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夏休みの思い出は平安で  作者: 震電みひろ
12/68

12、秘密の共有

俺達のコテージに到着するまで、幸いにも誰にも見つからなかった。

自転車を止めると、すぐにコテージの中に海月を押し込んだ。

中でパンツ姿で寝転んでいた柴崎があわてた。

俺が入ると柴崎は

「どうした?その子は?」

と驚いて聞いてきた。

俺も急いでドアの鍵を締める。

くそっ、焦って手が震えるせいか、鍵が閉まらない。

「今朝話した海月さんだよ」

俺は全部の窓の戸締まりを確認した。カーテンも閉める。

「連れてきたのか?」

あきれたように柴崎は言う。

「吉岡と宇田川は?」

俺はそれには答えず、逆に聞き返す。

「2人ともたぶん女子の部屋じゃないかな」

「じゃあ隣からあいつらを呼んできてくれ」

柴崎は俺に気圧されたように、2人を呼びに行った。

「これから俺の言う事を聞いて」

海月を俺のベッドに腰掛けさせて話した。

「まず君が強制的に呼ばれた事をみんなに話すんだ。証人になってもらう。それから君は本当に平安時代の人なのか、みんなにできるだけわかるように話してくれ。その後、君の女将さんには何て言い訳するか考えよう。もちろん正直に俺の責任だって言ってくれてかまわない。いいね?」

海月が、どこまで俺の言う意味を理解しているのか、わからなかったが彼女はうなずいた。

柴崎が宇田川を連れてくる。吉岡はいなかったらしい。おそらく赤川と一緒に出かけているのだろう。

もう一度、昨日海月と出会った時からの事を、みんなに簡単に話した。

大臣の部屋に呼ばれる海月を俺が連れ出して来たというと、柴崎は驚いて

「おまえ、そんな事したの!根性座ってんなぁ。まあ、おエライさんが女の子を呼んだっていうのも、問題アリだがな。でも強引に連れてくるなんて、後でトラブルになるぞ」

「彼女をそのままにはしておけなかったんだ」

「宮元の気持ちもわからんでもないけどな。大丈夫なのか?」

「まさか、それで宮元が引っ捕らえられるって事はないだろう」

と宇田川が言うと

「いや、俺が言っているのはその子の立場だよ。彼女は色んな状況を考えた上で、エライさんの夜伽をする気になったんだろう?それを他の男と逃げたなんて事になったら、かなりヒドイ目に会うんじゃないか。もし宮元の言うとおり、ここが本当に平安時代の日本だったら、なおさらだぜ」

海月は不安そうに俺を見てる。

俺は言った。

「俺が責任取るよ。少なくとも大臣はこの件で騒いだりしないはずだ。自分の恥になるからな。彼女の立場は柴崎の兄さんに頼んで、この世界のエライ人に説明してもらえないか。」

柴崎は「アニキに頼むのか。大丈夫かな?」と少し自信無さそうだ。

その時、宇田川が言った。

「その子の立場でもう1つ問題があるぞ」

「なんだ?」俺が聞き返す。

「このリゾートの人は、ここが平安時代だとみんなに公表していない。まだ知られたくないんだろう。もしかするとタイム・マシンという機械の性質上、公表しないつもりかもしれない。だとしたら2人とも捕まえられる可能性はあるだろう。まあ捕まっても宮元は極秘に消されるとか拷問を受けるとかそんな事はないだろうが、この時代に残った彼女の立場はどうなるかわからないぞ。大臣の所へ行く途中で、彼女が逃げたと考えられているかもしれないしな。いくらおまえが責任取るって言ったって、何の助けにもならんよ」

と、その時電話が鳴った。柴崎が受け取る。

「ハイ、ええそうです。えっ、そうですか?はい、わかりました。あ、はい、どうも」

電話を置くと柴崎は、俺の方を向き直りこう言った。

「マズイぞ、宮元。どうやら不審者が入り込んだ事になっているらしい。今、全部の部屋を警備員が見回りに来るって言っている」

「どうする?」

宇田川も俺の方を見て聞いた。

俺の心は決まっていた。彼女をこんな立場に追い込んだのは俺なのだから、俺が守らなければならない。

「彼女と一緒にとりあえずどこかに隠れる」

「おまえ、隠れるってどこにだよ」

宇田川が聞いてきた。

「ともかくどっかだよ。場合によってはこのリゾートの外に出るかもしれない」

柴崎が警告した。

「ここから出るって言ったって、もし外が本当に平安時代なら大変だぞ。おまえこそ殺されるかもしれないんだぜ。もし役人なんかに無礼な事があってみろ。俺達の常識なんか通用しないんだ。それに現代に帰れなくなったらどうするんだ?」

俺はちょっと弱気になった。

「彼女の安全さえ確認すれば、すぐ帰って来るつもりだよ」

海月が遮るように言った。

「もういいです。私のためにみなさんに迷惑はかけられません。私が役人に訳を話します。みなさん、どうもありがとう」

外に出ていこうとする彼女を俺は引き止めた。

「何言ってるんだ。全部俺のせいなんだ。絶対になんとかするから」

「ここであなたが助けてくれたって、どうせ無駄になるのよ!」

「どういう事だ?」

彼女は力無く下を向いて言った。

「あと12日後に、私の故郷で4年に一度の龍神祭りがあるのです。坂東太郎とその一帯にある湖沼の守り神である龍神ににえ生贄を捧げるの。私はその生贄に決まっているの」

いけにえ?

俺はぶったまげた。日本にそんな風習があったのか?

「そんなの無視すればいい。迷信だ!」

俺は言ったが、彼女は首を振った。

「あなたは龍神の恐ろしさを知らないわ。龍神は一度へそを曲げれば、何日も雨を降らせない。稲も畑の作物も全て実らないわ。そして一度怒れば、坂東一帯の田も畑も家も人も、全て流し去ってしまう。その龍神を慰めるための大切な祭りなの」

彼女は断固としてそう言い切った。

俺達にとっては馬鹿馬鹿しい迷信でも、当時の人にとっては恐ろしい神の祟りなのだろう。

人柱とかも昔はあったそうだし。

「それなら余計に行かせられない。俺も一緒に行くよ。君がそんな風に人生を終わりにするなんて」

俺は海月から離れる事が出来なくなっていた。彼女を守るためなら何でもする、そんな気になっていた。

「かっこいー、元に戻れなくてもいいのか?」

柴崎が言った。

「それならそれでこの時代で暮らすよ」

宇田川が突然言い出した。

「俺も行ってやるよ」

こっちこそビックリした。

「何でおまえが?」

「いや、なんとなくね。宮元の覚悟に感動したからかな。宮元1人じゃ不安だし。」

「宇田川、帰れないかもしれないんだぜ」

宇田川は安心させるように言った。

「だって本当にタイムマシンがあるなら、ここで少々長く過ごしたって、予定通り8月12日には帰れるはずだぜ。別に心配はないよ」

なるほど考えて見ればそうか。

「それにみんなで行けば、それだけリゾート会社側も放っておけなくなるだろう。この新リゾート計画で、最初から行方不明者を何人も出したくないはずだからな。平安時代をこの目で見れるなんて経験、もう無いかもしれないしな」

と言う。最後に柴崎が

「しょうがねぇ、ここまで来たら一連託生だ。俺が行けばアニキも説得しやすいだろう。ガキの頃、アニキにはけっこう殴られたから、ここらで貸しを返してもらわないとな」

とまとめた。

俺は一瞬目が熱くなった。こんな所で妙に友情見せやがって。

心の中でみんなに感謝する。

そこに吉岡が飛び込んで来た。

「いやぁ、驚いたよ、今そこで赤川と一緒にいたらさ、いきなりゴッツイ警備員3人に取り囲まれて不審尋問されたよ。なんかリゾート全部を捜索中だってよ」

俺達は顔を見合わせた。こうしちゃいられない。

全員あわてて荷物を取りまとめ始めた。

吉岡は状況がわからない。

「どうしたんだよ」

柴崎が急かす。

「いいから、ホラ、荷物まとめろ、吉岡!」

元々荷物は少ない。コテージに用意されているタオル類や医薬品をバックに詰め込む。

マッチ、ライター、冷蔵庫内の食べ物や飲み物も持った。

俺は自分の荷物を手早くまとめると、蜜本たちのコテージに行った。蜜本に頼んでトレーナーとジーンズを借りる。

これは返せないかもしれない。ごめんな、蜜本。

ついでにイスの所に干してあった秋田のビキニを女子の目を盗んで拝借した。海月に下着の代わりに着てもらうつもりだ。この部屋は散らかっているから、すぐには気付かないだろう。後で変態呼ばわりされるだろうな。

急いで戻って海月にバスルームで着替えさせる。

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