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吉姫様の戦国サバイバル ベータ版  作者: 夢想する人
第二章 裳着の年 (天文十五年1546)
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閑話伍 柴田権六 吉姫

柴田権六は友達の居ない吉姫の幼馴染ともいえますね。





天文十五年三月  柴田権六



俺が吉姫に初めて会ったのはもう直ぐ元服の頃だったか。

高名な坊さんが稲葉地城の側にある寺に来たと聞いて、話を聞きに行った時だった。

その頃の吉姫はまだ七つ。歳の割に背の高い大人びた感じの子という印象だったな。


俺はその後元服し備後様にお仕えする事になったのも有り、寺には行かなくなった。

父の仕事を手伝ったり武芸を磨いたり、三河出兵に参陣し初陣も経験した。


その後、まだ家を継いだわけでもなく、戦でもないと割りと暇があったので、また寺に行ってみることにしたのだ。


それが、吉姫との再会だった。

吉姫は既に十歳になっており、背も更に伸び同年代の子らと比較しても明らかに歳相応には見えなかったな。


吉姫は既に寺で教えていたことは全て修めてしまい、年長の子らを相手に講師を始めていて、興味本位で聞いてみたら、これがなかなか面白かった。


俺が好きな三国志の話やら、更に古い史記の解説などもやっていた。

まるで見てきたかのようにわかりやすく、臨場感交えて話しをするから、つい引き込まれてしまうくらい、話が上手かったな。

本当にこの人は十歳なのだろうかと、疑わしく感じた程だ。


俺も史記は読んだが、吉姫が語る物語のように面白おかしくもなければ、臨場感たっぷりの読み物でもない。

あれをどう読んだらあんなふうに語って聞かせられるのか、正直俺にはわからん。


その内、参加する者達の要望にあわせて、本格的な戦の机上演習を交えた講義をやったり、戦や国を治める心得の様なものなども扱い出した。


そうなるともう子供よりは既に元服も済ました大人の方が多くなり、何処かの家中の家老なんかも来ていたり、とても子供のやる講義という様相ではなくなっていった。


吉姫の講義は身分年齢問わず誰でも参加自由であったので、誰が来ているのかもはや俺如きでは判らない。


他にも木工細工をやったり、妙な器具を使って実験をしたり、一言で言えば変わり者の姫よな。姫以外にあのような女性は見たことがない。



備後様は元々戦上手であったが、俺が初陣を果たした三河攻めよりは、負け知らずで全ての戦で大きな勝利をおさめておられる。


勝ち戦が続くのは、家臣としてはまこと喜ばしい事なれど、美濃に兵を出した折のあの見事な勝利、そしてつい先ごろの三河でのこれまた見事な勝利。


どちらも見事な勝利で、守護様も大いに面目を施され、今や守護代様にも一目も二目も置かれる立場となられた。備後様の名声は大いに上がったのだ。


あの策は備後様が立てた策として知られているが、俺はあの策を立てたのは吉姫だと確信している。


なぜなら、あの戦で備後様が使われた策は、以前吉姫が机上演習で説明された策の一つ、釣り野伏せに他ならぬ。


予め兵を伏せ、死地を作り、そこに先手が負けを装い敵を誘い込み、包囲殲滅する。

先手は退き時、退き方が難しい故、誰でもというわけにはいかぬが、先の美濃では岩倉が、三河では安祥の三郎五郎様が見事に勤められ、敵勢を散々に討ち果たした。


偶然の可能性もあるが、これまで備後様があのような策を使われたという話は聞いたことが無い。



一体、あの知識と智謀はどこから来ているのか。

俺も努力を惜しむこと無く四書五経を諳んじる程には学も修めたつもりだ。

しかし、このままどれだけ学んでも、あの域に達せるとは到底思えぬ。


何故、日ノ本では今や殆ど使われていない弩の仕組みや戦術を知ってるのか。

何故、日ノ本に入ってきたばかりの鉄砲の事をよく知っているのか。


つい先ごろ十二で裳着したばかりなのにだ。


快川和尚も間違いなく京まで行って広く学問を修めた名僧だが、しかし吉姫の知識はそんな快川和尚ですら底が見えぬという…。


まこと興味深いが真実を知るのが恐ろしい。


吉姫は一体何者なのか。


あの、凛々しくも美しい顔の裏に何が隠れているのか…。





吉姫の裳着の祝をした日、俺は備後様に密かに呼び出された。


吉と親しいと聞いた。と。

俺は、ありのままを話した。寺で知り合ったのだと。


備後様は、正式にではないが、吉姫に正式な側仕えの武士が出来るまで、出来るだけそばにいてやって欲しいとの依頼だ。


曰く、


既に、吉には影守も付けているし、暫くは儂の使用人が世話をする故、世話役をしろというわけではない。


吉の護衛と、吉に良からぬものが付かぬか、監視し何かあれば儂に報告してくれ。


既に一人、つい先ごろ吉の側仕えをさせてほしいと、儂に仕官してきた者がおった。

近江甲賀出身の滝川という若者だ。


その滝川も併せて監視してほしいのだ。何もなければ希望通り吉の側仕えとして仕えてくれれば良いのだが、にわかには信用出来ぬのでな。


という話だった。


俺に否は無いし、吉姫と一緒におれば退屈はするまい。

あの姫は世間知らずな所もある故、良からぬものが寄り付かぬようにせねばならん。



そして、吉姫が領地に視察に行くということを備後様に聞き、同行するべく待っておったのだが、何故半介まで来るのだ。


半介も備後様に頼まれたのか?しかし、内密の役目故、表立って聞くわけにも行かぬ。

なにより、半介は俺が吉姫の寺通いの話を教えてやってから、何かと吉姫につきまとっているような気もするのよ。


此度も、どうだかわからぬわ。


まあ半介は良い、此奴とは幼馴染といえるくらいの付き合い故な。


問題は、この滝川彦右衛門よ。


この男、かなり出来る。なにより、眼光が只者ではない。

味方なら、頼もしい限りだが、何かの役目を持つ他国の者だと少々厄介だ。


そして、恐らく影守はあの者だろう。あの者も相当できる。

普通の護衛ならあの者一人で十分だろう。

姫はまるで気づかぬようだが。


兎も角、領地への視察は特に問題なく、村へ到着した。


村は普通の村で、乙名も特に怪しいところはない。


吉姫は色々と見たり聞いたりしていたが、元々何かの知識がなければああ云う聞き方は出来ぬだろう。やはり、とても十二とは思えぬ。


姫に同行したお陰で久しぶりに旨い魚が食えたのは役得であろうかの。


これからも、折を見て同行することになると思うが、姫を見ているといずれ何か起きそうな気がするのだ。

これ以上、目立つのは危険ではないのか…?


杞憂だと良いのだが。



さてお役目を押し付けられた権六くんの明日はどっちだ?

そして、半介はストーカーなのか、それとも同じくお役目なのか。

権六くんの気苦労は今始まったばかり。多分ね。

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