第八十六話 土管作り
春の田植え時期を前に、色々と準備を始めます。
『春の農地改善の為の準備』
天文十七年の二月も後数日を残すのみ、月が変われば田植え等の準備が始まる領地に新しい農法を試す為、私も準備を始めることにしました。
先ずは、以前から作ろうと思っていた土管作りです。
意外とこの時代でも作れるはずなのですが、使われだしたのは明治時代に入ってから。
土管があれば、農地に限らず利水事業が捗るでしょう。
そんなわけで、今回も懇意にしてる瀬戸物の職人さんを呼びます。
使いを出すと翌日には古渡を訪ねて来てくれました。
「姫様、お呼びがかかるのを心待ちにしておりました。
さて、この度はどのような物をお作りしましょう」
ちなみに、この職人さんの名は孫左衛門さんだそうです。
「孫左衛門さん、よく来てくれました。
今回は、少し変わったものを頼みたいのです。
それも、上手く作れれば大量に作るかもしれません」
「大量にですか。どれほどの数が入用でしょう」
「使ってみないと判りませんが、本格的に使うと数百は作るかもしれません」
「数百ですか…。それは大事です。
ともかく、どんなものかお聞きしましょうか」
「はい。こちらの図面を」
そう言うと、用意しておいた図面を渡します。
「…これは、筒ですか…」
「そうです、土で出来た筒なので土管と言います。
この大きくなっている部分を、こちらの部分に差し込み繋いで使うのです。
つまり、この土管はそれなりの精度が必要です」
「以前の瓶であれば、多くは作りませんし、その瓶だけに合えばよかったのですが、この土管とやらは全て同じ寸法でなければ使えませんね」
そう言いながら、腕を組んでうーんと悩みます。
「ですから、こちらの方は普段の作り方とは違う作り方で作ります。
木型を使う方法です」
孫左衛門さんは驚いた顔をします。
「木型…、でございますか」
「そうです。
こちらの絵の様な木型を予め用意し、このように作るのです」
更に、木型の絵とそれの使い方を書いたポンチ絵を渡します。
孫左衛門さんはそれを手に取りじっくり眺めます。
「これは新しい作り方でございますね。
この技法は、この土管以外にも応用が効きそうです」
「そうでしょう。
先ずは、ここに書かれてある寸法の物を作ってください。
恐らく、大きくなると今の窯では焼けない可能性もあるので、そうなると窯作りから始めなければなりません」
「そうですね。
今、窯では一番大きなものでも一抱え位の瓶になりますし、扱うものの殆どは茶碗とか小物ですから、このくらいの大きさが良いと思います」
「それでは、一先ず土管の試作品を数本お願いします。
実際に繋いで用途に耐えるか試します。
もし上手く作れれば、また暫くはこちらの土管はそちらの窯の独占としましょう。
何れにせよ、本当に何百本と作るとなれば、窯から作り直さなければ成らなくなりませんから、それはその時にまた相談した方が良いでしょう」
「そうですね。
これまでの物とは少々勝手の違う品になりますから、そうして頂いたほうが助かります。
では、一先ず試作品が上がりましたらお持ちします。
木型から作らなければなりませんし、新しい技法になりますので少々お時間がいるかもしれませんが、時間が掛かりそうならまたお報せします。
それでは、今日はこれで失礼します」
「はい。よろしくお願いします」
これで上手く土管が出来ると良いのですが、用水路を作るとなると、煉瓦を作る必要がありますね。更には、古代コンクリートとかあると尚良いのですが。
とはいえ、あまり手広くやり過ぎるには時期尚早ですから、今の領地で小さなことからコツコツ進めていくのが良さそうですね。
一先ず土管作りです。
これがあると利水が随分楽になります。