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吉姫様の戦国サバイバル ベータ版  作者: 夢想する人
第三章 美濃騒乱(天文十六年1547)
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第六十五話 布団作り、領地での忘年会、古渡産業革命その零

今回は三本立てです





『津島訪問』



天文十六月十一月も下旬に差し掛かった頃、津島より迎えの船が来たとの報せがあったので、綿花を持って大橋氏の元へ向かいます。

古渡は歩いて直ぐの所に川船の桟橋があるので、熱田経由で短時間で津島を訪れられるのです。やはり、船での移動は早くて楽でいいですね。


先触れを店に出した後、店の方に行くと大橋殿が待っていました。


「大橋殿、この度も船を出していただいて有難うございます」


「いえいえ、姫様にはいつもお世話になっておりますから、この位はさせて頂きませんと」


挨拶を済ませると、小者に運ばせた綿花の入った袋を大橋殿の前に置きます。


「これが先ごろ収穫した綿花になります」


「姫様、こちらが尾張で収穫出来た綿花でございますか」


そう言うと、袋から綿花を取り出し確認します。


「確かに、綿花ですな。

 品も悪くないと思います。


 この度はこれで全てなのでございますか?」


「はい。この度は試験的に栽培したものなので、これで全てです。

 しかし、これで栽培法が分かりましたし、種も取れましたので来年はもっと大きな規模で栽培の予定です。

 父も、将来的には私の領地の村だけではなく、もっと広範囲で栽培する事を考えているようです」

 

「おお、そうですか。

 綿花はこれから更に入用ですからな、国内で多く栽培されるのはありがたい」


「ええ、そうでしょう。

 この度の収穫は大きいと思います。

 

 さて、それではこちらの綿花を使って、先ずは父の布団の方を作ってください」

 

「はい、既に職人の手配や布団を入れる袋の方は出来ております。

 早速、布団づくりの方、試してみます」

 

「お願いします。

 布団の中の綿花が偏らない様にするのに工夫が必要だと思いますが、宜しくお願いします。

 父も楽しみにしておりますので」

 

「おお、備後様が既に楽しみにされて居るのですか。

 それは、気合いを入れねばなりませぬな。

 

 では、また仕上がれば、今度は届けにあがります」


「はい。お待ちしておりますよ」


「それと…。

 先日、頼まれていた人探しの件ですな。

 

 根来寺の津田殿、それに雑賀荘の鈴木殿でしたな。

 どちらも姫様の言われる場所に居られました。

 

 津田殿は即答出来ないとの事で、暫く返事を待って欲しいとの事にございます。

 鈴木殿は、姫様のお話、半信半疑で御座いましたが、一度姫様を訪ねるとの事に御座います。

 またあちらから連絡があればご連絡致します」

 

「骨折り、大儀です。

 二人共見つかったのは何よりでした、なんとか父上に仕えてもらえると良いのですが」


「そうでございますね」


「それでは、報せを待っておりますよ」


「はい、承りました。

 ではまた、戻られる際には店の方においでください」

 

「お気遣い感謝します」


大橋殿のお店を後にすると、また津島の町を弥之助、滝川殿、千代女さんの四人で散策します。

流石に、もう何度か来ているので、随分と勝手が分かってきましたが、やはり大きな街ですね。


この街に来ると、楽しみなのはやはり甘味処。

堺の街に行けば南蛮渡来の菓子が食べられるかもしれませんね。

金平糖とか、カステラとか。


そのうち、堺の湊にも行ってみたいですね。

信長ならともかく、姫の身分では中々叶わないかもしれませんが…。


この日も、男性陣には悪いですが、甘味処を梯子し、お土産を買って古渡に戻ったのでした。





『領地視察~石鹸作りその後~』



天文十六年十一月下旬、津島より戻った翌日、久しぶりに領地に行きました。

領地は漁村ですが船では行けないので、いつも通り歩いていきます。


もうすっかり寒くなり、冬の風景になっています。


村が近くなると、いつもの様に弥之助に先触れを頼み、村に到着すると乙名が出迎えてくれました。


「姫様、よくお越しくださいました。

 寒かったでしょう、ささ、こちらの方へ」


そう言うと、乙名の家に招いてくれました。

 

居間に通されると、白湯が出されます。

やはり、寒い日はこれに限りますね…。


「綿花の方、有難うございます。

 品質の方も問題ないと思います。

 来年は、作付面積を広くして更に多く収穫できるようお願いします。

 これは、父よりこの度綿花の栽培を成功させた事の褒美です」


そう言うと、用意してきた小袋を乙名に差し出しました。

乙名は顔を綻ばせます。


「有難うございます。

 綿花の品質も問題なかったようで良かったです。

 

 これまで栽培したことのない種類の作物でしたが、姫様の指導が良かったので無事に収穫まで漕ぎ着けることが出来ました。


 村の方は、姫様の農具のお陰で、余力がありますので、作付面積を増やすことは問題ありません。

 村の者とは、実は収穫の際に面積を増やす話をしていたのですよ」


「そうでしたか。

 では、お願いしますよ。

 これからは、綿花は重要な作物となります。

 この村で上手く行けば、他の村でも栽培を始めることとなるでしょう。

 

 来年の春に、また新しい農具と農法を考えて居ますから、それで更に余力が出来るでしょう」

 

それを聞き、乙名の表情がパッと明るくなる。


「おお、それは楽しみですな。

 今年は、塩水選を導入しただけで収穫がよくなりましたから、来春が今から楽しみです」


「そうそう、石鹸の話を聞きましたよ」


「はい、石鹸の方ですが、今年は春の時点から方々を見て回り目星を付けておりましたから、椿の実、椎の実、特に椎の実はかなりの量を収穫することが出来ました」


「それは楽しみですね」


「去年教えて頂いた手順で油を絞り、石鹸の方を作っておりますので、また古渡の方に届けさせていただきます。

 村でも、あの石鹸を欲しいと言うものが結構おりますので、この時を楽しみにしておりました」

 

「わかりました。

 古渡に入れた頂いた石鹸は、税を差し引いた分は全数買い取りますから、代金はまた代官を通じて支払います。

 

 石鹸を使い清潔に過ごせば病気になることも減り、健康に暮らせますよ」

 

「有難うございます。

 姫様のお陰で、我が村の暮らしぶりは他の村と比較しても格段に良くなり、感謝に堪えません。

 

 石鹸は、確かに最初は皆が使ってみたわけではないのですが、新しいもの好きの者から使ってみて、確かに例年より病気にかかりにくくなったと思います。

 何より、顔が見違えるほど綺麗になりますので、村の女どもが皆美人に見えます」

 

そう言うと、村長は笑い出す。

言われてみれば、村長も初めてあった頃から考えれば、随分小奇麗になりました。

老人にしか見えなかった顔も、今見れば五十代くらいにも見えます。


「うふふ。そうでしたか。

 村の男の方たちも皆男前になったことでしょう」

 

「あっはっは、いや失礼。

 

 では、今日も魚を釣って行かれますか?」

 

「はい、少々寒い季節ですが、ここに来ると新鮮な魚を食べるのが楽しみですので」


「では、村の者に準備をさせます」


乙名の屋敷を出ると、浜の方に向かおうとしたのですが、待ち構えていた小者の人に既に用意さた床几にエスコートされました、そこで座ってなさいということですね…。


今日は、お供の武士や小者たちが釣りをし、魚が釣れると小者たちが手際よく料理をして、ささやかな宴の準備を始めます。


弥之助は小者たちを手伝ってますが、警護の滝川殿と千代女さんは私の側で控えています。

多分、これが本来あるべき姿なのでしょうかね…。


どうにも、山田殿とお供たちを連れて行くと、調子が狂いますね。

とはいえ、私に拒否権は無いのですが…。


手持ち無沙汰に男たちが働いているのを眺めていると、村の若者に声を掛けられます。


「姫様、少し良いですか」


滝川殿がチラリと視線を向けますが、私が気にしていないのを見ると視線を戻します。


「はい、どうしましたか」


「俺はこの村にこの前やって来た鍛冶屋の倅ですが、村では二人も鍛冶屋が居るほど仕事がないのもあるのですが、腕を磨きたいのです」


そう言えば、この前清兵衛さんに新しい鍛冶屋さんを紹介してもらってた時に若い子が居ましたね。


「ほう、それは良い心がけですね。

 私は、あなたのお父上の許しがあるならば、かまわないと思いますよ」

 

それを聞き、若者は目を輝かせます。


「それでは、この村に以前居た清兵衛さんがとても腕のいい刀鍛冶もやってた鍛冶屋だと聞きました。

 清兵衛さんに弟子入りしたいので、俺を古渡に連れて行ってくれませんか」

 

誰かに意見を聞きたいところですが、先ずは清兵衛さんに聞いてみますか。


「清兵衛さんの事ですから、直ぐに返事は出来ませんが、屋敷に戻ったら清兵衛さんに聞いてみます。清兵衛が良いと言えば、私は良いと思いますよ。

 それでは、ちょっとあなたのお父上のところに行きましょうか」

 

そう言うと、山田殿に少し席を外す旨伝えて、滝川殿らを伴って、鍛冶屋のところにやって来ました。


若者に連れられて鍛冶屋さんがやってます。


鍛冶屋さんは父上位の年齢でしょうか。


「姫様、倅の我儘を聞き入れて下さると聞きましたが、本当でございますか」


「はい、私はあなたが許可をするならば、また弟子入りを希望する清兵衛さんが受け入れるなら構いませんよと言いました」


「そうでしたか。

 わかりました、あっしもまだ老ける歳でもありませんので、この村はあっし一人で十分でございます。

 倅をよろしくお願いします」

 

「古渡で受け入れるかどうかは、清兵衛さん次第ですが、ともかく清兵衛さんに聞いたら報せましょう。

 清兵衛さんへの弟子入りが叶ったなら、古渡の私を訪ねてくれれば清兵衛さんに引き合わせましょう」

 

「「よろしくお願いします」」



鍛冶屋親子と別れると、また席に戻ってきます。

料理の準備はしっかり整い、供のものと乙名を交えてささやかな宴をしました。

村の者に行き渡るくらいの酒の用意もありますので、村の者も村の者達で宴席を組んでいます。


「皆の者、今年も大いに励んでくれて私は嬉しく思います。

 来年も皆元気で励みましょう。

 一層励めばより豊かになることを約束しましょう」

 

「「「おお!!」」」


村人から声が上がります。


「では、ささやかですがお酒の方も用意してありますので、今日は楽しんでください」


私の音頭で、宴が始まった。


今年はまだ一月あるが、次に私が村を訪れるのは来春になりますので、忘年会の様なものです。


そう言えば、三河の戦が終わってから、まだ権六殿と半介殿は顔を出してませんね。

流石に戦続きでは忙しいのかもしれません。





『古渡産業革命その零』



十一月も領地から戻った翌日、清兵衛さんのところに行きました。

例の若者の話を聞くためです。


「おお、姫さん。

 これから、屋敷に行こうかと思ってたところですぜ」

 

「おや、そうでしたか、丁度良かったですね」


「そうですな。

 ところで、姫さんはどんな御用で?

 釜の件ですか?」

 

「いえ、清兵衛さんに弟子入りしたいと言うものが居るのですが、如何ですか?」


「弟子ですかい?

 今は、鍛冶場の者に手伝って貰ってますから、人手は足りてますが、弟子は居りませんから、別にかまやしませんが。

 俺なんかで良いので?」

 

「彼のたっての希望なのですよ。

 それに、清兵衛さんは私が家臣にしたいと思うほどの腕。

 弟子がいてもおかしくありませんよ」

 

清兵衛さんは照れて頭の後ろを掻く。


「たはは。

 まあ、姫さんにそういってもらえるのはありがたい事ですがね。

 わかりました、では一度会ってみて決めさせては貰いますが、弟子入りは構いませんので、また連れてきてくださいや。

 どこのやつなんで?」

 

「ええ、弟子入り希望の人は、清兵衛さんが前に居られた村の鍛冶屋さんの子息ですよ」


「ああ、あの人の倅か。若いのに腕が良いやつだ。

 あいつなら問題ありやせんよ」

 

「わかりました。

 では、また今度連れてきますね。

 

 清兵衛さんの用は、釜のことですか?」

 

「そうでさ、釜のほうが一先ず完成しやしたので、見てもらおうかと。

 やはり、弁を作るのに手間取りやした。

 釜そのものも、姫様の要望を満たすかはわかりやせんし」

 

そういうと、鍛冶場の奥の一角に案内されました。


そこに、お椀を二つ重ねたような釜がありました。

水の導入口と、排気弁。

しっかり図面の場所にあります。

見た目は、よく出来てますね。


近づいて、弁の中を覗いてみると、しっかり削り出して作られたらしい内部構造が見えます。

パッキンも何もないですから、後世の物に比べると完璧では無いですが、この時代の作にしてはよく出来ていると思います。


「さすが、いつもながら素晴らしい腕です。

 正しく要求を満たしてるかは使ってみないと判りませんが、よく出来てると思います」


「それを聞いて安心しやした。

 それでは、早速試しますか?」

 

「はい。では試してみましょう」


清兵衛さんは鍛冶場の若い衆を呼んで薪を持ってきてもらうと、水を容器に満たして釜を火に焚べます。

暫くすると、釜の水が煮立ち沸騰を始め、弁から水蒸気を吹き出します。


「ここまでは問題ないようですね」


「湯気がしきりに吹き出してやすな」


そして、弁を操作して蒸気の吹き出し量をコントロールします。

すると、シューっと吹き出していた蒸気が段々高い音を揚げて勢い良く吹き出すようになります。


「おおっ、なんだか湯気の勢いがましやしたぜ。大丈夫なんですかい?」


「ええ、この強く吹き出す湯気の力を使うのですよ」


弁を完全に塞ぐと釜が破裂する危険性もあるので、ギリギリまで弁を閉めてみます。


驚くほどの勢いで蒸気が鋭く吹き出しますが、弁の方は問題ないようですね。


後は、これにピストンつけるなり、シロッコファンつけるなりすれば動力になります。


「どうです、すごい勢いで湯気が出ているでしょう。

 この力を動力に転化するのです」


「ど、どうりょくですかい?確かに、湯気の勢いは凄い勢いですな」


「そう、動力。動かす力と書いて動力です。

 転化するには、新たなからくりが必要ですが、それを作る前にそれを作るための道具を作る必要がありますが。

 

 ともかく、ここまでは問題ないようです。

 よく頑張りましたね」


「ありがとうございやす。

 頑張った甲斐がありやしたぜ。

 新たな道具ですかい、この前作ったねじ切りや万力は慣れてしまえば随分便利な道具でやしたが、その新しい道具も便利なものなので?」

 

「そう、以前話したかしら。

 鍛冶の歴史を変える位の道具となるでしょう」

 

「鍛冶の歴史を変える…ですかい」


そう言うと、自分の手をじっと見つめて。


「この手が鍛冶の歴史を変える。

 おおう、なんだか燃えてきましたぜ。

 こんな面白い仕事をこの手でできるなんて、美濃からまた尾張へ逃げてきて、あの村に流れ着いたときには想像もしやせんでしたぜ」

 

そういうと、感慨深げに自分の手に見入ります。


「清兵衛さんは美濃から来られたのですか」


「おう、元々は津島の刀鍛冶で鍛冶修行をしたんでさ。

 その後、美濃の刀鍛冶の村へ行き、そこで嫁と出会い嫁の村で鍛冶を。

 ところが、その村が戦のとばっちりで焼かれてしまい、生き残った村の者は方々に散り散りでさ。

 俺は、嫁を連れてまた尾張へ舞い戻ったんですがね、津島にはちと事情があって戻りづらくて、流しの鍛冶をやりながらあの村に流れ着いたと、そういうわけですぜ」

 

「そうだったんですね。

 それは随分大変な経験を」

 

「それで子供が出来て少しした頃に、姫様があの村の領主になったので、お会いしたというわけで。

 本当は後何年かしたら、子供のこともあるから嫁の親戚が居るという村に移り住もうかという話をしていたのですがね。

姫様の仕事が面白いのでその話を考え直していた所に、家臣にしてくださるという話で、渡りに船。というわけでさ」

 

「うふふ、そんなことがあったのですね。

 では、また新しい道具の絵図面などを用意しておくので、暫くはまた城の仕事を手伝っておいてください。

 戦続きできっと手が足りなくなってるでしょう」

 

「わかりやしたぜ。

 では、また仕事を待ってやす」

 

鍛冶場を後にすると、かつて使ったこともある旋盤を頭のなかに思い描いたのでした。


ピストンを作るためにはやはり旋盤があったほうがずっと楽ですからね。


布団作りを頼み、そして領地の方も順調で忘年会です。更には蒸気釜の試運転も問題なく。

まだ今年は続きますが、来年も吉姫は忙しそうですね。

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