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吉姫様の戦国サバイバル ベータ版  作者: 夢想する人
第四章 激動の天文十七年(天文十七年1548)
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第百四十七話 新しいお供が来ました

末森城が完成しています。





『甲斐の戦の顛末』



天文十七年十一月、武田との戦も終わり、父をはじめ皆が戻ってきました。しかもかなり多くの甲斐衆が付いて来ていました。

父が戻って来る際に、甲斐から国人衆を引き抜いて来ては如何でしょうか、という献策もしていたのではあるのですが、ちょっと想定より多い様です…。

武田にそれ程人望が無かったのか、それとも尾張の土地がそれ程魅力的だったのか、どちらかはわかりませんが、思わず甲斐は大丈夫なの?!と思ってしまいました。


有名どころでは秋山虎繁、内藤正豊、原虎胤なんて名前を聞きましたね…。


他にも私が調略する様に父に薦めた真田幸綱殿も郎党率いて尾張へ移り住んできましたし、村上義清殿なんて方もおられました。


父は戦後処理が忙しいらしく、まだ帰って来てから会えていませんが、加藤殿の話では武田晴信殿が亡くなった後、甲斐での国人らの力関係が随分変化したそうで、そのあたりも影響しているのかもしれません。


例えば小山田氏はこの頃には武田氏の被官化が進んでいた筈ですが、武田の敗北で再度独立を宣言し、本貫安堵を条件に武衛様に直接臣従しています。


つまりは、晴信殿が取り立てた家臣は晴信殿が後ろ盾ですし武田家を後ろ盾にしていた国人も居たのでしょう。晴信殿、そして武田家と言う後ろ盾を失うという事は甲斐での立場を失うという事ですから、新天地尾張で一旗、と考えても不思議ではないのかもしれませんね…。





『末森』



新しく築いた末森城への移転準備が始まり、屋敷は慌ただしく動いています。


古渡城は史実ではこの後廃城となったのですが、現在の古渡城は弾正忠家の生産拠点、力の源泉の一つと化していまして、工房の末森移設は利便性を考えるとあり得ません。


いっそ造船所をこしらえた蟹江に新たに生産拠点を築くというのも良いのかもしれませんが、将来的な話としてなら兎も角、末森移転に併せてというのは無理です。


そんなわけで、古渡城は今後も平手監物殿が城代となり、工房のある城として存続していきます。

そして、古渡の屋敷は私の仕事場として借り受けました。


私は色々考えたのですが、末森へ父と一緒に引っ越し、母や下の弟や妹達が暮らす屋敷で共に暮らす事にしました。


既に裳着を済ませ一人前の女として認められている立場ですから、自分の部屋で独立した女として暮らしますが、今の様に一人離れて暮らしているよりはずっと家族が身近です。

弟の喜六くんや噂のお市ちゃんとも会えますね。


お供の方達は一緒に末森に移り住むことになりますが、佐吉さん夫婦や職人さん達は引き続き古渡で暮らします。


私はいずれ輿入れするまでとはなりますが、末森で暮らし、馬車で一時間も掛からず行ける距離ですので、古渡に必要に応じて通うという事になります。


ちなみに、馬車は一時間に一〇キロ、つまり一刻で五里走るので、古渡末森間は約八キロで二里ですから、半刻弱で行くことが出来ます。





『新しいお供が来ました…』



引っ越しの準備など進めていると、私に来訪者がありました。

父から誰かが訪ねて来るという事を事前に知らされていたので、早速準備してお会いすると二十代前半位の若い武士が挨拶をしてきました。


「お初にお目に掛る、それがし武田次郎にござる」


「弾正忠が娘の吉にございます。

 武田家の次郎様というと、信繁様…でしょうか?」


武田を名乗る目の前の若い武士がやや驚いた表情を浮かべると頷きます。


「如何にも、信繁にござる。

 吉殿なら存じておられても不思議ではござらぬか。

 尾張に来て十日余りにござるが、寺にも一度伺い話を聞かせて頂き申した」


歴女なら一度は会ってみたい、あの悲劇の弟武田信繁様が目の前に居るというのはものすごいご褒美ですね。

とはいえ、兄晴信殿を亡くしたばかりの、そんな相手に喜色満面の表情は見せられません。


「そうでしたか。

 年端も行かない小娘の拙い小話なのですが、聞きたいと言われる方が居られるので寺で講義をしているのです」


「小話だなどと、それがし感服いたしましたぞ」


信繁様に感服されるなどと、笑えない冗談ですね。


「冗談はさておき…、此度はどうされましたか?」


信繁様は苦笑いされます。


「備後守殿から吉殿は泥かぶれの被害を減らす方策をご存知だと聞き申した。

 他にも、農政にも詳しくこの尾張の石高を大きく伸ばしたとも。

 

 正直、備後守殿の話を聞いただけの時は半信半疑でござったが…。

 寺での吉殿の話を聞き、真であると思い申した。


 どうか、それがしにご教示願えませぬか」

 

そういうと、信繁様が平伏したのです。

家格でいえば弾正忠家より遥かに上の、甲斐守護の武田家の一門筆頭であるにも関わらず、こんな小娘に平伏できるのです。

この人は史実でも賞賛されていましたが、本当に優れた人物だと思います。


「どうか顔をお上げください。

 解りました。

 書物で得た知識に過ぎませんが、お役に立てるならばお教えします」


信繁殿は顔を上げると微笑みます。


「忝い。

 何事も伝え聞いただけですぐに実現できるなどと思ってはおりませぬ。

 甲斐より飢えた民を無くすのは、亡き兄上の悲願に御座った。

 遠江を攻めたのも唯その一心であったのでござる…。

 攻めておきながら、むしの良い話にて心苦しくござるが…」

 

きっと信繁殿は内心反対だったのでしょうね。

とはいえ、それを言えば家が割れる。


「私たちは国を豊かにすることで戦と飢えた民を無くしていこうと考えています。

 甲斐が安定すればそれは尾張にとっても利益となるのです。

 泥かぶれを減らすことが出来れば耕作面積を広くすることが出来るでしょう。

 それに、穀物だけに拘らなくとも、甲斐に合う作物を植えればいいのです。

 作物以外にも鉱物など甲斐にはいろんなものがありますから、甲斐の穀物が足りないのであればそれらと尾張の穀物を交換すれば良いでしょう」


信繁様は目を輝かせて私の話を聞いています。

私の話は割と当たり前の話だとは思うのですが…。


「目から鱗が落ちる気分にござる。

 

 それがしは恐らく三年ほど尾張に居る予定にて、願わくば吉殿に暫く師事を願いたいのでござるが、如何でござろうか。

 

 警固の武士は見るからに腕の立つ者が居られる故、お供は要らぬと存ずるが、それがしも腕には多少の自信がござれば、暫しお供しても宜しゅうござるか?

 

 聞けば頻繁に領地に視察に行かれたり、普請を視察したりもされておるとか。

 なれば吉殿にお供すればそれがしも更に見聞を広げられます故」

 

お供…ですか?

あの信繁様を?

そんな恐れ多い事許されるのですか?


「…、父上が許可なされば…」


こういう時は父上に丸投げするに限りますね。


すると信繁様はニンマリと微笑まれる。


「備後守殿は吉殿にお供しておればいろいろ見聞きも出来ようと言っておられたでござる」


つまり、許可済みと…。

なんともはや、ご褒美も過ぎれば毒ですよ…。


「わ、わかりました…。

 それでは、ずっとという訳ではないのでしょうし。

 どこかに出かける時にはお知らせしましょう。

 

 それと千代女さん、あれを持ってきてください」


千代女さんに私が書いた本が入った小箱を持ってきてもらいます。


そこから、いずれ父に渡すつもりだった泥かぶれの対処法を書いた本を取り出します。


まあ、簡単には無理でしょう。

最終到達形に辿り着くには、段階を踏んで甲斐の住人に周知納得させていくしかありません。

住人がもうそれしか道は無いと納得しないと、到底実現など無理でしょう。

それ程、風景を様変わりさせる、まさに大規模公共事業なのですから。


「こちらをどうぞ。

 泥かぶれの正体、そして対処法を書き記した本です」

 

「な、なんとその様な本を頂けるとは…」

信繁殿は本を手に取ると、早速開いて頁を捲っていきます。そして、目が点になり、さらに青ざめます。


「こ、これは…。

 まことにござるか…」

 

「泥かぶれを退治するには、実際にその本に書かれている事を試せばいいでしょう。

 順に試せば、その本の最後の方に書いてある大普請をしなければ解決しないとわかります」


それを聞き信繁殿の顔が引き攣っていきます…。

でしょうねえ。私も初めてそれを後世の某巨大ネット辞典で読んだとき、顔が引き攣りましたから。


「か、忝く…。

 早速、頂いた書物をよく読み吟味し、国元にて試させたいと存ずる…」

 

「はい。それが良いと思います」


「今日は、誠に忝く。

 では、それがしはこれで失礼いたす。

 今後ともよしなに」


「はい。

 またお会いしましょう」

 


そういって、信繁殿は帰っていきました。


一息吐いていると、千代女さんが話しかけてきました。


「次郎様、素敵な方でしたね」


「ええ、あの方は文武に優れた人格者だと伝え聞いていますよ」


「あのような方に輿入れ出来たら…。

 私如きでは身分違いでしょうが…」

 

「身分ならばなんとでもなると思いますが、千代女さんは織田の家中の方に輿入れするのではなかったのですか?」


千代女さんははっと気が付いたような表情を浮かべます。


「そうでした…。

 次郎様があまりに素敵な方でしたので…」


「それは否定しません。

 確かに素敵な方でしたね」


そういえば信繁様の長男が確か望月の名を継ぐんでしたね。



信繁はお供というわけでは無くて、外出などの時にだけ同行する客分みたいな感じです。

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