第二十四話 甲賀の里から誰かやってきた。
以前滝川殿に頼んでた薬に詳しい人が来ました。
『甲賀よりの来訪者』
初夏の頃、滝川殿が二人の人物を伴い屋敷を訪れた。
滝川殿曰く、姫様よりご依頼を受けておりました、薬学に詳しいものがやってきましたのでお連れしました。と。
二十半ばに見える男性は物静かな感じを受ける人物。
曰く。
拙者、近江甲賀の望月与右衛門と申します、これなるは姪の千代女にございます。
拙者たち望月党は甲賀でも薬を得意とする家になりまして、拙者も幼少より薬を学んでまいりました。里に居ても中々薬作りだけでは生活も儘なりませぬ故、滝川殿が薬に通じた者を尾張の弾正忠様の姫様がお探しという話を聞き、この度参った次第にて御座います。
薬草集めは勿論のこと、薬草園での栽培、薬草を用いての丸薬作りも出来ます。
これなる千代女は姫様と同い年なれば、弾正忠様に誼を結べればと願いまして、侍女として使っていただけないかと連れてきた次第にございます。
姫様のお眼鏡にかないましたら、何卒お取立て願えればと存じます。
と自己紹介の言上を述べ平伏した。
隣の女の子も、平伏し千代女に御座います。と挨拶をした。
千代女ってたまたま同じ名前かもしれないけれど、信玄ところの家臣に嫁に行った歩き巫女の創設者じゃなかったっけ…。おとなしそうに見えるけど、実は…?
与右衛門殿は実直そうな人物に見える。望月というと甲賀武士、いわゆる忍者もいる里の人ではあるのだけど。しかし、丸薬作りなど実際に薬として役立てる知識を持つのは大きい。
いずれにせよ、今は専属の侍女も居ないし、願ったりな人物ではあるのだけど。
私は二人に顔を上げるように言うと、一度父に会って許可を得てからのお返事となりますが、私はよく来てくれたと、お二人をお迎えできればと考えております。
と、一先ず返事をした。
二人は、よろしくお願い申し上げます。というと、平伏した。
父に会わせる日取りが決まれば、連絡するのでそれまでは滝川殿によろしくお願いします。と頼んだ。
そして、後日父が会うという話になったので、二人に来てもらう。
父は改めて二人の話を聞き。
曰く。
二人ともなかなかの人物のようだ。吉が迎える気でいるなら、儂はそれで構わぬ。
屋敷は、また用意させるゆえ、それまでは同郷の彦右衛門に世話を頼むといい。
千代女殿、吉の事よろしく頼む。歳の近い者がこれまでおらなんだ故、吉も喜んでおる。
いずれ、そなたが望むのであれば、我が家中の男子に引き合わせてもよい。よく励まれよ。
と、二人の採用が決まったのだった。
与右衛門殿には寺の薬草園の世話の指導を頼むと同時に、病気の際に使える丸薬の作成や、必要があるならば新たな薬草のリストアップを頼んだ。
望月の里からここに無い薬草を送ってもらい、ここでも栽培するという話もできた。
いずれ、本格的に漢書で学んだ漢方薬などの知識も活用したいが、今はまだできることからやっていく。
侍女となった千代女さんは教育の行き届いたよく出来た人で、党首の娘というのは本当なのかもしれない。千代女さんも薬学の知識があるとのこと。
なんでも、望月から近江の行商人に薬を卸したりもしているのだとか。
そんなわけで、人が増えたので後日権六殿と半介殿にも紹介した。
さて、二人の正体は?
千代女さんはたまたま同じ名前なのか。謎が謎を呼ぶのです。