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夏休みの思い出は平安で  作者: 震電みひろ
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10、行動 vol1

 海月が教えてくれた抜け道(壁の板が外れるところ)から、俺はリゾート内に戻った。

抜け出る時も海月は悲しそうな目で俺を見ていた、と思うのは俺の勝手な思い込みだろうか?

でも結局フラれたことには変りない。

俺は力なく雑木林の中を歩いた。

結局俺なんかには秋田くらいが分相応という事だろうか?

だったら一生独身で構わないが。

自転車に乗ってコテージに戻る。もう夕方近くだった。

そのまま中央テラスのテーブルに腰掛け、屋根の下で昨日からの事を考えていた。

まだ日差しは強い。

まだ2回、しかもそんなに話していない相手なのに、何故こんなに惹かれるのだろう。

宇田川が戻ってきた。俺の前に腰を降ろす。ヤツも暗い。

宇田川が先に話しかけてきた。

「おまえ、知ってた?吉岡と赤川が付き合う事になったの?」

俺はもう、そんな事はどうでもよくなっていた。遠い昔の事のように感じる。

「ああ」

「いつからかな、あの2人」

「昨日の晩だよ、夕食のあと」

「おまえ、知ってたのか?」

「昨日、吉岡と赤川がキスしてる所をモロに見たからな」

普段はもっと遠回しな言い方をするのだが、その時の俺は早く会話を終わらせたかった。

宇田川は、俺があまりにその事に関心が無いのに驚いたが、すぐに

「そうか、おまえは海月って子に気を取られているんだな」と言う。

「そっちも、もう終わったよ」

俺は力無く言った。

ちくしょう、この旅行はいったい何なんだ。


やがて柴崎たちが戻ってきた。斎藤さんも一緒だ。

さすがに大人で見事なボディをしていたが、最早それもあまり気にならない。

蜜本と秋田は少し不満そうだ。秋田は俺のそばを通る時に、わざと「フンッ!」と言いながら、そっぽを向いて歩いた。

どうやら本人は「私はスネてるんだぞ」という所を見せたつもりらしい。

どーでもいいが。

蜜本は俺のそばに来ると

「今日はどこ行ってたの?みんな勝手にどっかに行っちゃうから、つまんないよ」

と口を尖らせた。

斎藤さんも話し掛けてきた。

「今日はどうしてたの?みんなと居なかったみたいだけど」

俺は斎藤さんから、何か情報を引き出そうと思いついた。

「あの白拍子の女の子、どこの人達なんですか?」

「あの人達は、ホテル側が契約している劇団の人よ。」

ごく普通に答える。

「あの人達と会う時間は取れますか?花でも渡したいんですが」

斎藤さんは軽く微笑んで

「私かフロントから渡しておくわ。あの人達も疲れているでしょうから」

と言った。


夕食の時間になった。今日は中華料理のようだ。

催し物も髪の毛を2つ輪に結った女性が、薄い布を手に持って踊っていた。

俺はトイレに立った。大きい方だったので個室の方に入っていると、そこに2人の男が入って来た。

彼らは小用らしく俺が先に居ることに気がつかない。

「今夜来る予定になっているんだろ、昨日の舞台の娘」

「大臣も好きだな。でもこういう所の絶対に後腐れの無い女ってのもいいよな」

「でも年はまだ数え年で16だろ。あっちで言えば15才で、まだ高校1年生くらいだぜ」

「いや、でも俺も間近で見たけど、けっこう発達してたぞ。それにここでは12、3くらいから結婚するじゃないか」

「向こうの女将も大事な売れっ子だそうだから、けっこう渋っていたけど、まあこちら側の実力者に手を回してもらったからな」

俺は心臓が飛び出すのではないかと思った。

こいつらの言ってる女と言うのは、海月の事ではないのか?

そう思うと頭にカーッと血が登った。ガキじゃあるまいし、こいつらの言ってる意味は良くわかる。

この2人を締めあげて全てを聞き出したいと思ったが、かろうじて自分を押さえた。

この2人がどこの人間かを知る事が必要だ。まずゆっくり外に出て、2人の服装を確かめる。

俺が個室から出ていくと、2人はマズかったというように急に口をつぐんだ。

ゆっくりと手を洗っていると、2人は手も洗わずに出ていった。

手洗い場の鏡で顔は確認した。

少し遅れてトイレを出る。

2人の後をゆっくり離れて歩き、どこの席に着くかを見た。

彼らが着いたテーブルを、通り掛かったウェイターに聞いてみる。

「あそこのテーブルは誰のテーブルですか?」

「あ、あちらは国土交通大臣のお席です」

ウェイターはそう答えると忙しそうに行ってしまった。俺も席に戻る。

斎藤さんに再び尋ねる。

「ここには色んなエライ人が来ているけど、やっぱり警備のSPの人とかも沢山いるんですか?」

「いえ、確かにSPの人は規則なのでいるけど、ここはリゾート自体の警備が厳重なので、そんなに各人を守るSPは必要ないわね」

「大企業で呼ばれた人とか政府の要人とかは、どこに泊まっているんです?」

「フロントの東側で、別荘になっているエリアよ。そこは各庭付きの一戸建てになっているわ」

「国土交通大臣の泊っている所ってわかります?」

「東エリアの周回道路から入った奥よ。どうして?」

「いえ、別に。今トイレで国土交通大臣がどうのって話してたから」

俺はこれで話を切り上げた。

斎藤さんは一瞬疑問そうだったけど、まさか俺が過激派の訳でもないし、それ以上は追求してこなかった。

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