第三十一話 鍛冶屋がやってきた
前から誘ってた領地の元刀鍛冶がやってきました。
吉姫の無理難題に苦労させられ役の人の予定です。
『鍛冶屋が来た』
以前から声を掛けていた領地で鍛冶屋をしていた野鍛冶が古渡に家族でやってきた。
鍛冶屋は奥さんとまだ幼い娘の三人家族。
「姫さん、随分お待たせしたがやってきましたぜ。
こっちが妻で、このちっこいのが娘だ。
これからよろしくな」
と、いつもの調子。
鍛冶屋の家族と会うのは初めてだけど、実は意外と若いのかな?
奥さんは二十代に見えます。
「これからよろしく」
弥之助に案内させて、父に以前鍛冶屋を雇う事を話した時に、教えられた城住みの職人長屋の一角に連れていった。
「今日からはこの職人長屋に住んでください。
鍛冶場の長には父から話が行ってるはずなので、後から尋ねてくるはずです。
今日は、来たばかりで落ち着かないでしょう。
また明日にでも屋敷に顔を出して。」
鍛冶屋と別れると屋敷に戻り、明日鍛冶屋に渡す仕事の図面の仕上げに掛かりました。
新しく頼む仕事は、ネジです。
つまり、ネジと受け部。
最終的にはダイスとタップを作ってもらいたいのだけど、まずはネジを作らないと。
この時代は紙というと和紙で、直線が引きにくいので図面といっても、本当にざっくりしたものしか描けない。
しかし、ネジが出来たら圧搾機を古渡に置くことだってできるようになるので、作る価値は十分ある筈。
受け側の方は最悪型取って鋳造かなあ?
そんなとを独り言でブツブツ言いながら、図面引いてたら後ろから視線が…。
はっと振り返ると、千代女さんがまるで家政婦は見たみたいに、ふすまの向こうから覗いてました。
「千代女さん、どうかしまして?」
「姫様、御領地から使者が来て、先日のものが完成したとの事です」
「あ、ありがとう」
すると、千代女さんはスススっと入ってきて、今日は何を描いているのです?
と、覗き込んでくるので、圧搾機の図面をひいてるのよ、と教えてあげたのだ。
ネジとか部品だけの説明はわかりにくいので最終型の一つを話ししました。
「圧搾機なら御領地に大きいのがあるじゃないですか」
「これは、屋敷にも置ける小さいものの図面です」
「屋敷で何に使うのです」
「果汁とか絞って美味しいお酒を作るのよ」
「美味しいお酒ですか、それは良いですね」
「そうでしょう」
「では、姫様、何かなければ下がりますが」
「はい。大丈夫です」
ふぅ。
翌日、鍛冶屋が屋敷に来たので、お勝手の方に回ってもらって、図面を渡し説明する。
まず、図面に描いた雄ネジと雌ネジと言うものを教える。
これを実現するにはどうするのか聞くと、
「また面倒そうなものを出してきましたね、姫さん。
雄ネジは螺旋に紐か何かを巻いて当たり線を引いて、ヤスリで削るでしょうな。
しかし、面倒なのはこの雌ねじですな。
穴を開けて削るにしても、こんな狭い所にヤスリなんか入りませんぜ。」
思案顔で腕を組む。
「そう、雄ネジはそれでいいと思う。
いくつか雌ねじの作り方は思い浮かぶのだけど、まず雄ネジが完成したら焼入れしてほしいの。
その後、金属の板を巻いて叩けば、巻いた板のほうが柔らかければ、雄ネジの痕が出来るはず。
後は、雄ネジ回せば螺旋になっているので、抜けるから雌ネジができてるでしょう。
大事なのは、この図面にある通り、雄ネジの頭、この釘にも似た部分を、後からやっとことかで掴んで回せるように、四角なり六角形なりにしておかないと、回して抜けないから、注意してね。」
「わかりやした。一先ず、試してみますや。
しかし、姫さんは大工の事から鍛冶の事からよくご存じですな。
焼入れまで知ってるとは思いませんでしたぜ。」
「私は唐国の漢書を沢山読んでるので、全部それに書いてあるのよ」
「唐国ですかい。なるほどねえ。
では、また進んだら報告に上がりやす」
というと、鍛冶屋は去っていった。
これでネジが出来ると良いなあ。
鉄砲作りは私はネジは要らないと思うんだけどね。
ネジが有ると色々便利だから。
まずは、ネジから始まりました。
ネジというと火縄銃を思い浮かべる人も居るかと思うんですが、用途は他にもいくらもあるのです。
寧ろ鉄砲こそネジ居るのかなあと。思いますね。
実際、今の軍用銃は多くがスクリューレス。つまり、ネジが無いのです。