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吉姫様の戦国サバイバル ベータ版  作者: 夢想する人
第四章 激動の天文十七年(天文十七年1548)
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第七十話 天文十七年の我が家の正月祝

去年に引き続き、天文十七年の古渡での私的な祝の話です。





『天文十七年の我が家の正月祝』



正月二日目は例年通り古渡での我が家の新年のお祝いです。

弾正忠家としての大きな祝は那古野で例年行われる為、こちらの方は父の私邸でのプライベートな祝で、参加するは父の兄弟など身内だけになります。


父の兄弟の子供達、つまり甥っ子や姪っ子など親戚の子達と顔を合わせられるのも、この正月祝ならではですね。

といっても、全員集合しているわけでは勿論ありません。


基本的に、父の兄弟達は父の家臣の場合が殆どなので、前日の那古野での祝で年始の挨拶は済ませています。


とは言え、元服前の子供は別室になるのでこの場には居ません。私も勿論、裳着の前はこの祝には呼ばれていません。


さて、今年はと言うと、去年も来ていた信康、信光両叔父が来ていますね。

更には信広兄もまた来ています。安祥は大丈夫なのでしょうか…。



ちなみに、父の兄弟の次男の信康叔父は犬山城の城主で、岩倉の伊勢守家信安殿の後見を務める等、岩倉との繋役になっている人で、父の代理の使者を務めることもあり、また武勇にも優れた人物です。

史実では加納口の戦いで討ち死にしており、岩倉との太いパイプとなっていた叔父を失ったことで、以降岩倉とは疎遠になります。

更には、まだ元服してませんが、史実で信長に味方した信清と信益の父になります。

この人が父信秀による尾張統一のキーマンの一人なのは間違いなく、この叔父が健在なお陰で岩倉との関係が未だ良好なのです。


また、三男の信光叔父は守山城の城主で、父の信任厚い片腕の様な人です。

兄弟で最も武勇に優れ、小豆坂七本槍の一人であり、かと言って武勇だけの人かと言うと、所謂武略にも長けた人物で、一軍を率いるだけの能力があります。

史実では武略で清洲を落とした後信長に渡し、信長に譲られた那古野で不慮の死を遂げたと言われてますが、果たして真相は。父がその後を知れば嘆き悲しむでしょうね。

信光叔父の二人の子もまだ元服してません。私と同じ次の世代ですね。




お祝いが始まります。

まず、父が年始の祝賀の挨拶を述べ、音頭を取り先ず一杯。

そして、皆で父に挨拶をし、食事が始まります。


今日も去年と同じく、戴き物の塩ジャケが出てますね。

この時代は大きなテーブルを使ったりするわけではなく、食事の時や宴席の時などはそれぞれに膳が並びます。

そして、この日目に止まったのは、なんと卵料理が出てますね。

父は既に食べてるのか、気にせず美味しそうに食べてます。

が、叔父二人も普通に舌鼓をうってます。気づいてないのか、既に食べてるのかは判りませんが…。

温かい茶碗蒸しや、だし巻き卵は美味しいです。


お酒が適度に回ったところで、昨日は岩倉の祝賀に出ていた信康叔父が父の前に座り、年賀の挨拶し、言葉を交わします。

と言っても、簡単な世間話をするだけで、また席に戻ります。

多分、また後で父と三人で今後を話し合うのでしょう。


そして、信光叔父が私に頷いてみせます。

自分は年賀の挨拶は那古野で済ませているので、私が挨拶をしなさいという事なのでしょう。


信光叔父に頷き返すと、父の前に座り年賀の挨拶をします。


「父上、明けましておめでとうございます。

 旧年は数々の勝利、そして遠江の奪還おめでとう御座います。

 そして、また一年我儘勝手に付き合って頂き、有難うございました。

 至らぬ娘ではございますが、また色々とご相談すると思います。本年もよろしくお願い申し上げます」


父は私の挨拶に微笑みました。


「吉よ、旧年の働きもまた見事であったな。

 領地の方も代官より報告を受けておる。


 塩水選という新たな手法により、収穫高が増えたそうだな。

 一手間掛けるだけで、収穫が増えるなど、これだけでも見事な業績よ。

 これは簡単故、他の村にも導入する予定だ」

 

父は上機嫌に盃を空ける。

今日は祝いの席なので諸白です。


「他にも、一昨年の働きが更に実を結んだな。

 一昨年から作りはじめた石鹸であるが、去年は吉の領地でも多くの数を作ったが、作らせた他の村でもそれなりの数を作ることが出来た。

 作っておる村は吉の進言通り、自ら使う分を除いて納める事を認めることで、彼らのやる気を出させ、良き品質のものが多く出来たのだ。

 やはり一日の長がある吉の村の石鹸が一番品質が良い故、この中から特に品質の良いものを今年の禁裏への献上品とする。

 帝が使われたとの話が広まれば、更に評判となろうな。

 尾張では既に評判故、来年は更に多くを作る予定でおる」


そして上機嫌に更に一杯。

叔父達からも、称賛の声が上がる。


「石鹸は今や必需品であるな。

 綺麗にしておかねば、室の機嫌が悪いのだ」

 

それを聞き、皆が笑う。


笑いが収まったところで、父が語りだす。


「更には、綿花の栽培の成功。こちらも見事である。

 村の乙名は吉の栽培指導が良かった故、初年より収穫が出来たと言っておった。

 村の者の骨折りも大儀であるが、村の者の手を空けるために一昨年より新しい農具を導入するなど、入念に準備をしたことが大きかったな。

 それらがなくては、とてもではないがこれだけの結果は出せなんだろう。

 綿花はこれからの必需品故、他の適地でも栽培を始める予定だ。

 

 布団は、実に寝心地が良いぞ。あれを欲しがるものがかなり居るのだ。

 この冬でも暖かく、あれのお陰で随分朝の寝起きが良い気がするわ。

 ただ、寝起きは良いが、心地よすぎて布団が誘惑するのが玉に瑕よな」

 

そう言うと、父は上機嫌に笑い出す。



「兄者、そんなに良いものなら、拙者も欲しいですぞ」

「同じく」


そんな兄弟たちをみて、父はほくそ笑むと、上機嫌にまた一杯。


「綿花の増産がなれば、お前たちのところにも行くであろうよ。

 それまでは我慢いたせ」

 

「きっとですぞ」

「約束でござるぞ」


今度は三人で笑いだす。

やはり兄弟仲がいいようです。


信広兄はと言うと、父や叔父達を見ながら静かに飲んでますね。

まあ、この三人には頭が上がりませんから。


そして父は、また盃を空けると、語りだします。


「それと…、そうそう。

 吉が作った鎧、あれは良かったぞ。

 

 実際に、鉄砲を防いだ。

 試し胴でも大きく凹んでおったから、条件が良かったのであろうが、数発ではあったが、当たった弾全てを防いでおったのは大きかった。

 あれが無くては、大事な馬廻りの者を失うところであったわ。

 難点は、多くの鉄を使う故、多くは作れぬ事であるが、吉の鍛冶屋より製法を聞き、古渡でも幾つか作らせておる」


「あれも、そのうち儂等にも欲しいものよ」

「であるな」


叔父達も欲しいそうです。


「うむ、あれは流石に雑兵にまでは今は回らぬが、主だったものだけでも使うべきであろうな。

 美濃で鉄砲に狙い打たれた事を鑑みても、他でも同じ事をされぬとは限らぬ故な」

 

叔父二人は深く頷く。


それで何かを思い出したのか、急に膝を叩く。


「おお、そうよ。

 そう言えば、この吉がまた人を呼び寄せたのだ。

 此度は、紀伊より、その鉄砲撃ちを研究しておるという、吉が優れた武将だと推薦する御仁よ。

 儂も実際に会ってみたが、まだ二十代位の若い男であるが、精悍な顔つきで良い目をしておったわ。

 しかも、鉄砲を作れるらしい。

 吉は一族ごと丸抱えにせよというが、流石にそれは即答は難しいなと考えておったが、それを聞いて思わず丸抱えを即答してしまったわ」

 

そう言うと、盃をまた一杯空ける。


「鉄砲を作れる一族ですか。それはまた」


「儂はこの前大垣救援に美濃へ行ったが、鉄砲撃ちはおらなんだ。

 しかし、その前の加納口の激戦の時は、確かにおった故な。

 我らで鉄砲衆が揃えられるのは心強い」


「そうであろう、吉から紀伊に鉄砲撃ちの名人が居ると聞いてはおったが、戦続きで忙しくすっかり失念しておったわ。

 まさか帰ったら、その鉄砲撃ちが古渡に来て居るとは思いもよらなんだわ」


「父上、鉄砲撃ちの名人は根来寺の御坊ですよ。鈴木殿は鉄砲の用兵の研究をされている方です」


「おお?そうなのか。

 まあ、それでも良い。鉄砲を作れ、使える一族が我らに仕えてくれると言って居るのだから」


「うむ。これも手柄だぞ、吉」

「であるな」


と、両叔父が賛同します。


「それと…。

 そうよ、松平の竹千代らの世話も大儀であるな。

 結局、松平の者以外で熱田の同じ年頃くらいの子供らも教えることになったようであるが、熱田の加藤殿が褒めておったぞ。

 武衛様の家臣筋の丹羽氏の倅も中々に優秀で頑張って居ると聞く。

 いずれ、人が増え、国の力が増せば、武辺者ばかりでは国が回らなくなるのは目に見えておる故、今のうちから内向きの仕事に長けた者を育てるのは理にかなっておる。

 いつ迄もとは行かぬだろうが、しっかり形が出来るまではよろしく頼むぞ」

 

「はい、父上」


「内向きの者でござるか。確かに、しっかりと金勘定の出来るものは貴重で御座るな」


「武士は武辺者は多くござるが、内向きの仕事を馬鹿にする者が多いのには困ったことであるな」


三人で頷き合ってます。


「後は、この前貰った応急手当の手引、これも見事である。

 金瘡の知識のある望月の者に見せたところ、感心しておった。

 今後、あれを元に、さらにわかり易い手引書を作成し、将兵らに広める予定で居る」


「吉の作った薬も、去年の戦では随分役に立ったぞ。

 書付の手順で処置をすれば手や足を切らずに済んだ者が格段に増えた。

 これまでは、戦場では些細な傷に見えて悪化して切らねばならぬ者が多かったのだ。

 結局生きて帰っても、手足が無くなったものは衰えて死んでしまう者が多い故な…」


兄や信康叔父も頷きます。


信光叔父の話を暫し目を閉じて聞いていた父が目を開けると、膝を打つ。


「さて、最後ではあるが、吉よ。

 去年の、戦の献策や情報の数々、誠に見事であった。

 我らに勝利をもたらしたと言っても過言ではないぞ」

 

両叔父、そして兄が口々に賛同する言葉を発し、大きく頷いた。


策は策でしか無く、それを実現するのが如何に難しいかということを考えれば、過大な評価だとしか思えませんね…。


「私の机上の空論の如き策を実現して見せたのは父上や叔父上方、そして優れた将兵らです。

 私は少し手助けさせてもらったに過ぎませんよ」

 

「ふはは。また奥ゆかしいことをいいよるわ。


 吉は褒美をやろうと言うても要らぬと言うし、何で報いてやれば良いのか、これも悩みの一つよ」

 

「なんとも困った姫ですな」


「あまり兄者を困らせるなよ吉。

 裳着を済ませたとはいえ、子であることには変わらぬのだ。

 子は子らしくして、褒められれば喜び、褒美をねだればよいのだ。

 このままでは兄者が吝嗇だと噂が立つわ」

 

うーん、そう言われましても。

お金は既に十分ありますし、この時代、特に欲しい物なんてないのですね…。

私と同じく未来知識を持った好青年を一人、なんて頼んでも無理でしょうし。


「あはは…。

 では、父上がこの前話されていた古渡の話もありますし、また考えた上で父上にお願いさせてもらっていいですか?」

 

それを聞いて、父は機嫌良さげに微笑む。


「うむ。それで良い。

 儂は、吉の願いであれば、出来る限りのことは叶えてやりたいと考えておるのだ。

 結果として、それが儂の為にもなっておるのが、なんとも複雑なのだが」

 

叔父達が笑います。


そして、父が改まって話を締めくくります。


「吉よ、旧年の働き誠に大儀である。

 本年も存分に励むといい」

 

そして、父は私に盃を差し出し、受けると少しだけ諸白を注いでくれます。

私は儀礼どおり飲むと、平伏して父の前から席に戻りました。


後は、和気藹々と、それぞれが酒や食事を楽しみだしました。



そうして、暫くするとまた去年の様に叔父達の前に兄が挨拶に行きます。




実質、吉の論功行賞、去年の簡単ダイジェスト的な話です。

吉視点では見えない部分が信秀より語られます。

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