第三話 祖父信定に逢いに行ったでござる。
吉姫は祖父の信定爺に呼ばれ父に連れられ犬山城に出かけます。
そこで、爺に何かおねだりをするようです。
『祖父 信定』
天文七年十月。
犬山城の信康叔父の所で隠居暮らしをしていた祖父の信定が吉に逢いたいと言ってると、父に連れられ犬山城を訪れた。
初めて那古野の城を出て戦国時代の尾張国を見たのだが、驚くほど何もない。
勿論道行けば、すれ違う人も居れば、宿場、農村なども見えるが、かなりの部分が山であり原野だった。
平成のゴミゴミとした日本の風景に慣れた私は、まるで外国にいる気分。
そして、那古野を出て二日目、犬山城に到着。
城というと古いイメージだが、犬山城は出来たばかりで木の香りが未だ漂うほど新しい。
父に連れられ城に入ると、父は屋敷の奥に行ってしまい、私は女中に連れられ部屋に案内される。
そして、その部屋で暫く待つと、若い侍が呼びに来る。
女中に連れられ部屋に案内されると、そこに祖父が居た。
祖父は今月に入って体調を崩して居るらしく、年齢的に今年の冬を越えられるかわからないらしい。
手招きされ、祖父の前に立つと、頬を優しく一撫で。
ザラザラするが暖かい手だった。
祖父は、私や父に向かって うむ、良き姫じゃ。 と一言いうとウンウンと頷いた。
そして、父に向かって、長じれば美しい姫になるだろうと優しい笑みを浮かべる。
それを聞き、父も微笑み、我が自慢の姫です。と。
ちなみに、私はこの世界に来て、まだ一度も鏡を見たことがない。
故に、どんな顔をしているのか知らないのでござる…。
しかも、美人の基準って時代とともに変わるよね…。
どんな顔をしているのやら…。
うーん、気になる…。
この時代、いずれ鏡を与えられるのだろうけど、そう簡単にあちこち置いているようなものではない。貴重品なのだ。
祖父が私に視線を戻すと、吉よ、もはや今生の別れになるやも知れぬ。
儂はそなたの裳着を祝ってはやれぬ故、今贈り物をしてやろう。
どんな贈り物が欲しい?
と、聞いてきたのだ。
数え五歳の幼児に欲しい物を聞いても、年齢相応のものを欲しがるだけだろうに。
多分、それはそれ、これはこれで、裳着のお祝いは一般的な物を別に贈ってくれるのだろうけど。
私は、目の前に祖父が居ることを良いことに、耳を貸してと傍に寄り、耳元で欲しい物を囁いた。
それを聞いた祖父の驚いた顔。
思わず吹き出しそうになったが、ここはグッと我慢して、もう一度耳を拝借して、こうねだったのだ。
私はお祖父様と来年も元気に逢えるのが一番の望みです。
でも、これから父上のお役に立つため、うんと学ばねばなりませぬ。
お祖父様は長く生きて来られたから、書物も多く持っていることでしょう。
要らないもので良いので、それを下さい。
そう囁いたのだ。
すると、もう一度、今度は全てを見透かすように、ジィっと私の瞳を覗き込み。
そして、ニンマリ微笑むと、吉は優しい子じゃ。
よいよい。その願い、然と聞き届けたぞ。
というと、頭を撫でてくれた。
祖父との、面会はそれで終わりだった。
翌朝犬山城を辞すると、また父に連れられ二日掛けて那古野の城に戻ってきた。
父は、不思議と何を頼んだのか聞くことはなかった。
ただ、気の早いことだと笑っていただけだった。
『祖父からの贈り物』
月が変わって幾日も経たぬうちに、祖父が亡くなったと知らせが有った。
父は葬儀に行き暫く屋敷には戻らず、私は屋敷で乳母たちと留守番。
そして、月の中頃葬儀や後始末が終わり父が屋敷に帰ってきた
父は大きな葛籠を幾つか持ち帰り、祖父からの贈り物だと見せてくれた。
それと同時に、これは儂の書庫に納めておくから、儂の書物も一緒に自由に読んで良いと許可をくれたのだった。
父は私の頭を撫でると、これは大変なものを貰ったな。というと楽しげに笑いながら部屋を後にした。
私は、祖父に感謝すると同時に、これで未来知識の活用が捗るでござる。
と、内心ほくそ笑んだのだった。
信長主人公ではチラリ出演か出ることもない祖父の信定が出てきました。
とはいえ、その年のうちに亡くなってしまうのですが。
この祖父の功績があればこそ、信秀は家中随一の実力を手に入れることか出来たのです。