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吉姫様の戦国サバイバル ベータ版  作者: 夢想する人
第三章 美濃騒乱(天文十六年1547)
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第五十九話 津島への船旅

船に乗って津島へ日帰り旅行に行きました





『津島訪問』



天文十六年十月初旬、鍛冶屋清兵衛さんが戻ってきた数日後、津島へ行く事にしました。

前回は津島街道を徒歩で行きましたが、今回は船で津島へ行きます。

まあ、たかが姫が津島に行くのに船を仕立てるというのも、実に無駄で贅沢なのですが、実はまだ和製ダウの実物に乗ったことがないので、この機会に乗りたいという話をしたら、大橋殿がわざわざ船を出してくれたのです。ありがたいですね。


古渡城からお供と川船に乗り、そのまま川を下ると熱田の湊に着きます。

そこで、既に到着し待っていてくれたダウ船に乗り換えです。

川船に比べると当然ですが大きな船で、渡し板を渡って船に乗り込みます。

このダウ船は三十人乗りの船で、主に商用に使われている船なのだとか。


乗せてもらって、まず目に付いたのが、帆ですね…。

何故に筵…。

そう言えば、綿花の国内栽培が広まり普及したのは戦国時代後期あたりでしたか。

だから今だと殆ど輸入品…なのかもしれませんね。

兎も角、こんな筵だと色々問題がありそうです。

ちなみに、大型の戦船にも使ってるダウの方は木綿の帆を使ってるのだとか。

多分、安いし入手が楽だから筵なのでしょうが、これは改善する余地がありですね。

折角の三角帆がこれではちょっと…。


閑話休題、船旅は快適でいいですね。

適度に風を受け、尾張の沿岸部を遠目に見ながら、滑るように海を進んでいきます。

水夫さんにダウ船の話を聞くと、最初は戸惑ったそうですが、慣れた今はこちらの船のほうが良いそうです。


まあ、私はこの時代の和船には乗ったことがないので比較はできないのですが、船酔いもせず乗り心地は良いと思います。

そして、前回とは比較にならない短時間で、津島湊へ到着です。

地図で見てもすぐそこですから、こんな距離にこんな船を使うのは勿体無いような気もしますが…。

兎も角、私の設計したダウは無事に性能を発揮し、問題なく航海出来るようです。

多分、私の知らない所で船大工さん達がいろんな苦労をしてるのだとは思うのですが…。

大橋殿には感謝ですね。


津島湊で上陸すると、水夫さん達にお礼を言い、大橋殿のお店に先触れを出します。

そして、私たちは湊で少し休んでから、大橋殿の屋敷へと向かいました。


大橋殿の屋敷に到着すると、大橋殿が自ら出迎えてくれました。


「姫様、わざわざのご足労、お待ちしておりましたぞ。

 ささ、中へどうぞ」

 

「大橋殿、船を出してくれて感謝いたします。

 お陰で、短時間でこちらの方に来ることが出来ました。

 船で来ると津島は近いですね。

 では、お邪魔させてもらいます。

 

 山田殿、ここは滝川殿と千代女さん、それに弥之助の三人で構いませんから、供の方はこれで食事でも済ませて、街の散策でもしておいてください。

 また、店を出る時に使いを出します」

 

そう言うと、弥之助に言って用意してきたお金の包をもたせました。


「姫様、心付け忝なく。

 では、我らは近くに居りまするので、御用があればお呼びください」


そういうや、彼らは三々五々、街に消えていったのです。

ちなみに、今回のお供は父が新たに付けてくれた山田五郎左衛門殿という、古渡で財務関係の奉行をやってる山田弥右衛門殿の親類筋に当たる人だそうで、主に私のお供の武士や小者の人たちを纏める人です。

多分、ずっとという事は無いとは思うのですが…。

今回は、武士、小者併せて二十名位の人がお供についてきてくれてます。


大橋殿に案内されて、綺麗な庭の見える客間に通されました。

そして、お茶とお菓子を出してくれます。


「姫様、確かに船ですと津島までは短時間で来ることが出来ますな。

 とはいえ、慣れぬ船旅、お疲れでしょう」

 

「いえいえ、海を滑るように走る船に乗り、風を頬に受けていれば、心地よくて疲れなど。

 実に良い船旅でした」

 

「備後様に作らせて頂いたあの南蛮船はなかなか良い船です。

 多くの荷物を載せられるのに、船足が速い。それでいて建造費用も今迄と大して変わりませぬ。

 今では、新たに作る船は皆あの型の船を作っておりまする」

 

そういうと、大橋殿は笑った。


「そうでしたか、頑張って作った甲斐がありましたね」


「え?

 もしや、あの南蛮船は姫様が作られたので…?


 …。


 ああ、なるほどそういうことでしたか…」

 

なんと、父は内緒にしていたのでしたか、これは迂闊でしたね。


「い、いえ。

 あの船は最初、私の領地の船大工が父上に命じられて作ったのですよ。

 それで、頑張って作った甲斐が有ったと…、そう言ったのです」

 

口元を引き攣らせながら言い繕う。

それを聞いて大橋殿はちょっと意外そうな顔をするが、また笑う。


「ああ、そうですな。

 あの船は、備後様の命で姫様の浜の村の船大工が作ったと。

 そういうことでしたな」

 

そういうと、また笑う。


ああ、ダメだこの人に言い訳は通用しない…。


私は口元の引き攣りをバレないように手を当て隠すと、笑って誤魔化しました。


大橋殿はさすが大商人、そんなものは心得たもので、話題を変えてくれました。


「おお、そう言えば。

 姫様、此度のご来訪はどのような用向きでしょうか」

 

私はなんとか気持ちを整えると落ち着いて話し出す。


「ええ、また用意してほしいものが有りましてね。

 それに、きっと新しい商材になると思いまして。

 一つだけ作るのならば、古渡の屋敷に出入りしている商人に頼めばそれで事足りるのですが、それでは勿体無いですから。

 それで、大橋殿をお訪ねしたというわけです」

 

その話を聞いて、大橋殿はキラリと目を輝かせる。


「おおっ、そうでしたか。

 それでは早速、お話をお聞きしても?」

 

「はい。

 此度、作ろうと思うのは寝具なのですよ。

 つまり、寝る時に使う物です」

 

「ほう、寝具でございますか」


「ええ、もうすぐ古渡に届けられるかと思うのですが、綿花を栽培することが出来ましてね。

 それの、初めての収穫がこの十月あたりなのです。

 勿論、この度は初めて植えたので、そんなに多くというわけではないのですが、試しにいくつか作るくらいは出来るでしょう。

 それに、この収穫で種が多くとれますので、来年は今年の経験も活かし、もっと多く栽培する予定にしておりますので、あとはわかりますよね」

 

「なんと、綿花の栽培に成功したのですか!

 それはなんとも素晴らしい事ですな、

 今は、一部の寺が寺領で寺向けに少し作っているだけなので、それが外に出てくることは殆どありません。

 今手に入る綿花はその殆どが明などからの輸入物で高うございます。

 それが、この尾張で収穫できるとなると、どれ程のことが出来るのか。

 輸入品より少し安い値段で売っても、良い稼ぎとなるでしょうが、姫様はその様な事はお望みにならないでしょう。

 故に、具体的な用途を持ってここに来られた。

 確かに、私ならば、姫様が入用とされる大抵のものは御用立て出来るでしょう」

 

「つまり、そういう事です。

 やはり、大橋殿は話が早くて助かります。

 流石は、父が見込んだ御方だけ有りますね」

 

そう言うと、大橋殿は照れて後頭部を掻く。


「ひ、姫様…。

 

 それで、寝具でしたな。

 この大橋屋は何を御用立てすれば宜しいのでしょうか」

 

「そうですね。

 先ずは、腕が良く信用の出来る針子さんと、寝具に使う布です。

 これは、先ずは絹が良いでしょう。

 本当は、全て木綿で作るのが良いのですが、木綿で布を作れるほど綿花の量が無いかもしれません。

 故に、木綿で糸と布を作るのは、次の収穫での課題です。

 先ずは試しに一つ作って見ようと思うのですが、それは父上に贈る予定です。

 兎に角、父と言えば常に多忙なので、ゆっくり休んで疲れを取って欲しいのです」

 

「なんと、心根の優しいことを仰る。

 この大橋、感動しましたぞ。

 備後様への贈り物、しかと承りました。

 して、どのような寝具をお作りになるのですか」

 

私は、絵図面を取り出すと、大橋殿の前に広げてみせます。

流石に、布団そのものは作りが簡単なので、型紙までは用意していません。

技術的には着物を作るほうが難しいはずです。


「こちらの方になります。

 これを布団と言います」

 

大橋殿はしげしげと絵図面を見る。


「ふーむ。

 布団ですか。

 つまり、この絹で作る袋に、木綿を詰めるということですな」

 

「ええ、大事なのは、この様に木綿を束ね、縫い込むことで、後で綿が偏らぬようにすることです。

 ここは、もしかすると試行錯誤が必要かもしれません」


「わかりました。

 先ずは、何事も作ってみないと見えてこないことが有ります故。

 私の伝手で針仕事の得意な者を用立てできますから、その者に試してもらいましょう。

 しかし、この寸法のものを満たすだけの木綿を詰めるとなると、結構な量の木綿が必要かもしれません。

 恐らくは庶民の手の届くところに行くには、木綿もかなりの生産量が必要でしょうが、この布団をほしいと思う者は多くいるでしょうな。

 新たな商材としても有望ですし、備後様の新たな武器ともなりましょう。

 もし、良いものが作れれば、この私も一つ欲しいくらいです」

 

「ええ、そうでしょうね。

 ですから、先ずは一つ作ってみましょう。

 それに、この綿花ですが、これは大橋殿もご存知かと思いますが、鉄砲の火縄にも使われているので、沢山の鉄砲を揃えるとなると、相当な量の綿花が必要でしょうね」


「…、そうですな。

 と言う事はこの綿花、先ずは姫様の浜の村で栽培を始めるのでしょうが、恐らく遠からず備後様は栽培に適した土地で大規模に栽培を始めることになるでしょう。

 しかし、全く備後様は良き姫君を娘に持たれましたな…。

 そのお陰で、この私も随分儲けさせていただいているのですが」

 

「ふふ。

 そう言われると気恥ずかしいですが、その代わり嫁のやり手がないと父がぼやいておりましたよ。何故嫡男ではないのだと…」

 

それを聞いて大橋殿は驚いた顔をした。


「姫様、そう悲観なされますな。

 いずれ備後様が良き相手を見つけてくださいます。

 なにしろ、備後様は顔が広うござりますから。

 一度上洛を、と勧められてるとも伝え聞きます。

 今は戦続きで叶っては居りませぬが、いずれ落ち着けば上洛される事も有りましょう。

 そうなれば、きっと良き相手を見つけてきて下さりますよ」

 

そう言うと優しく微笑む。


「そうでしょうか。

 そうであるといいですね。

 先ずは、父上にはいつまでも元気で居ていただいて、この先も戦で勝ち続けこの地に平穏をもたらしていただかないと」


「誠、そのとおりでございます。

 この私も、微力にはございますがお手伝いさせていただきます。

 備後様の目指されているこの地の平穏こそ、商人にとってはもっとも必要なものなのですから。

 望まぬ者は居りませぬよ」

 

「ふふ。

 そうでしょうね。

 

 そうでした、頼みごとがもう一つ有ったのです。

 これもきっと、将来父の役に立つでしょう」

 

「おお、頼み事ですか。

 前回は、醤油でしたが、今回はどのようなことでしょうか」

 

「人を探して欲しいのです。

 もし見つかったなら、その人に可能であればつなぎを作ってきてほしいのです。

 つなぎを作るのが難しそうならば、父が別の伝手でつなぎをとる方法を考えるでしょう。

 大橋殿は先ごろ美濃で戦が有ったのはご存知でしょう?」

 

「人探しでございますな。

 美濃での戦は勿論存じておりまする。

 また色々と用立てをさせていただきましたし」

 

「ええ、実はその戦で斎藤方が鉄砲を使ってきたのですよ。

 それも、かなりの腕前の鉄砲名人を用意して」


「なんと、そうでしたか。

 斎藤殿が鉄砲を持っていることは特に不思議ではありませんが、鉄砲名人となるとまた話が変わってきますな」

 

「私が伝え聞いた話では、その鉄砲名人と言うのは紀州に居るそうです。

 以前探してもらった醤油作りの里があった紀伊です」

 

「紀伊ですか。

 紀伊ならば、以前の醤油の時に伝手がいくらか出来ました。

 して、どなたをお探しすれば宜しいのでしょうか」

 

「二人いらっしゃって、一人は根来寺に居ると伝え聞く、津田算長殿と仰る御坊。僧兵の長をしておられると聞きます。この御仁を出来れば尾張に迎えたいのです。

 もし、尾張に来てくださるなら、還俗して頂いた上で、織田の鉄砲の師として、父の家臣として然るべき地位にてお迎えするよう父に推薦します。

 父は必ず然るべき地位にて家臣として迎え入れるでしょう。

 還俗が難しいようであれば、もう一つ考えがあるので、一度持ち帰ってください。

 もう一人は、紀伊の国雑賀荘の住人、鈴木佐太夫殿。

 この人につなぎを作ってほしいのです。

 可能であれば、一族郎党を父の家臣として迎え入れたいので、一度鈴木殿に尾張を訪ねて貰って欲しいのです。

 父は、必ず尾張に移り住むに見合う領地と地位で迎え入れるでしょう。

 この御両名は、この先必ず父上に必要となる人物です」

 

「ふむ。

 わかりました。

 紀伊には商用もあり、今は定期的に船を出しておりますから、直ぐに店のものをやって当たらせましょう。

 また、何かわかればお知らせします」

 

「よろしく頼みましたよ。

 では、また綿花が届いたら知らせを寄越しますので、船の方お願いします。

 こちらのお店に、綿花を持ってきますので」


「はい。お待ちしております。

 では、また此度も津島の町を散策してから帰られるのでしょう。

 戻られる際には、また船でお送りしますので、店にお寄りください」

 

「有難うございます。

 では、また後ほど寄らせてもらいます」

 

そういうと、私たちは店を後にしたのです。


後は、滝川殿と弥之助、千代女さんで町を散策です。

津島の町ともなれば、甘味処などもあるのですよ。


「姫様、根来寺の事など、よくご存知でしたな」


不意に滝川殿が声を掛けてきます。


「それはもう有名なお寺ですから、知っていますよ」


「左様、有名なお寺ですから、姫様が知って居られても不思議は御座りませぬ。

 しかし、何故一介の僧兵の長の名をご存知だったので?」


「加藤さんに紀州の鉄砲名人について調べてもらったのですよ」


「加藤殿ですか…。

 なるほど、あの御仁ならば調べてくるやもしれませぬな」

 

そういうと、溜息をついたのです。


「そうそう、滝川殿。

 貴方はかなり剣の腕が立つと聞きましたが、何方かに師事されたのでしょうか?」

 

滝川殿は一瞬驚いた表情を浮かべる。


「え?

 ええ、拙者は里におった頃、道場に通っておりましたが、それが如何しましたか?」


「いえね、私が今熱田で三河の子供たちに学問を教えているのは勿論御存知でしょう。

 彼らは本来ならば、誰かに師事して武芸を学ぶはずなのですが、なにぶん客分扱いとは言え、人質の身の上であり、かと言って三河の伝手からも切り離されているので、扶けもありません。

 かと言って、私は姫の身ですから、剣など武芸の使い手の知り合いというと、権六殿や半介殿、そして滝川殿くらいしか居ないのですが、知っての通り権六殿や半介殿はもはや忙しい身ですから。

 それで、無理強いはしませんが、暫く三河の子供らに剣術を教えてやってくれませんか。

 勿論、年齢相応の物で構いませんし、私に同行した折で構いませんので。

 やはり、道場などでしっかりと正しく武芸を学んだ人が教えるのが良いと思うのですよ。」

 

「武芸の師ですか…。

 免許皆伝という訳でもないのですが、子供らに基本的な事を教えるくらいであれば、お教えしますが、拙者は姫様の警護が仕事でござりまするから、それがまず優先になりまする。

 それでも宜しゅうございますか」

 

「ええ、それで構いません。

 では、よろしくおねがいしますね。

 私の側に頼れる方が居られて良かったです」

 

そう微笑んで見せると、滝川殿は困ったような表情をするのでした。


その後、この日は千代女さんに甘味処で甘いものをご馳走し、距離を詰めるべく努力したのです。まあ、千代女さんは年齢相応の娘さんということがわかりました。

甘いものには目がありませんし、食べたら喜びますし。

年齢相応に、アクセサリーや着物にも興味津々ですし。

殿方二人をお供に、ショッピングを楽しんだのでした。


お供二人には申し訳ないのですけどね。



大橋さんに布団作りをお願いしました。

いずれ数が作れれば売り物になりますしね。

後は、可能かどうかは判りませんが、根来寺のお坊さんと、雑賀荘の地侍につなぎをとるのを頼みました。

結果はまた後日。

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