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吉姫様の戦国サバイバル ベータ版  作者: 夢想する人
第四章 激動の天文十七年(天文十七年1548)
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第百三十五話 佐吉夫妻の訪問

佐吉夫妻が訪ねてきました。





『鉄砲談義』



天文十七年八月、佐吉さんと梓さんが訪ねてきました。


「姫様、梓が提供してくれた機械油と界面活性剤のお陰で旋盤が使えるようになりましたので、姫様が以前ご要望になりました物をお持ちしました」


そういうと布で包んだものを差し出してきます。


布を解くと既視感の有る代物、つまりは真鍮製の筒が現れました。

ピカピカで精度良く、これを手作業で作ればそれなりの手間でしょうね。


「見事な出来です。これならば申し分ないでしょう」


布に包み直して返すと、佐吉さんはまた懐に戻しました。


「折角来たのですから、また語学の勉強でもしましょう」


「はい」


「わかりました」


目配せすると、二人が頷きます。


『この精度であれば金属薬莢として十分使えそうですね』


『はい、試しに姫様が以前設計した中折式単発銃を試作してみましたが、申し分ないと思います』


『なんと、もう出来たのですか?』


『ええ、旋盤とフライスがあればあの程度のシンプルな物であればそれ程時間は掛かりません。前世と違って自動工作機任せと言うわけにはいきませんが』


『フライスも稼働するようになったのですね。確かに、フライスが使えるようになればずいぶんと違うでしょう。

 火縄の機構も上手くいったのですか?』


『そちらの方はまだ作っておりません』


『という事は、撃発部分はまだということですね?』


『いいえ、完全動作の物を試作しました』


そういうと、懐から更に先ほどとは別の包みを取り出します。

受け取って開いてみると、更に既視感が有る代物が出てきました。

つまり、完全な薬莢です。

雷管を挿入するポケット迄付いています。


『これは…。

 普通に薬莢に見えますが、これで火縄が使えるのですか?

 私が図面に引いた物は恐ろしくシンプルな物だったと思いますが』


『姫様、火縄はこの薬莢では使えません』


『ならば、雷管が必要ということですが…。

 あれは危険性があるから保留ということにしていませんでしたか』

 

『はい、そう仰っていました』


ここでそれまで黙っていた梓さんが口を開きます。


『姫様、こちらを見て頂けますか』


白い粉の入った小瓶を懐から出すと、私の前に置きます。

この流れで出されれば、何となく小瓶の中身の予想は付きますが…。


『これは?』


『姫様ならご存知でしょう。

 これは雷汞です』

 

『やはり雷汞ですか。

 しかし、それを作るには色々と問題がありませんか?』


『正しい知識と技術が無ければ、仰る通りです』


『梓さんにはその両方があると』


『ええ、ただ所詮実験室の化学実験の範疇ですから大量には作れません』


『なら、結局は火縄が必要なのではないですか?』


これには佐吉さんが答えます。


『平成の軍隊ならいざ知らず、弾一発の雷管に使う雷汞の使用量はほんの僅かですから、数百名分の弾薬位ならば化学実験で作れる分量でも十分賄うことが出来るでしょう』


『なるほど…、確かに兵士一人の弾の消費量も比較対象にもなりませんね。

 そういえば、平成では雷汞は危険性から使われておらず、確かジアゾ…』


私が薬品名をうろ覚えしていたのを梓さんが補完します。


『ジアゾジニトロフェノール』


『そう、それです』


『作れますが、雷汞に比べると少々面倒ではあります』


『そうですか…』


『雷汞の方が現実的でしょうね』


『ならば一先ずは雷管には雷汞を使用するとしても、硝石はどうでしょうか。

 日本では殆ど産出しませんから、今は輸入に頼っています。

 硝石は非常に高価で、これが鉄砲隊の運用を難しくしています。

 海の向こうに掘りに行ければこの時代ならそれこそ無尽蔵に埋まっていますが、現時点ではそれは現実的ではありません。

 

 内製する場合、古土法、培養法、硝石丘法の三種類がこの時代では一般的ですね。

 しかし、いずれも年単位の時間がかかります』


佐吉さんが話を継ぎます。


『化学合成で作り出すことは可能だと思います。

 ただ、現時点ではまだ電気の利用が出来ませんから、ごく初歩的な実験装置位しか作れないと思います』


梓さんが更に話を継ぎます。


『アンモニア合成などの実験は過去にやったことがありますから、佐吉さんにも手伝ってもらえれば実験装置規模のものなら用意できると思います。

 どのくらいの量を作れるかはわかりませんが』

 

私は肥料生産プラントは作ったことが有るんですが、逆に実験装置規模になると正直自信が無いです。平成の御代での私の経験は、あの時代の技術環境の上に立脚しているものが殆どですから。


『では、一度作れるかどうか試してみて下さい。

 直ぐに大量の火薬が必要という訳ではありませんが、準備するにこしたことは無いですから』

 

梓さんが頷きます。


『承りました。

 硝酸の合成が出来れば無煙火薬なども用意できると思いますよ』

 

『無煙火薬ですか…。

 無煙火薬が本当に作れたなら、薬莢式の鉄砲の運用が楽になるでしょうね』

 

佐吉さんが頷きます。


『そのうち火薬などの環境が整えば、ボルトアクションライフルならば作ることが出来るかも知れません』


ボルトアクションライフルですか…。

そこまで行くと完全に歴史が変わってしまいそうですね…。

でも、そんな強力な武器を使えば相手を殺してしまう事が多いでしょう。

今の鉄砲のない戦であれば戦死する人はそこまで多くはないのですが、鉄砲が導入されれば確実に死亡率は跳ね上がります。

そして、ライフル銃が普及してからは更に…。


生き残るためには負け戦は避けなければなりません。

そのための準備を疎かにする事は愚の骨頂です。

しかし、だからといって本来死なずに済んだかも知れない多くの人を強力な武器を使うことで死に追いやってなお、私は罪の意識に苛まれること無く生きていられるのでしょうか。

鉄砲衆の組織化と準備が進むにつれ、私は本当にこれで良いのかと思い悩んでしまいます。


ですが乱取りや落城時の惨事の話を聞けば、そんな目に遭うくらいならば、二度と手を出す気を起こさぬほど手痛い目に遭わせるべきだとも考えます。

お互い結果的にその方が死ぬ人が少ないかも知れませんから。


『それがあれば戦が変わるでしょうね。

 ではよろしく頼みましたよ』

 

『『承りました』』


「では、語学の勉強はこの辺にしておきましょう」


「はい。今日も有難うございました。

 では、これで失礼致します」


「失礼致します」


そういうと、佐吉夫妻は帰っていったのでした。


近い内に単発式銃の試射が出来そうですね。

並行して、一先ず保留にしているクロスボウの量産も考えています。

今度太田殿と弓師さんに相談してみましょう。







着実に準備は整いつつあります。


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