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吉姫様の戦国サバイバル ベータ版  作者: 夢想する人
第四章 激動の天文十七年(天文十七年1548)
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閑話五十三 川田梓 佐吉さんと

梓さんは佐吉さんとお出かけのようです。





天文十七年八月 川田梓



尾張に移り住んできてあっという間に一月が過ぎ、新しい生活にも随分慣れてきた。

要望していた実験用の離れもツーバイフォー建築で短期間で建ててもらったので、実家での研究環境は大体戻ってきたと思う。


前世も合わせて初の新婚生活は中々に悪くない。

旦那は歳下だが、優しくて女心を良く心得ていて、姉さん女房の私に気遣いつつも上手くリードしてくれる。

今生では私のほうが歳上だが、案外前世では私より人生経験が有るのかも知れないな。


そんな旦那さまと今日も食べ歩き。


尾張に越してきて一番良かったことはやはり食べ物が美味しいこと。

実家は草深い田舎で最寄りの相良湊はそれなりの湊町だったが、熱田や津島と比較すれば地方都市と大都市位の違いが有る気がする。

前世ではお一人様で、たまの自分へのご褒美に外食で美味しい物を食べるのが仕事ばかりの私の人生の中での唯一の楽しみだった。


「佐吉さん、今日は貝料理を食べさせてくれるという料理屋に行きましょう」


「津島の蛤料理の店の事?」


「はい。焼き蛤食べてみたいです」


「じゃあ、そうしようか」


こんな感じに、私が小耳に挟んだ店に行ってみたいというと、佐吉さんは意外に店をよく知っていて連れて行ってくれるのだ。


古渡から熱田まで船で下って、そこから津島には船で割と短時間で行くことが出来る。


津島に到着すると佐吉さんが店に案内してくれる。


「佐吉さんは本当にお店を良く知っていますね」


「姫様のお供をしていれば、色々なお店に入るからね。

 他にも資材の仕入れに熱田や津島の商家に出入りするから、色々と小耳に挟むのさ」


なるほど、そういうことでしたか。


「へえ、道理で詳しいわけですね。

 では早速入りましょうか」

 

店の近くまで来ると蛤を焼く香りが漂ってきて、口の中に唾液がジワッと。

そんな有様だったのだ。


そういえば、備後守様が遠方よりの輿入れで不便だろうからと、姫様の侍女と同じ望月家の女性を侍女に付けてくれたのだ。

田舎育ちとは話していたが、尾張に来て長いのか立ち振舞が綺麗で、所作に無駄が無くよく気がつく、そんな人だった。

年の頃は姫様と同じくらいの年齢らしい。


店に入ると店主が出迎える。


「これはこれは高田様、いえ今は川田様でございましたか」


佐吉さんは頷くと店主に応える。


「店主、今日も世話になる」


「はい。ではこちらへどうぞ」


そういうと、奥の部屋に通される。

前世でいうとさながら料亭の奥の座敷という雰囲気だ。


座敷の真ん中に囲炉裏のような物があり、そこに大きめの七輪が置かれていた。


「では、お料理を始めさせていただきますね」


そういうと、店主が奥に引っ込み代わりに料理人がやってきて、後に蛤の入った桶や薬味などが入った箱を捧げ持った女中が続く。


そして、料理人が座るとまず私達に平伏する。


「本日は私が料理を担当させて頂きます」


「うん。頼む」


料理人が挨拶している後ろで女中が手際よく火の付いた炭を七輪に仕込んでいく。

準備が終わったところで料理人が料理を始める。


「では、当店名物の焼き蛤を始めさせて頂きます」


そういうと、桶から大ぶりの蛤をいくつか取り出し網の上に載せていく。

さすがこの時代、天然物の蛤があんなに大きい。


磯の香りを漂わせながら火が通っていき、暫くすると貝が口を開く。

そこでおもむろに塩をパラリ。

頃合いが良くなったところで、料理人が蛤を皿に載せて提供してくれる。


眼の前に来た蛤は濃厚な磯の香りが漂い、貝の中で身がグツグツしている。

ふうふうして程よい熱さになったところで、一口パクリ。


うーん、美味しい。

シンプルに塩を振っただけの蛤が、口全体に旨味成分を吐き出す。

芳醇な貝の肉汁を存分に堪能すると、ゴクリと飲み込む。

はふー、幸せ。


隣をふと見ると、佐吉さんもハフハフと蛤と格闘していた。


二人が食べ終わろうかと言うところで、料理人が次の蛤に醤油をタラリと滴らせる。

途端、ジューっという美味しそうな音と共に独特の芳ばしい香りが立ち込めた。


その香りが更に食欲をソソらせるのだ。


程よいところで、再び蛤が皿に載せられて提供される。


醤油の良い色に焼けた蛤からは焼けた醤油独特の香りが湯気と共に漂い、ふうふうして口に頬張る。

口に入れた途端、焼けた醤油の美味しさが口に広がっていき、そして噛みしめると濃厚な貝の旨味が溢れ、それが醤油と渾然一体のハーモニーを織りなす。

これも美味しい。こんな美味しい物を食べられるなんて、やはり来てよかった。

これまで何度もそう思ったが、何度思ってもまた思ってしまう。


お一人様だったこの私が、旦那さまと二人で美味しい料理に舌鼓を打つ、などという幸せを満喫できるなんて。

やはり来てよかった。


その後には味噌を入れて焼いたものや甘辛いタレで焼いたものなど、コース料理の様に焼き蛤が続き、最後は蛤の炊き込みご飯で〆だった。


今日も大満足。

次は何を食べよう。


こんな感じで食べ歩きを満喫する梓さんなのでした。


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