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13話 始祖たちが願った完成品

「が……っ、ぁ……」


 背中に走る痛みと全身が軋み、砕かれるような感覚によって、天翔は意識を取り戻した。意識が飛んでいたのは恐らく数秒。だが──その間に行われたのは、殺戮だ。死体であろうと、生きている者であろうと、関係なく破壊する一撃が世界を脅かした。


「ぐ……アイリス、に、詩音、レグラスは……」


 回る視界に、覚える吐き気を気合で堪え、周りを見渡す。


「しぶといね。いや、本当に驚いた。まさか生きているとは、思わなかった。……いや、レグラスの決死の魔術か? それならば、生きているのも理解できる」


 天翔が自らの後方──そこに倒れているレグラスと詩音、二人よりは近くに居るアイリスを確認しひとまず安堵を抱いた瞬間、驚嘆を含んだ声が響く。


「レイフォード……」


「君は、うん、殺さなくてもいいかな。なにせ君は罪人じゃない。私の愚かしい共倒れに付き合う必要

は、皆無だ」


 呪いと先ほどの一撃を瀕死の天翔から視線を外し、当初の予定通りにアイリスへ進む騎士服の男──否、レイフォード家の末裔。


「天翔、先輩……」


 意識を取り戻したのか、うつ伏せになったアイリスは這いずりながら天翔の近くにやってきて──手を添える。そう、一時的に呪いの症状を抑えるために。


「馬鹿……アイリス、君だけでも──」


 ──逃げるんだ。

 しかし、アイリスは囁かれた言葉に対し、ゆっくりと顔を横に振った。


「ここで逃げても……また、誰かが、犠牲になる、だけです」


 先ほどのダメージが大きいのか、途切れ途切れに発声するアイリス。


「私が、犠牲になればいいって、分かってるんです……でも、私、助かりたいんです。貴方と一緒に、進んでいきたいんです。死にたく、ないんです」


 天翔に寄り添うように顔を近づけてくるアイリスに、天翔は目を瞑った。

 涙が、落ちてくる。玉の雫が、零れ落ちて、天翔の頬に落ちて消えて。


「『銀』の魔法使いさん……あの時と同じように、私を、助けてくれますか?」


 ──胸に、火が灯るのを感じた。終わるなと、心が叫んでいるような気がした。

 魔力が暴走に近い形で体の中を駆け巡る。


「私の、全魔力を注ぎます」


 アイリスの暴虐にも近い魔力の全てが、天翔に注がれて──。


「──っ、ぁ、ま、だ……」


 天翔の肩に触れ、魔力を使い呪いを緩和させていくも、足りない。それほどまでに、呪いが強すぎた。アイリスでは到底緩和させるに至らないほどの、強力な。


「づ、ぁ──、ああああああぁぁぁぁ!!」


 ──それを、見た。天翔は迫る刺客を視界に収めながら──しかし、それに吸い込まれるように天翔の目はそれに縫い留められる。

 蒼眼が、妖しく輝く。それは見る者を魅了し、引きずり込む輝き。

 これは──なんだ。何かが、アイリスの中にある。

 いや、まさか──。


 これか? これが、ネフェタルリア家が育成を放棄した理由なのか!? 


 ──アイリスが秘める、得体の知れない何か。


「やはり、お前がそうか。──ならば、殺さねばなるまい。その力は結局、不幸しか生まないのだから」


 アイリスの輝きを知った漆黒を纏った男は、ただ機械的にそう呟いた。だが──彼がアイリスに迫る、その前に。


「──任せておけ。俺が、助けてやる」


 先ほどの決意を、もう一度口にする。


「──やるのかね?」


「ああ。それが、俺が戦う理由だ」


 魔力を使いきり、枯渇寸前になったアイリスはもう立つことはできない。魔力枯渇は体に多大なる影響を及ぼすからだ。しかし──もう必要ない。アイリスを狙うことなど、もうさせない。


「では、消えろ」


「局所魔術展開──《其は世界を守るもの》」


 殺到する漆黒に、天翔はかねてより準備しておいた盾で相殺する。そして──それを、紡ぐ。

 天翔が魔法使いと呼ばれる所以を。


「《其は世界の禁忌を破り、後の世へと送られた約束を果たすもの》」

「ち──」


 天翔が作り出した盾が悲鳴を上げ、削れていく様を見ながら──しかし、天翔は一切動じない。そんなことよりも優先すべきは魔力の統合、制御のみ。体に宿る魔力と、空気中に漂う神秘。その二つを統合することで──天翔は誰も到達しえない高みに到達する。


「《落ちる涙、枯れる声──代償は、支払った》」


 大地を震わすほどの魔力濃縮に、全てが畏怖する。これから破られるであろう禁忌に、恐怖する。


「《果てに鎮座する神よ──どうか、哀れなる我が身の偉業を見届けてほしい》」


 それは禁忌か、はたまた誰にもなしえぬ偉業か。数多の魔術師が挑み、破れた世界の果てに、今天翔は辿り着く。


「《空は悲嘆に染まり、大地は業で満ち足り、終末は訪れた》」


 本当は、使いたくなかった。

 だって、これこそが天翔の負の遺産だ。これを生み出してしまったがゆえに、天翔は十二人目の魔法使いと認定され、結果魔術協会元老に目を付けられ、惨劇に遭ってしまった。

 けれど──最早化け物へと昇華したあの男を倒すためには、必要だから。


「《天の理は灰燼と化し、抱いた理想は儚く散った。神はその席を剥奪され、地に堕ち、世界は崩壊を迎える。垣間見えるは真の扉──辿り着くは、愚者一人。未だ見果てぬ幻想を求め、それを授からん。──真理は開かれた。故に扉を解放せしめ、奇跡を今ここに示す》」


 多大なる魔力が注がれ、引き裂かれる大地。詠唱を止めようと思っても未だ壊されぬ盾がそれを邪魔し、詠唱は完成する。


「『──未だ見果てぬ理想アストラル・イデアーレ』」


 それは誰も辿り着けぬ領域へと辿り着けるようになる魔法。この世全ての魔術師が願い、求め、破れた領域へと辿り着くための奇跡。


「──何も、変わらないようだが。それが、魔法かね?」


「ああ、魔法だよ。魔術師がこの世に生まれてから、誰もが求めてやまないくそったれの魔法の」


「……第三層。いや、馬鹿な、それは──」


 何も変化が起きないのを不思議に思った騎士服の男は──しかし、天翔の口からもたらされた魔法の真髄

に、驚愕を隠せない。


「始めよう。最後の、戦いを」


 だが、天翔はそんなものに興味はない。第一、アイリスの魔力で緩和されているとはいえ、元を絶たなければ呪いが再発するだけ。長引かせれば、天翔の負けだ。


「……いいだろう。私は、ダックス・レイフォード。錬金術──否、真理を追い求め、真理に背かれ、没落した、いわば真理に魅入られた愚かな一族の末裔」


「『銀』の魔法使い、神代天翔」


 天翔の想いを汲み、騎士服の男──否、ダックスが名乗りを上げ、天翔もまたそれに応じる。


「行くぞ、最後の、その一瞬まで。私は抗い続けるだけだ」


 ダックスの声が、嫌に耳に残って──始まる。魔法使いと、錬金術師の戦いが。






「《──疾く、翔けよ、雷迅》」

 ダックスの指先から極細の雷光が走り、天翔の心臓を寸分の狂いもなく狙ってくる。

 だが。


「《──雷よ、打ち据えろ》」


 凄まじい勢いの雷撃が、しかし天翔から放たれた魔術によって相殺──どころか、ダックスの手元にまで及ぶ。それは流石に想定外だったのか、瞬間ダックスの顔が驚愕に染まるが、その魔術は当たらない。──災害級(ハザードクラス)の漆黒が、雷撃が体に当たるのを防いだのだ。


「ありえない。私が使ったのは中級雷魔術──ライトニングだ。だが、お前は初級魔術のはず。なのに、なぜ私の魔術が押し負ける?」


 互いに高速で目まぐるしく位置を変え、魔術を放ち続ける二人だが、どうしても分からないとダックスが呟く。それもそのはずだ。中級と初級では威力の規定が違う。術式改変したところで、決して埋められる差ではない。にもかかわらず、天翔の魔術は必ずと言っていいほどダックスの魔術を上回っていた。


「魔法──その恩恵だ。本来の用法じゃないんだが……嬉しい誤算だった。分かるだろう? 第三層、その魂の物質世界の意味が分かるなら」


「まさか──エーテル体か!? いや、だが、しかし! 第三層に居続けるなど、ただの人間に耐えられるわけがない!」


 第三層──人の脳内にあるフィルターが捉える世界。一つ目は魔術を捉えられないフィルターで、二つ目は魔術師が持っている魔術を捉えることができるフィルター。そして三つ目。全ての魔術師が求めてやまない第三層。第三層のフィルターを超えることでしか拝めない世界──そこはアリストテレスによって提唱され、アインシュタインの特殊相対性理論により否定された物質であるエーテル、またはアイテールで満たされている。


 理論上、エーテルで満たされた世界では、魔術が強化される(・・・・・)。それが覆せるはずがない初級と中級の差を覆したのだ。

 しかし、エーテルは体にとっては毒だ。あまり長くそこに居続ければ、いずれ体が侵食され、破壊されていく。


「だろうな。けど、その前に倒せばいい話だ」


 とはいえ、そこまで無謀ではない。体に毒なことが判明している以上、天翔の魔法はあくまで足を踏み入れている程度──否、あくまで魔術の時だけ第三層に入っているのでそこまで負担になると言うことではない。とはいえ、デメリットも当然存在する。あまりにも保存容量(キャパシティ)を圧迫するので、初級魔術もしくは中級でも簡単な魔術しか使えないと言うデメリットが。だが、それを補って余りある恩恵が付与される。

 これこそが魔法。天翔に許された、負の遺産。


「漆黒よ──唸れ」


 凄絶な魔術戦が展開される中──単純な魔術勝負では埒が明かないと思ったのか、ダックスは身に纏う漆黒を蠢かせ、天翔に向けて放ってくる。無論、当たれば即死の一撃。


「《凍りつけ》」


 それに対し、天翔は氷の魔術を繰り出す。とはいえ、漆黒を受けきれるわけではないのであくまで一瞬だけだ。ほんのわずかだけ、漆黒の侵食を止め──瞬時に重力魔術を発動。空に浮かび、大地を抉り取る一撃を回避した。


「《祖は世界を統べる王を倒し、世界に輝きをもたらしたもの。神よ、雷神よ、その名に違わぬ力を解放せよ》」


 雷が走る。雲が翳り、太陽が覆われ、黒に染まり──雷雲が青を隠し、雷が轟く。それは地平の彼方で鳴り響き、天翔をこの世から消す絶大な雷撃と化す。


「ち──」


 一瞬で天翔を黒焦げにできる威力──上級に匹敵する魔術が──が切迫し、天翔は再度同じように避ける。ただし、氷の魔術を炎の魔術に変えてだが。


「──私は、非才なる身だった」


 上級魔術を繰り返すダックスは、不意にそんな風に呟いた。

 即死級の魔術、漆黒を紙一重で処理し続けながら自然と、それに耳を傾けてしまう。


「魔術師としての才能はあったのかもしれん。だが、錬金術としての才能は皆無だった。本来ならば攻撃

にも転化する術を持つレイフォード家だが、私にはそれはできなかった」


 それがレイフォード家の恐ろしいところだ。本来、錬金術と言うのは『賢者の石』を作り出すと言う究極の目標があり、錬金術師はそれに邁進するものだ。決して攻撃に転化できるようなものではない。しかし、レイフォード家の天才──否、奇才と呼ばれた男アークス・レイフォードがそれを根元から変えたのだ。錬金術を攻撃に転化させる理論を僅か一代で書き上げた天才。しかして、晩年はあまりにも悲惨だった。


「しかし、レイフォードの運命……否、呪い(・・)は才を持たぬ私にも容赦なく降りかかってきた。──下らぬ願いによって、一族丸ごとの運命を捧げた、愚かなる男の、妄念がな」


 三十歳を超えたころ、彼は見てしまった。それにより、狂った(・・・)。究極の命題に辿り着く際に、何かを見てしまったのだ。その果てに、人の命を使い、賢者の石を生成した。死者蘇生──新たなる命の創造に手が届かないと分かると、彼は子孫にその完成を促した。血に刻んだのだ。愚かなる末路を。


「下らん……本当に、下らない。『賢者の石』を完成させ、ストックするために身内を犠牲に……いや、本来であれば守るべき対象である一般人まで巻き込むなど、あってはならない愚行でしかない」


 レイフォード家が生成した『賢者の石』は総数百を超える。それらは全て、人から作り出したものだ。要は──最低でも百人以上を犠牲にした。恐ろしいまでの業、おぞましいまでの執念──妄念だ。一人の男が残した、刻んだ最悪の呪い。


「許されるべきではない。私達が向かうべき末路は、地獄だ。業火に呑まれ、磔にされたとしても、まるで足りない」


 放たれる魔術を避け、代わりに初級の魔術を何度も浴びせても、ダックスの口は止まらない。魔術の行使は止んでも、纏う災害級(ハザードクラス)の漆黒が脅威過ぎるのだ。当たれば即死は免れ得ない一撃に、天翔は積極的に攻めに転じれない。


「私もまた、罰と言う名の死を待つだけだった。──だが、知った。知ってしまったのだ。同じように罰を犯した、罪人達が」


「それが、ネフェタルリア家か──!」


「その通り。奴らは子孫に、呪いを残していた。恐らくは、レイフォード家と同じような、誰も幸せになどなりはしない、愚かな呪いをだ。──ゆえに、殺す。滅亡させる。もう、誰も悲しませないように」


「──それが、アイリスを殺そうとした理由、か」


「ああ、そうだ。そのためだけに、私は彼女を殺す」


 ──それがきっと、ダックスと言う男の根幹。恐らく、恐らくだが、たぶん彼は天翔と紙一重の存在であるのかもしれない。

 互いに救済を求めた。対象が違うだけで、きっと結果は変わらない。笑顔のために、幸せのために。

 もしかしたら。本当に、もしも。何かが間違っていたなら。彼がもしも、アークスの呪いを受けていなかったら。彼が錬金術師でなかったら。もしかしたら、彼もまた英雄だったかもしれないのに。

 あるいは、彼は天翔の一つの未来なのかもしれない。一つの、結末かもしれない。


「悪いけど、殺させないよ。アイリスは、俺が守る」


「無論だ」


 決裂する。轟音が鳴り響き、更に凄絶な争いが始まる。


「《燃えろ、燃えろ、燃えろ》」


 初級魔術イグニス──三連詠唱。詠唱を続けて紡ぐことでの、連撃。炎の玉の三連撃に、しかしダックスには通らない。体に当たる前に、纏っている漆黒がそれを防いでしまうのだ。恐らくではあるが、魔術では効かない。通らない。──だが、天翔には切り札が存在する。防御があろうが、不死と言う概念がそこにあろうが、破れないと言う概念が付与されていようが、お構いなく貫通する魔術が。

 それを撃ちこむだけでいい。それだけで終わる。

 しかし、銀の弾丸(シルバーブレッド)はあくまで魔術にこそその真価を発揮する。ゆえに、魔術要素のない(・・・・・・・)攻撃もしくは(・・・・・・)防御には何の効果も(・・・・・・・・・)ないのだ(・・・・)。それに当たらなければ意味がない。当然、唯一自分を殺せる銀の弾丸(シルバーブレッド)には、ダックスとて最大限の注意を払っているはずだ。要は隙が必要だ。相手の裏を掻き、当てる一瞬が。


「《尊き光よ、今降り注げ。世界の堕落を象徴せし、暗き獣に天誅が下る。七つの光が下りて、その獣を死に至らしめよ。──一つ、天使は火炎を投げ入れた》」


「ぐ──」


 大地が燃え盛る。それはかつての終末の再現。神を信じなかった者に下る、罰。


「《二つ、天使は水を蒸発せしめた。三つ、天使は宙より光明を落とし、病魔を振り撒いた。四つ、天使は星を砕き、闇を引き入れた》」


 濁流のように押し寄せるその全てを、天翔は真っ向から相殺していく。だが、威力が桁違い過ぎた。逸話から引っ張ってきている以上、その逸話に対する弱点、もしくは欠点を突きつければマシなのだろうが……あちらは本物の終末だ。弱点や欠点など、あるわけがない。よって、真正面から相殺するしかない。相殺せずに避ければ、天翔が守りたいものの全てに殺戮が訪れるから。


「《五つ、天使は宙より星を落とし、深淵へ誘った。六つ、天使は四人の御使いを解き放ち、虐殺した》」


 星が大地に落ちて、深淵へ通ずる穴が開き、そこから資格なき者たちに死をもたらすアバドンと呼ばれる何かが這いずりでてきて、尚且つその奥から騎兵隊がやってくる。──生きとし生けるものを殺す、馬が。


「くそ、がぁぁあああああああ──!!」


 最早魔力など鑑みない。保存容量(キャパシティ)が限界を超えるギリギリまで魔術式を構築、そのまま魔術を放っていく。いくら魔術が強化されていようと、圧倒的物量の前には及ばない。


「《七つ、天使は終末を呼び起こした。──以上、七つを以て神を裏切りし者どもへの天罰を完遂する》──神よ(デウス)今ここに再臨したまえ(・アドヴェントス)


 魔術が完成する。──同時に、最後の災厄が現われた。即ち、それは破滅だ。神が悪魔を打倒せしめ、大いなる獣をこの世から掻き消した、終末。

 稲妻が轟いた。さまざまな音が鳴り響いた。地震が襲った。大粒の雹が降り注いだ。

 もう、喋る暇も、ダックスを見る暇もなかった。ただひたすらに全てを防御につぎ込んで、ようやく。


「づ、ぁ……」


 全てを真っ向から迎え撃った天翔は、いつ倒れてもおかしくないくらいには消耗してしまっていた。だから──それに、反応できなかった。


「見事」


「──」


 ──漆黒が、天翔を貫いていた。正しくは、ダックスの手が。過たず、天翔の心臓を穿っていた。


「なに、恥じることはないよ。この魔術は私の虎の子だ。私とて、全てを防がれるとは思っていなかった。だから──これで終わりだ」


「──ああ(・・)終わりだ(・・・・)お前がな(・・・・)


「──なに?」


 ダックスの声が驚愕に彩られるが、判断力は流石と言うべきか。自身の危機を一瞬で察致し、聞こえた方角に手を動かそうとするも、間に合わない。

 ──魔術行使は様々な(・・・・・・・・)外的要因に(・・・・・)左右される(・・・・・)。それは戸惑いなどの僅かな感覚のズレであっても、微妙に威力が異なってしまう。プロの魔術師はある程度それを抑え、自らの意思で一定の威力を出すことも可能ではある。

 だが、急激な変化は体に影響を及ぼす。それは意志ではどうにもならない。精神と肉体が乖離しているからこその欠点。

 だから、そこを突けばいい。火の魔術か、氷の魔術、体に急激な変化を及ぼす魔術を幾度も放ち、生命の運動──バイオリズムを崩した。

 天翔は白魔術が苦手だ。だから、苦手であっても相手の精神に干渉する術を覚えた。それがこの結末を呼んだのだ。


「幻覚……っ、まさか、先ほど火や氷の魔術を使っていたのは……!」


 刹那、ダックスも悟ったらしい。布石は既に張られていたことに。


「──じゃあな、ダックス・レイフォード」


 彼の手が防御に回る前に、天翔は手に持っているそれ──銀色に輝く銃の銃口を心臓に向ける。

 魔を払う銀の弾丸(シルバーブレッド)

 ──あらゆる魔術を貫通し、あらゆる概念を打ち破る弾丸が、耳を劈くような轟音と共に発射され、ダックスの心臓を捉えたのだった。



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