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吉姫様の戦国サバイバル ベータ版  作者: 夢想する人
第四章 激動の天文十七年(天文十七年1548)
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第百四十一話 秋の視察

吉姫ら一行はまた領地に視察に行きます。





『領地視察』



天文十七年十月、忙しい収穫時期も一区切りした頃、領地の視察に行くことにしました。

鶏舎がその後どうなったのかを見たいですし、綿花畑もたのしみです。


いつものお供の皆さんと警護の人たちで領地へ向かいます。


二十名を超える物々しい行列で領地まで行くのですが、父の領内の移動に何故これ程の警護が要るのか、正直疑問です。


領地に到着すると乙名さんが出迎えてくれます。


「姫様、よくお越しくださいました」


「はい、今年の収穫を見に来ました。

 今年の米の出来はどうでしたか?」


「今年は天候にも恵まれ、収穫はまずまずにございます。

 綿花の方はこれから収穫にございますが、今綿花畑はそれは見事なものにございますよ」

 

「それは良かったです。

 鶏舎の方はその後順調ですか?」


乙名さんが微笑みます。


「それはもう。

 備後守様に紹介して頂いた村の方から鶏を融通していただきまして、今では卵の方も順調に採れるようになっております。

 何度か古渡のお城にお届けしているのですが、姫様はご存知ではありませんで?」


全くそんな話は聞いたことがないですね…。

毎日のように卵料理は出ますから、今迄食べてきたそのうちのどれかが領地の卵だったのかも知れません。


「それはもう。美味しく頂いておりますよ」


乙名さんの顔がほころびます。


「姫様に食べていただこうと、朝早くに採った卵をその足で届けさせた甲斐がございました」


なんと、そんな苦労をかけていたのですね。


「皆さんのお気遣い、有り難く思います」


「もったいないお言葉にございます。

 姫様がここにあの様に立派な鶏舎を設置してくれたお陰で、我が村では毎日のように卵を食べることが出来るようになりました。

 子供達はもちろん、村人みな以前より元気になったように思います」


そういえば、乙名さんの肌ツヤも以前より良くなっているような気がします。


「それは良かったです。

 鶏糞での肥作りの方は如何ですか?」


「はい、姫様に教えて頂いた方法で作った肥の方を土に積み込み堆肥にしております。

 これを冬に取り出して畑に鋤き込んで来年の種植えに備えるのでしたね?」


「ええ、それで更に作物の発育が良くなるでしょう」


「では、まずは鶏舎の方へ参りましょう」


「はい」


乙名さんに伴われ鶏舎に向かいますが、大きな建物なのですぐに分かります。

そして、近づいてくると鶏のあの独特の臭いが漂い、鶏の鳴き声が聞こえてきます。

まあ慣れてしまえばというのはあるのですが、村外れに作って正解でしょうね…。


中には入らず表から鶏舎を見せてもらうと、結構な数の鶏が元気に地面を啄んでいました。

餌は米糠。

米糠自体も堆肥の材料になりますから、残ってもそのまま肥料に混ぜ込む事ができます。


私の傍で滝川殿ばかりか小次郎殿、藤三郎殿まで帳面を取り出してこのことをメモしています。皆さん勉強熱心ですね。


藤三郎殿のメモは恐らく義元公の元まで届くでしょうから、少しでも領国経営に役立つといいですね。



「姫様、次は綿花畑に参りましょう」


私が鶏舎をみて満足したのを察したのか、乙名さんが声を掛けてきます。


「はい、そうしましょう」


綿花畑は鶏舎と村の集落を抜けた反対側にある既存の畑の更に奥にあります。

畑を抜けて土手を登ると、一面に広がる綿花畑が見えました。

丁度、蕾を開いた所で一面に白い綿花が広がり軽く雪化粧したように見えます。


「綺麗…」


千代女さんが感動して思わず声を出してしまいます。

屋敷の外では割と寡黙な感じなのですが、そのくらい見事でした。


「これは見事です。

 今年は大いに期待できそうですね」


「はい、それはもう。

 これだけ収穫がなれば、私達にも噂の布団が作れましょうか」


「そうですね。

 全量買い取りということになっていますが、布団が有れば村人がより元気になれるのは確実ですから、村でも布団が作れる様に父に話しておきます。

 今年の収穫では村人皆には未だ行き渡らないかも知れませんが、数年もすれば必ず皆に行き渡るでしょう」

「はい、楽しみにしております」


私も布団がそろそろ欲しいですねえ…。

父の差配で、今年領内で綿花を植えた所がかなりあるそうです。

米など一般的な作物と違い、村人総出でやらねば育てるのがなかなか難しいのですが、全量買い取りでの現金収入が魅力なのか多くの村が手を上げたとか。

綿花の種が手を上げた村に無料で配られたのも大きいのでしょうね。



綿花畑の視察を終えると村に戻ってきました。


次に今年の木の実の収穫を見せてもらいましたが、椿に椎の実、相当な量です。

今はもう採れる場所をある程度把握しているので、時期になると子供も一緒に村人総出で収穫に行くそうで、今年の石鹸も期待できそうですね。



ひと通り見終わった後で、乙名さんが私に相談したいことがあるとの事で、乙名さんの屋敷に行きました。


「相談と言うのは何でしょうか」


「姫様、田植えの頃のお話を覚えておいででしょうか」


田植えの頃というと…、田植え機を披露した時のことかな。


「田植え機は皆が使いたいので、公平に使えるように知恵を出す、ということでしたね」


乙名さんは目を輝かせ頷きます。


「はい、そのことでございます。

 姫様は不公平の無い方法でと仰っておいででしたが…。

 どの様な方法をお考えか、お教え願えないでしょうか」

 

「田植え機を試す為に作ってもらった私の田んぼですが、あの田んぼは新たに切り拓いて作ったものです」


乙名さんが頷きます。


あの田んぼ開拓には鈴木党も関わってますが、私が費用を出して作った田んぼなので、私個人が領する田んぼなのです。

ちなみに収穫は乙名さんに一任していて、村の取り分を差し引いて残りを代官さんを経由して頂いています。

だから、私が好きにできる田んぼともいえます。


「あの田んぼは田植え機を試すための田んぼなので、村人総出で世話をすることを考え、元々この村にある田畑より広く作ってもらいました」


「はい。広うございます」


私は頷くと話を続けます。


「ですから、この私の田んぼと、今の村の田畑を交換しましょう」


乙名さんは目を丸くして驚きます。


「それでは、姫様が損なさるのでは…」


「構いません。

 あの田んぼであれば、あの田植え機を存分に使うことが出来るでしょう?」


「そ、それはそうでございますが…」


「ええ、だから今ある以前からの田畑と交換するのです。

 広さは今ある田畑より広くなり、そして今ある田畑より手入れが楽になるでしょう」

 

「以前の田畑はどうなさるので…」


「以前の田畑は、私が新たに費用を出しますから、田植え機が使える様に区画を整理し直して下さい。

 新しい田んぼで村の収穫は以前より増しますが人の手が空き、空いた人手で以前の田畑を区画整理して臨時収入を得る。

 悪い話ではないでしょう?」

 

「ですが、姫様は区画整理に新たに費用を出し、それで得た田んぼは今より狭くなる。

 それでは姫様ばかりが損をなさりませんか?

 我が村にとっては良い話ばかりにございますが…」

 

「それで構いません。

 元々私はそれ程お金を使うわけではないのに、領地以外からも十分に収入があります。

 それに、私の田んぼと交換したら収獲が増える分村としての税は増えます。

 そして、区画整理すれば更に収獲は増えますから、それで十分です」

 

「姫様がそれで良いと仰るのでしたら、そうさせて頂きます」


「はい。では農閑期になりましたら、今の田畑の区画整理をお願いします。

 費用はまた代官に伝えて下さい」

 

「承りました」


「では、収獲を慰労するためにまた心尽しを持ってきましたから宴と行きましょう」


それを聞き乙名さんの顔がパッと明るくなります。


「はい、では早速準備させます」



宴と聞き、お供の一人を除き皆さんの顔がほころびます。


藤三郎殿は呆れ顔です。


「また宴にございますか…。

 つい先ごろも古渡で宴を催していたと思いますが、行く先々で宴をしておりませぬか」

 

「宴をするとみんないい顔になりますから、私はそれを見るのが楽しみなのです」


それを聞くと藤三郎殿は少々驚いた表情を浮かべるとあたりを見回し頷きます。


「確かに…。

 みな良い顔をしておりまする。

 特に今日は村人が良い顔をしておりまするが、何かございましたか」


「ええ、日頃の皆の頑張りに少々報いて差し上げました」


「成程。…姫様はお優しくござるな」


藤三郎殿がしみじみとした表情で頷くと滝川殿と小次郎殿も頷きます。


「左様、我らが姫君は慈悲深くあられる」


「そんな姫様のお陰で命を繋いだものは多くござる故」


小次郎殿が藤三郎殿にちらりと視線を飛ばします。


一瞬藤三郎殿が驚きますが、すぐに何かに思い至ります。


「我が主君もその一人かも知れませぬ…」


私は単に前世からの経験上、慰労を怠らなければ仕事が円滑に進むという事が解っているので節目節目に宴をするのですが、何故そんな話になっているのでしょうね…。


「ま、まあ。

 そうそう、滝川殿、今日は久しぶり釣りをしては如何ですか。

 釣りたての魚を刺し身で食べるのは絶品ですからね」

 

「そうでござるな。

 では、ご期待に添えるよう励みまする」

 

そういうと、滝川殿は藤三郎殿を引っ張って行ってしまいました。


「滝川殿は釣りをされるのでござるか」


小次郎殿が驚いた表情を浮かべます。


「以前、まだこの村が私の化粧地になったばかりの頃の話です。

 今は那古野の弟の所に行ったお供の武士二人と滝川殿と私で良くこの村に来ていたのですよ。

 その時に、漁村という事で魚を釣って磯焼きにして食べていたのです。

 滝川殿は釣りが上手いのですよ」

 

「お供の武士二人、というのは、某の前任者にござるな。

 海で釣りをしたことはござらぬが、精神修養にもなり武芸に通じる所がござれば、某も川釣りなどしたことがござります」


「そうなのですか。

 確かに、滝川殿も結構腕が立つと聞いてますから、通じるものがあるのでしょう。

 小次郎殿も釣ってこられたらどうですか。

 ここには古渡から一緒に来た者たちも居ますし、千代女さんも居ますから大丈夫ですよ」


小次郎殿は辺りをちらりと見渡します。


「そうでござるな。

 では、某もお言葉に甘えて釣ってくるでござる」

 

そう言い残すと、嬉しそうな表情で滝川殿らの後を追います。


千代女さんが一言。


「今日は美味しいお刺身が食べられそうですね。

 千代女は川魚より海の魚のほうが好きです」

 

「そうですね。

 食べやすいですし、私も海の魚が好きですよ」

 


そんな他愛ない話をしながら美味しいものを食べて過ごすというのは実に贅沢です。


今度は佐吉さん夫婦も誘いましょうか。



 


 

田畑の区画整理は代替え地の提供で済ませました。

吉姫としては田植え機の試験を終えたことで一先ずの用が済んだので、村人に有利な様にしました。

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