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吉姫様の戦国サバイバル ベータ版  作者: 夢想する人
第二章 裳着の年 (天文十五年1546)
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第三十話 農具改良其ノ貮で御座る

吉姫は秋に向けて余念がありません。なにしろ初めて石鹸を作るのですから。






『師匠の輿入れ』



師匠の輿入れの日が近づき、この屋敷に居るのもあと僅か。

私は師匠への贈り物に何が良いかと頭を悩ませましたが、既にあるものを贈るのも私らしくないと思い、アロマオイルを贈ることにしました。

使い方は簡単で、灯りに一滴垂らすだけで、優しい香りが立ち込めます。


陶器の小瓶では密閉性が怖いので、蝋で封をしておきました。

注意書きを添えて、師匠に贈るととても感激していました。


師匠の輿入れの祝に参加できるわけでもないですから、ここでお別れなのです。





『脱穀機と唐箕を作る』



この日も午後から模型を作ってると、牛さんがやってきました。


手が放せないので部屋に案内するように言うと、入ってきて早々、机に模型が載っているのを見て目を輝かせ、また何か作っておいでで?


と、現在机の上に載っている模型を指差す。


今作ってるのは、脱穀機の模型ですよ。収穫した稲から米を脱穀する機械です。

と説明すると、ほうほう、と言いながら、また帳面にメモメモ。


今日はどんな御用ですか?と牛さんに尋ねると、守護様が先日の船の模型の話しを大層面白がられて、新しいものをまた作っていないか見てきてくれと仰られたとか。


私は、へえ、守護様がねえ…。


などと話しながら手を動かしてると、書き物が終わったのか、牛さんが、完成するのが楽しみですな。


というと、では今日はこの辺で。と足早に去っていった。


ここからお酒を飲んだりしてゆっくり話をしていくこともあるのですが、今日は忙しいようですね。


そろそろ収穫の時期ですからね。脱穀機と唐箕を作る予定なのです。

どの程度役に立つかはわかりませんが。


ところどころ千代女さんに手伝ってもらったりしながら、作ってます。




そして、それから二週間位で脱穀機と唐箕の模型が完成したので、領地に人をやって領民を呼ぶと、壊さないように長もちに納めた模型を持って、お供の人たちと領地へ向かいました。


先触れを出した後、領地へ着くと乙名が出迎え、前回来てからのことを色々報告してくれます。


夏の暑い盛りですが、浜へ向かうと例のダウ船の建造が進んでおり、出迎えた大工の話を聞くと、父の命で作っている船なので、近隣からも応援に来てるそう。

秋までには完成する見通しとのこと。

二十メートルというと、私の感覚だとそんなに大きな船ではないですが、数名乗りの船着き場や浜に揚げてある漁船と比較すると、明らかに大きいのはわかります。


お供の半介殿が、随分大きゅう御座るな。二十人乗り位で御座るか?


それを聞いて権六殿が、これは戦船では無いようだから、その位であろうか。


などと話しているので、私が、これは二十人から三十人位乗れる商い用の船ですよ。

と応えた。二百石積み位かな?


千代女さんが滝川殿と一緒に無邪気な感じで船を指差したりしながら何か話してます。

同郷の人だから、元々知り合いなのかなあ?なんてことを想像しました。


幼馴染とか良いよなあ…。


なんてことを考えてたら、権六殿がこの船は日ノ本で一般的に使われてる船と形が違いまするが、他にも何か特徴があるんで?

と、聞いてきたので、この船は三角帆の船だから、乗り手が熟練したら向かい風でも船を進めることが出来ますよ。と、話すと、周りの船大工や漁民が驚いていた。

勿論、権六殿と半介殿も。


そんな話をしてると、作業してる大工さん達とも打ち解けてきて、色々話が聞けました。


なんでも、こんな船を作れる機会は中々無いので、関わってる船大工達は、せっかくの新しい技術を磨く機会でもあるので、皆で楽しんで作ってるそうです。


モチベーションが高いと言うことは良いことです。


皆に酒を振る舞うと、大喜びです。いい仕事してもらえると良いですね。


船大工さん達にエールを送ると、この村の大工さんを浜から連れて戻りました。


そして、持ってきた図面を渡し、模型を見せます。


これは、稲から米を脱穀する脱穀機と、脱穀した米と空籾を選別する唐箕の模型で。

これから収穫時期になるので、それまでに完成していたら大いに作業が楽になり、私が別に頼んでる木の実集めの時間が取れるようになるのだけど。


という話をすると、浜の方を見ながらうーん、と悩み中。

雨風のあるこの時期は漁船の修理の仕事もあるし、今はダウ船の建造もあるから忙しかったか。


なんてことを、考えてたら、乙名が模型をしげしげと眺める。すると、手隙だった村人も物珍しそうにゾロゾロと出てきて、模型を眺めだす。


そして、乙名が姫様、これが出来たら、どの位脱穀作業が早く終わるのです?

と聞くので、数名の村人がこれに携われば、村全体の収穫が数日で終わると思う。という見通しを話しする。


まあ、この村は畑も多くて、田んぼはそんなに広い訳ではないので、もしかするともっと早いかもしれないけれど、流石に私にはそこまではわからない。


乙名はそれを聞き村人と話をすると、これまでは脱穀作業にそれなりの人数と日数が掛かってたのに、そんなにすぐに終わると仕事を失うものが出るかも知れない。

という危惧が出た。

所謂後家殺しと言うやつでしょう。


私は、以前話していたとおり、村の新しい産物に石鹸と言うものを作るから、そのためには木の実集めなど色々な作業に人手がいるから、この機械で人手を作らなければ、売れば実入りが良いはずの石鹸作りに十分な人手が割けなくなる。


ということを話しする。


実は、村はここ数ヶ月納めてくれているヨード樽の現金収入が結構嬉しいようで、そういう現金収入に繋がるような仕事をもっとしたいらしい。


それを聞いて、村人と話し合った乙名が、わかりました間に合うかはわかりませんが、収穫が迫ってるのも事実、大工と協力してなんとか作り上げてみます。


その言葉を聞いて私は、出来上がる石鹸は、村人の健康の為にもなるし、新しい産物として津島などに良い値段で売れるはずだから、きっと頑張りは報われるはずです。


そう言うと、村人たちはやる気が出たのか、皆表情が明るくなった。


乙名には、次は機械が正しく動くかを見る必要があるから、出来上がったら知らせを下さいと頼んだ。


その後、鍛冶屋へ行くと、若い人が一人と、年配の人が一人増えていた。


鍛冶屋に声をかけると、


よう、姫さん久しぶりだな。

ここで鍛冶屋をやってくれる人が来たから、来月にでも古渡に行けるぜ。と笑顔。


私はそれを聞いて、いよいよ来たかと嬉しくなり、楽しみに待ってますよ。と笑顔で返したのだ。


古渡への帰り道、権六殿があの脱穀機と唐箕、我が家の領地でも使えませぬか。と、聞いてくる。

すると、半介殿も叶うなら拙者の家の領地でも使いたいで御座る。と。


それを聞いて、私はその機械を入れることによって、仕事を奪われる人が出るかもしれない、ならばその人達に新たな仕事を与えねば、食うに困る人が出るかもしれませんよ。

と話をした。


私の領地では、それが新しい産物造りでした。


私の領地以外で広めるかどうかは父の判断ですが、今脱穀の仕事は戦で夫を失った寡婦がやってると聞きますよ。

今いる領民で、農具の改善で耕作地を増やすならば、今日のような機械も必要でしょう。しかし、そういった人たちの事も考えておくのが良いと私は思いますよ。


と話すと、二人は一度しっかり調べて計画を立てねばなりませぬな。と口々に話した。


帰り道、それまで黙ってた千代女さんが、姫様の領地の領民たちは幸せですね。何も言わずとも色々としてくれる人が領主様で。と呟いたのだ。


それを聞いたのか、それまで先頭をただ黙々と歩いているように見えた滝川殿が、ふと振り向いたのだ。そして、目が合うといつものアルカイックスマイルを浮かべ、また前を向いて歩き出した。


それを見て、何か思う所があったのか、権六殿が、滝川殿、姫様は気さくな御方故、話したいことがあれば、遠慮なく話してもかまわないのだぞ?と、やや非難めいて声を掛けた。


すると、滝川殿は立ち止まって振り向くと、いつものアルカイックスマイルで、存じております。というと、また歩き出したのだった。

権六殿は、お手上げという感じで、また半介殿と雑談に興じたのだった。


そんな滝川殿をジィっと見つめる千代女さんが、ちょっと気になったのだ。


そして、多分、何もなければ付かず離れず、加藤さんが何処かで私達を見てるはず。


私達一行を見て、彼はなんと思ったか、後で聞いてみよう。と、思ったのだ。




ダウの制作シーンも一部出てきました。

いよいよ次は秋になり、新しい農具の出来栄えのチェックもしないといけません。

そして、ダウ船もその頃には完成してます。

秋は盛りだくさん。ですね。

千代女さんの閑話も近々挟む予定です。滝川殿はだいぶ先になるかも?

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