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夏休みの思い出は平安で  作者: 震電みひろ
13/68

13、脱走(その1)

十分後、全員で外に出る。

柴崎が様子を伺うが、まだこの近くには警備員は来ていなさそうだ。

自転車まで走った。

海月の話では、彼女の泊っていた板囲いの農家屋敷から外に通じているらしい。

振り返って見ると、俺達がいたコテージの付近で懐中電灯の明かりが見える。

危なかった。

昼間俺が行った外周道路のそばで自転車を降り、草叢に隠して従業員用の宿舎に向かった。

まさか従業員用の宿舎に来ると思っていないのか、思いのほか警備は手薄だ。

板囲いの塀と宿舎の入り口にだけ警備員がいる。柴崎が寄ってきて耳打ちする。

「何とかしてこの辺の地図だけでも手にいれようぜ」

同感だ。そこまで頭が回らなかった。

「だけどどうやって?」

柴崎はニヤッと笑うと

「昼間、斎藤さんの部屋に行く約束をしてて、裏口の警備員がジジイだから12時ごろに薬を飲みに行く時、必ずトイレに行くそうだ。その時に入れるって行ってた」

宇田川が

「今は普通の状態じゃないぞ、大丈夫か?」

と言うと

「なーに人間、薬を飲む時間とかはあまり変えないもんだ。ダメならダメでまた何か考えればいいよ」

と気軽に言う。

こいつのこういう臨機応変さは、この先とっても頼りになる。

なるほど、裏口の警備員は12時に出ていった。

俺と柴崎と宇田川の3人は、反対側の番小屋の警備に見つからないように注意して、建物の影から1人づつ裏口に入った。

「見ろ、地図があるぜ」

柴崎が見つけた。机の上の本棚に堂々と立てかけてある。

地図を見ると現代(平成)の地図と比べられるように、この時代(平安)の地図がある。

この近辺と京の平安京、東海道地域、日本全国とある。

京を中心に瀬戸内海、北九州、東海道は一応地図らしくなっているが、それ以外はほとんど白地図だ。

これを見るとやはりここは静岡あたりらしい。

机の上には風呂敷があった。

中身を確かめると女物の着物や荷物なので、海月のために貰っていく。

壁には、拳銃がホルスターに入って2つかかっていた。横にはショットガンが置いてある。

俺はそのホルスターを1つ取ると拳銃を抜き出した。

ベレッタM92F。アメリカ軍が正式採用している。

スライドをちょっと引いてみる。弾は装填されていない。

俺は思い切りスライドを引っ張った。

ガシャンという音とともに、第1弾が装填された。

柴崎と宇田川がこっちを見た。

「すげえ」

「おまえ、それ持っていくの?」

俺はうなずいた。

「何かあった時のためにね」

柴崎もホルスターを1つ取った。

宇田川はショットガンを取る。やはり革性の弾帯がある。

俺と柴崎はベレッタとホルスターをバックに入れた。

さらに柴崎は2つ壁にかかっていた非常用リュックを取り、1つを俺に投げてよこした。

中を覗いてみると、マグライトや防水マッチ、工具セット、医療品、それとケミカルライトが1ダースほど入っている。

俺達は見つからないように、急いで吉岡が待つ所に戻る。

吉岡が宇田川のレミントン・ショットガンを見て驚く。

「おまえら、それ、どうしたの?」

「何があるか、わからないだろ。準備しておくに越した事はない」

宇田川が答える。

「それはそうだけど物騒だな。余計にもめごとになりそうな気がするが」

「本当にゲリラかテロリストになったような気分だな」

宇田川が苦笑する。

「これ」

俺が海月に風呂敷を渡すと、海月は驚いて

「これ、私のです!」

と言った。すぐに風呂敷を開けて、中からあの鏡を取り出す。

「良かった」

ホッとしたように海月は言った。

「早く行こうぜ」

柴崎が急かした。

俺達は昼間に海月から教えられた、塀の板の外れている所から囲いの中に入った。

海月が宿泊していた農家屋敷の中は、みんな寝静まっているのか、何の気配もない。

俺は屋敷に近づいた。指を唾でぬらし障子にそっと穴を開けて覗いてみる。

誰もいなかった。

屋敷を1回りしてみる。やはり誰もいない。

意を決して障子を開け、中に入ってみる。みんなを手招きした。

門番はこちら側にはまったく注意を向けていない。

床の間に一通の手紙があった。

マグライトを当ててみると海月宛だ。

海月に渡す。

それを見た海月は顔を曇らせた。

「何て書いてあるの?」

俺が聞くと

「お女将さんから私宛にです。私がここに戻って来た時のために残してくれました。私が逃げたために役人がやって来たとあります。みんなここの仕事から追い出されたみたい。約束のお給金も貰えなかったと。ほとぼりが覚めるまで京に戻らず、東国の方に回るって書いてあります。もし私が無事なら追いかけて来れるように」

海月の頬を涙が流れた。

「ここでどのくらい仕事する予定だったんだ?」

柴崎が聞く。

「7日間。これで米1俵と塩がもらえるはずでした」

俺は気持ちが暗くなった。俺の行動が彼女達の仕事を奪ってしまった。

「ぐずぐずしていられないだろう。ここから出よう」

柴崎がうながした。

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