第百五十七話 仕事始め
天文十八年は学校訪問からです。
『仕事始め』
天文十八年の正月行事も終わり、早くも通常運転です。
年が明けて今年初めて学校に顔を出すと、何だか知らない顔が沢山増えていました。
いつの間にこんなに子供たちが増えたのでしょう。
万千代君に聞いてみると、昨年の末ごろに一気に増えたそうです。
そう言えば丁度その頃の私は、学校に顔を出さなかった時期でしたね。
そしてこの子供たちはどこの子供たちかと万千代君に聞くと、甲斐信濃の国人の子弟達だそうです。
武田家以外は人質は不要とした筈ですし、そもそも信濃からは尾張が人質など取るいわれがありません。
なのに何故こんなに沢山の子供たちが送られてきたかというと、おそらくは尾張に伝手を作るためでしょう。
送られてきた子供たちは国人らの三男、四男などの様で、いわゆる部屋住みです。
部屋住みの身の彼らを尾張の学校に送り出すことで、言葉は悪いですが口減らしになり、しかも尾張に伝手が出来て、その上その子には普通では出来ない勉強をさせる事が出来る。しかも学費は無料。
一石二鳥どころが三鳥も四鳥も、と言ったところなのでしょうか。
但しこうも子供が増えると、いつまでも無料、と言うのは難しいかもしれませんが…。
これ迄は熱田の豪商加藤さんの好意で開いて貰っていた学校ですが、これだけ子供が増えるとかなりの負担になるのではないかと加藤さんに尋ねたところ、元が取れているから全然問題が無いと言われてしまいました。
つまり、こういう事でした。
熱田の豪商である加藤さんですが、いくら豪商とはいえその知名度は基本的には尾張国内のローカルな物。しかし甲斐信濃の国人の子供たちを学校で受け入れる事で、加藤さんに甲斐信濃の国人衆との伝手が沢山出来て商いが増えたので、子供たちが増えて教室を増やしても十分元が取れていると。
なるほど、流石〝豪商〟と呼ばれる人は抜け目がないです。
この先街道整備が進み、越前、越後まで整備された街道が開通すれば更に商いが増えそうですから、これからは更に色んな伝手が重要になってきそうです。
それに今はみんな子供ですが、この中に史実の将来で名を成した様な人物が混じっているのかもしれませんね。
ちなみに、例の真田殿の子供たちもここに通っているそうですから、ここの同窓生で将来史実には無かったようなカップリングが成立するかも。
そう考えると、ちょっとワクワクしますね。
そういえば、満千代君こと、丹羽長秀ももうすぐ元服です。