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吉姫様の戦国サバイバル ベータ版  作者: 夢想する人
第一章 戦国時代転生(天文三年1534~天文十五年1546)
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第二話 まずは父上から攻略でござる

吉姫の初めてのターゲットは父親に決めたようです。




『不憫な子』



今生の父はイケメン信秀、見るたびに惚れ惚れする漢っぷりなのだ。

この歳でこの貫禄、存在感は平成の男では見たことがない。


そして私はこの父と一緒の屋敷に暮らしているのだが、どうやら父は私の事を少々不憫に思っているらしい。


母から離れここに私だけ父と暮らしているということかというと、そういうわけではない。


それはそうだ、この時代身分が高い者の場合育児は別のものがやる場合が殆ど。

私も乳母が基本的には万事世話を焼いてくれている。


父が不憫に思っているのは、生まれてよりずっと母に疎まれていることらしい。


それも男子に産まれなかったというだけで。


乳母から聞いた話だが、父は確かに男子を熱望したが、それは武家なればごく普通のことで男子でなければならないと言ったことは無いとのこと。


少々理不尽に感じるが、前世で理不尽なことなど幾らでもあったし、不思議と他人事に思えた。

逢ったこともない人にどうこう思うことはないという事かも。


閑話休題、父上は私の事を不憫に感じてくれる程度には、私の事を気にかけてくれているらしい。

実際、屋敷に戻った時には笑顔で抱き上げてくれる。


語りかけてくれる言葉は、優しさや暖かみ、娘に対する愛情を感じられるものだ。





『父親』



前世の経験から言えば、おおよそ父親というものは、娘に甘いものだ。

寧ろ、母親のほうが娘には厳しく、場合によってはライバル視してくることすらある。


戦国の世のこの時代の父親と言うものの現実と言うものはまだ分からない。

しかし、歴史の知識を紐解けば娘を溺愛した人物の話を幾人も聞く。


そう考えれば、この父も娘を溺愛する父親になる可能性があると思うのだ。


ならば、まず父信秀を娘に甘い、溺愛する父親に染める事がこの時代で生き残る第一歩ではないだろうか。


父信秀は何より織田弾正忠家の家長であると同時に、この地では屈指の実力者だ。

祖父信定の代に津島を収め、経済力では他家を圧倒する。


守護代大和守の奉行の立場でありながら、弾正忠家を屈指の実力者にのし上げたのは、この祖父の功績のお陰だ。


つまり、父信秀を娘大好きパパにすれば、娘のささやかな願いや我儘は大抵叶えてくれるだろうし、手放すのが惜しくなるはず。





『娘』



娘というのは、父親が考えているより、ずっと考え方が大人であり、したたかだ。

幼い子供に見えても、どう立ち回れば自分が大事にしてもらえるか、本能的に知っているのだ。


男の子に比べ女の子は成長が早く、二歳にもなればよちよち歩きを始め、おませな言葉を喋りだす。


そして、男として最も身近で安心できる存在である父親を、個人差はあれどかなり早い時期から意識し始めるのだ。


その、父親の愛情を一身に受けるため、目が合えば愛想笑いをし、パパ大好きと溢れんばかりの愛情表現をし、拗ねるときですら、気を引こうと最大限の努力をする。


とにかく、父親の愛情を独占したいのだ。それはほとんど本能的なもの。


そんな娘の一挙一動が世の父親にとって、たまらなく愛おしく感じ、そして父親の心の隙間を埋めていき、やがてメロメロにしてしまうのだ。


私は既にそんな娘時代を一度生き、女として成長し、大学を出た後は総合商社の営業として、時には女ということを武器にして、仕事を勝ち取ってきた経験もある。


そう、今生の父であるイケメン信秀を私にメロメロにするくらい訳ないのでござる。


多分…。





『アプローチ』



父を私にメロメロにしよう。


そう決めて、周りや父が違和感を感じぬ程度に、前世で得た経験も活かしながら、父信秀にアプローチをはじめた。


以前は笑顔を見せる程度だったのを、溢れんばかりの愛情表現をするように心がけたり、父の帰宅時には部屋に訪れるのを待っていたのを、女中さん達が玄関に出迎えるのについていき、一緒にお出迎えしたり。


或いは、女中さんに頼んで集めてもらった花びらや葉っぱを乾燥させ、巾着袋に詰めて匂い袋にしてプレゼントしたり。


この年齢の自分に出来ることをとにかくやったのだ。





『平成とのギャップ』



それからひと月の間に、歴女の私らしからぬ計算違いが色々と発覚し、方針転換を余儀なくされたのだ…。


まず、父だが屋敷に戻るのは精々週に一度か二度。勿論、長く居ることもあれば、全く帰らないこともある。


それはそうだ、従者を連れた馬での移動には平成の世とは比較にならぬ時間が掛かる。


更には、父信秀は通い夫の如く、正妻たる土田御前や嫡男勘十郎のいる勝幡城は勿論の事、頻度は変わるのだろうがそれ以外の妾達の屋敷にも通う。


この時代は父くらいの身分になると複数の妻を抱えるのが一般的なのだ。


平成の核家族の感覚で簡単に考えていたが、ここは戦国時代なのだ。

当然、いくら正室の娘とは言え、会える時間はそれほど多いわけではない。


しかも、この時代はそれこそ年中無休の休み無し、24時間全力営業中の様な物で、多忙の父に逢えるのは、父自らが部屋を訪れた時くらいだ。


勿論、帰宅した時に出迎えた時には逢えるが、抱き上げて貰えるくらいで、すぐに私を乳母に預けて奥に行ってしまう。





『リザルト』



しかし、全く意味がなかったかというと、そういう訳でもない。


何しろ私は父と同じ屋敷に住む正室の娘で、父に会う頻度という面では明らかに他の異母兄弟達、そう弟勘十郎と比較してもアドバンテージが有る。


それもあるからなのかは判らないが、明らかに父の掛けてくれる言葉が以前より、より気に掛けてくれるものになったし、なによりお土産を持ってきてくれるようになったのだ。


最初は先日の匂い袋の礼だと、可愛い櫛をプレゼントしてくれた。


その後は、吉が好きだと聞いたからと、お菓子をお土産にくれた。


毎回と言うわけではないし、櫛のようなものはその時だけだが、何回かに一度、お土産を持ってきてくれるのだ。


嬉しくて満面の笑みを浮かべてお礼を言った時の、父の少し照れた様な笑顔は、前世でかつて子供の頃に見た父親の笑顔に少しダブって見えた。





『手習い』



数えで五つになる私は、武家の娘の嗜みとしてそろそろ手習いが始まる。


男子であれば、身分の高いものは家庭教師の様な教育役がついたり、或いは寺に学びに行ったりする。


女子は大抵の場合は、年長の女中さんであったり、或いは既に隠居した父の家臣であったり、家によって異なるのだろうが、そういう人に教えてもらうとか。


それは必ずそうしなければならないというわけでもなくて、家長たる父親がこの子に他の子より才能があると思えば、その道の師に師事させることもある。


さて、私にそんな父に認められる才能があるかというと、前世ではまあ総合商社に入社できる程度の学歴と頭はあったような気が…。


商社の営業としての知識、更に仕事に必要で頑張って勉強したので語学が多少。


学生時代からの趣味である歴女としての知識があり、自信はないが崩し字の文章も多少は読める…筈。


後は、護身術を多少。

勿論、前世の自分の身体が覚えていた事で、今も出来るとはとても…。


しかしながら、私に芸事の才能があるとは前世の自分を見てもとても思えないし、和歌なんてわからん。


茶道は仕事で経験があるが、平成の世と今が同じかどうかは判らないし、才能なんてあるとはとても。


書道は平成の世の普通の文字であればそこそこは書けるが、芸術的な書が書けるとは思えない。


礼法は…、まあ平成の世の営業が務まる程度の礼儀作法は知識としてあるが、この時代の礼法なんて判らない。


結論としては、今の自分にこの時代での特別な才能があるとは思えない。





『初めてのおねだり』



父信秀に認められる自信のない私は、父におねだりをすることを考えてみた。


先生を私がこの人に教わりたいと、おねだりするのだ。


おねだりする先生はずばり快川紹喜。


手習いの話が出だした頃、乳母に快川紹喜という名のお坊さんが微笑みかける夢を見たのだけど、知らないか聞いてみたのだ。


すると、最近京の寺から戻った臨済宗のお坊さんにそういう名前の人が居ると美濃に住む知り合いにきいたことがあると教えてくれた。


勿論私は今、快川紹喜が美濃に戻ってきてることを知っている。数年後には崇福寺の住職になるがこの時期は美濃の寺院を回ってるはずだ。


信長が幼少時に通ってたお寺が、臨済宗の凌雲寺というお寺だと伝わってたけど、このお寺は稲葉地城主の信光叔父が創建したらしい。


父に快川紹喜をおねだりすれば、快川紹喜を調べさせ、父が気に入れば、恐らくこのお寺に招くことになると思うんだけど、どうなるかはわからない。


あんまり遠いお寺まで通うのは勘弁でござる…。




『快川紹喜』



いつもアグレッシブに見える父の特に機嫌の良さそうな日に、習い事の話をし、先生に乳母に教えてもらった快川紹喜というお坊さんに習いたいという事をおねだりする。


父は一瞬意外そうな顔をするが、にっこり微笑むと、吉がそういうならどんな人か調べてみよう。

今直ぐには返事を出来ないから、またどうなったか知らせてやろう。


というと、私の頭を撫ぜ、機嫌良さそうに去っていったのだった。


案外あっさりだった…。




そして、後日。


父が再び屋敷に戻ってきた時に、逢ってみたら中々素晴らしい方だったので、尾張に招くことにしたよ。


快川和尚には弟の孫三郎の城の側にある凌雲寺というお寺に来てもらうことになったから、そこで家臣達の子供も教えてもらうことにした。


吉が小さな間は、この屋敷まで教えに来てくれるから、よく習いなさい。

というと笑いながら、頭を撫ぜてくれる。


少し気になったので、弟も快川和尚に習うのかきいてみた。

すると、勘十郎は既に沢彦和尚という優れた和尚さんがついてくれている。

とのことだった。


実際にこの屋敷に快川和尚が尋ねてくるのはもう少し先だが、今から楽しみだ。

特に、凌雲寺に通える日が…。


なにしろ、凌雲寺に名だたる名僧たる快川紹喜がくるのだ。

父の家臣の男子達が多く集まるに違いない。


そして、私は父信秀の長女、吉姫。

たとえ私の器量が悪くとも、衆目を集めないと言うことは無いだろう。


更に歴女として、かの快川紹喜に逢って師事することが出来るなんてこの上ない喜びなのだ。


快川和尚に学んだ事に未来知識をミックスし、父の役に立てば、きっと私を手元に残しておきたくなるだろう。


また、この世界に信長は居ないのだから、信玄に招かれた先で焼け死ぬなんてことはない筈。


願わくば、この地でいつまでも名住職としていてくれることを切に願うのだ。



ストーリー的には気に入ってたんですが、快川紹喜を招く寺が遠すぎたのでストーリー改定しました。

結局、信長ゆかりの寺に落ち着きました。

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