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吉姫様の戦国サバイバル ベータ版  作者: 夢想する人
第四章 激動の天文十七年(天文十七年1548)
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第七十一話 信広兄の挨拶

信広兄がまた叔父達と三河についての話をします。





『信広兄の年賀』



私と父上との年賀の話が終わり、宴の場が落ち着いたところで、信広兄が信康叔父の前に行き、年賀の挨拶をします。

信康叔父は岩倉に居るのですが、この度の三河出陣の際には岩倉は美濃への抑えの為参陣していなかったため、信広兄とは去年の正月以来となります。


「与次郎叔父上、旧年の正月祝以来ですな。

 昨年の十一月の三河での戦以来、岡崎の動きは無くこうしてまた年賀に来ることが出来申した。

 今年は今川が本格的に出てくると思われまする故、またご助力をお願い申す」


そう言上すると、平伏します。

それを見て、叔父達が頭をあげるように言います。


「信広は相変わらず堅苦しいな。

 ここは身内だけの宴席だぞ」


そう言うと信康叔父が笑い出しました。

つられて信光叔父も笑い出します。


「ははは、全くであるな」


信広兄は困った顔をして頭を掻きました。

そういう姿を見ると、いつの時代の若者も変わらないなとそんな気がします。

完全に前世の視点ですね…。


信康叔父が改まって兄に話します。


「信広よ、聞き及んでおると思うが、美濃の斎藤とも和議がなり、同盟を結ぶことと相成った。早ければ夏には利政殿の娘が輿入れしてくる。

 恐らく農繁期の後にあるであろう今川との決戦は三河は勿論、尾張の命運が掛かっておる故、岩倉も参陣し、伊勢の抑えを除けば総力戦となろう。

 その折には、儂も恐らく三河へ行くこととなる。

 安心いたせとは言わぬが、尾張の兵、そして安祥の兵を合わせば、今川の総動員出来る兵力を凌ぐのだ。互角以上の勝負が出来よう」

 

信康叔父の話を聞いていた父が話を継ぎます。


「信広よ、そのためにも、先ずは後背を突かれぬよう、岡崎をどういう形であれ決着せねばならぬぞ」

 

「はっ、承知しております」


兄が父に返事をすると、今度は信光叔父が兄に話し出します。


「それで、信広。

 今年もこの場に来れたと言うことは、安祥は安定して居るのだろうが、現状はどういう感じだ。

 兄者より大体の話は聞いておるが、儂は先の三河へは留守居で勝幡に詰め、斎藤方に備えておったので、参加しておらん。

 やはり今年も本人を前に直接聞くのが良かろう」

 

信広兄はそれを受け、話し出します。


「安祥は、去年は岡崎の動きは一昨年程ではなく、明らかに負け戦続きで求心力が落ちているように見えました。

 去年、ここでお話した、自壊を待つという戦略は悪くないと思っておりましたが、夏頃に思わぬ事件が起き、それが崩れ申した」

 

「戸田氏の一件であろう」


「はい。

 結果、人質を取られた今川が報復のために戸田氏を攻め、戸田氏が救援を求めたため、救援した結果、吉田城を獲り、その過程で調略を進めていた三河南部を平定したのは知っておられるかと」

 

「うむ」


「それで遠江と直接接することとなったため、去年今川が直接攻めてくるという事態になったのです」


「であるな」


「遠江では井伊氏を調略し、父上が飯尾殿率いる今川遠江の軍勢と合戦して勝利し、遠江の天竜川よりこちらを平定しました。

 そして、それに呼応して出陣するであろう、岡崎勢を釣り出し安祥勢との間で合戦してこちらも勝利し申した。

 以降、岡崎の動きは無く、忍ばせている者によれば不穏な空気が漂っておるとの事。

 岡崎には今川からの与力も詰めておりますから。

 今回の、遠江での今川の敗北は先の戸田氏攻めの失敗より東三河の松平庶家や国人衆らに与えた影響はかなり大きかったように見えます」


「であろうな。

 であれば、信広、年賀の祝賀に出る位の余裕はあろうが、あまり長居は出来ないのではないのか?」

 

「勘助や半蔵に後を頼んでおります故、何かあれば直ぐに知らせはありましょうが、あまり長居をするつもりは元よりありません。

 父上と今後の方策の話し合いをした後には直ぐに戻ります」

 

「うむ。

 それで、岡崎はどうするのだ?」


「岡崎は、一先ず手の者に様子を探らせ、様子をみます。

 東三河の国人衆らの寝返りも相次いで居ります故、忠広は更に追い詰められましょう。

 その上で岡崎で何か事があれば、直ちに兵を進めます。

 もし、何もなくとも六月迄には今度は攻め落とすつもりで、兵力を動員し岡崎を囲みます。

 それで、降ればよし、降らなければ少なくとも今川との決戦の妨げにならぬ様、籠城戦に持ち込むつもりです。

 力押しで攻めては、岡崎を降した後に差し支えます故」


信広兄の話を聞き終わった信光叔父は腕を組み目を閉じ暫し考え、一言。

 

「…で、あるか」


「はっ」


それを見ていた父が笑いだします。


「ふははは。

 孫三郎よ、他にも言うことがあるだろう。

 信広は、井伊の娘と結婚するのだぞ。

 儂の子では初めての婚儀よ」


それを聞き信光叔父が何とも言えない表情をします。


「兄者、その話を今しようとしておったのですぞ。

 

 信広、言い遅れたが、結婚の儀、おめでとう。

 我ら兄弟の子で初の婚儀故な、安祥まで祝に行けるかどうかは今はわからぬが、もし行けずとも、心尽くしの祝の品を送ろう。

 

 信広は庶長子とはいえ、兄者の長男、もし男子が出来れば後の織田を継ぐやも知れぬ。

 強き子を作ってくれ」


それを聞き、信康叔父が笑います。


「おい、孫三郎。子はまだ気が早いだろう。

 聞けば、井伊の娘は吉と同い年だそうだ。

 輿入れしてきて生活に慣れぬ妻を大事に労り、落ち着いてから子作りを始めるくらいで丁度よい。

 信広、儂からも祝わせてもらうぞ。

 儂は多分祝には行けぬだろうが、儂からも何か贈り物をしよう」 

 

「はい。叔父上方、お気持ち有難く…」


叔父達はそれを見て頷き合うと言葉を掛けます。


「ともかく、助力は惜しまぬ故、何かあれば相談してくるが良い」

「今年もお互い励もう」


そうして、三人で酒坏を交わしました。


それを見ていた父が〆ます。


「では、そろそろ切りが良いので宴はここまでと致す。

 皆、本年もよろしく頼むぞ」

 

そう言い残すと、今年もいい感じにお酒の回った父は奥に下がっていきました。


私も叔父達や兄に挨拶をすると自室へ下がろうとしますが、また兄に呼び止められます。


「吉よ、また話がある故、後ほど部屋へ伺う」


「はい。兄上」


そう言葉をかわすと、自室へ戻りました。


今年も何やら話があるようです。

どんな話でしょうね…。


そう言えば、今年は弟勘十郎の話は出ませんでしたね。

敢えて出さなかったのか、たまたま話題に上らなかったのかは判りませんが…。

少し気になったのでした。何しろ来月には元服の筈なのですから。




今川が破れ、岡崎は不穏な空気が漂います。

今川の反撃を前に、三河はまだ落ち着きません。

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