇田川が言った。
みんなで缶ジュースを飲む。これで少しでもバックが軽くなるだろう。
「いったいどういう事か説明してくれないか?」
吉岡が言った。こいつだけはまだ事情を知らなかったらしい。
俺が経緯を話すと吉岡は怒った。
「なんでもっと早く言わないんだよ」
宇田川が言った。
「時間がなかったんだよ」
俺は謝った。
「悪かった。もし不満なら今からでもホテルに戻ってくれ」
吉岡は吐き捨てるように言った。
「今更簡単に戻れるわけないだろ。それに残った女子達はどうするんだよ。みんなに迷惑がかかるじゃないか。ここが本当に平安時代だったらタダじゃすまないぞ」
柴崎が面倒そうに言った。
「だったら吉岡、オマエは帰れよ。別に宮元だけのせいじゃない。俺達は自分で来たいから来たんだ。それにこのまま海月さんの事を放っておけないだろう」
宇田川が言った。
「もうやめろ、今更言い合ったって仕方ない。詳しく説明しないで急がせたのは悪かったけどな。それと海月ちゃんの安全を確かめたら俺達は帰る。それでいいだろ」
吉岡もそれで沈黙した。少し気まずい雰囲気が流れる。




