第七十六話 旋盤作り その弐
旋盤作りが進展しました。でもまだ問題山積です。
『旋盤開発 その弐』
月も変わり天文十七年の二月、清兵衛さんの所の佐吉さんが旋盤が一応完成したと報せてきました。
早速、鍛冶場へ訪ねていくと、この前の旋盤が置いてある一角に案内されます。
先日の旋盤の前にビットが数本置かれています。
全て図面通りに完成していますね。
「姫さん、試しに木を削ってみたが、木は十分に削れるし、何の問題もありやせん。
穴も開けられるし、横から削ることも出来ますや」
そう言うと、木を削って作ったツボみたいなものを渡してきます。
見てみると、この手の機械で削ったの特有の筋が残っており、これを磨けば木製のツボとして完成するでしょう。
ただ、内側からこの壺の形を再現するのは簡単ではないので、穴は一応開いているだけです。
「確かに、木はこれで簡単に加工できそうですね。
これで机の脚とか作ったら、きっときれいな家具が出来るでしょう」
清兵衛さんはピンと来なかったようですね。
「ともかく、姫さんが言うものは出来たと思いやす。
この旋盤を作った熱田の大工も使いたいと言ってやしたぜ。
問題は、金属でやすが…。
ちょっと厄介な問題が。
まだ鉄は削ってやせんが、試しに真鍮を削ってみたんですか、削る事は削れやした。
ただ、この木はくり抜けた刃では、こいつはいけやせん。
真鍮相手だと直ぐに折れてしまいやす。
しかし、この佐吉が考えた刃だと、穴が空けられやす」
そう言うと、どこかで見慣れた物を渡してきます。
むむ…、これは…。
難しいのではないかと、一先ず外しておいた金属も行けるドリルビットの一種です。
そう、例えるなら歯医者で歯を削るアレににたやつです。
うーん、何故これがここにあるのだろう?
佐吉くんの顔を見ると、目を合わさないように気づかないふりをして旋盤の掃除を始めます。
まあ、偶然思いついたことにしておきましょうか。
偶然というのも大いに有り得るのですから。
「上手いこと作れましたね。
これならば穴を開けることができそうです。
見事でした」
「へい、若いのに大したヤツでやす。
コヤツは腕もいいですが、ここもかなり良さそうですぜ」
そう言うと、頭をトントンとやります。
確かに、物覚えも良いと言ってましたし、頭が良いのかもしれません。
偶然とはいえ良い人材に巡り会えたものですね。
人材とは正に人財ですから。大事にしなくては。
「それで、問題と言うのはなんでしょうか」
「へえ、それでやすが。
木であればそこまで問題にはならないのでやすが、金属の場合熱をもちやす。
しかも、金屑が飛び散りそれが当たると火傷するほど熱くなりやす。
高熱をもつとその部分が焼入れと同じことになってしまい、歪むんでやす。
この佐吉が言うには、何かで冷やさねばならねえって言ってるんですが、水では勿論話になりやせんし、かと言って油は高価でこんなものにはつかえやせん。
回転数を落とせば、熱は抑えられるんでやすが、今度ははずみ車に力が乗らず、刃が食い込んでいけやせんぜ」
ふむ。はずみ車にもう一段ギアを噛ませば多分、トルクの問題は解決するでしょう。
「熱は兎も角、はずみ車の回転数を落とさず、この軸の回転数を落とすには、このような感じで、歯車を噛ませば、回転数を落とすことが出来ます」
そう言って、筆記用具を取り出すと草紙に図面を書きます。
ベルトが使えればもっと簡単なのですが、はずみ車の横に取り付ける金属製のギアを図面に書きます。
これで、軸に伝達するギアの大きさを変えれば速度を可変させられるはずです。
「またカラクリでやすな。
この歯車を変えることで速度も変えられるわけでやすな。
なるほど、ちょっと大掛かりな改造になりそうでやすが、やってみやす。
また仕上がったら報せやす」
「熱の方は、冷やす方法をちょっと考えてみます。
では、宜しく頼みましたよ」
「へい」
そう言うと、清兵衛さんは佐吉さんを呼ぶと図面とにらめっこに入りました。
屋敷に戻ると千代女さんが鈴木殿達が津島に到着したと報せが来たと教えてくれます。
今日は津島で一泊し、明日には熱田湊を経て、この古渡に来るそうです。
明日が楽しみですね。
一先ず木を削る所までは漕ぎ着けました。
完成までには、まだ少なからぬ問題が起きそうですね。