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吉姫様の戦国サバイバル ベータ版  作者: 夢想する人
第一章 戦国時代転生(天文三年1534~天文十五年1546)
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第十四話 大人の仲間入りでござる。

吉姫はとうとう裳着の儀式を迎えました。





『通過儀礼』



また年が明けて天文十五年、吉は十二歳になりました。

身長は伸び続け今や五尺を軽く越え、この調子だと成長が止まるまでに前世と同じ170センチを超えるかも…。


年が明けると父が今年、吉日を選び裳着を行うと話した。

まだ成人には早い気がするんですが、もしかして嫁に行くことが決まった?


ところが、そういう訳ではなく、寺に行っている者など家中の評判がよく、いつまでも子供扱いをするより、大人の仲間入りをさせようかと思ったと、話してくれた。


つまり、大人として出来ることが増えるということ?



そして、古渡の屋敷では裳着の儀式の準備や祝の席の準備が整えられていき、吉日を選び裳着の日となった。


正直お歯黒は嫌なので、この日限りにしてほしいのだけど、兎も角通過儀礼だから。


髪上げの儀を行って大人の髪型に整え、眉を剃り、化粧を整えた。

初めてのお歯黒をつけてくれる人を鉄漿親というらしいが、叔母など親しい親戚の女性がつとめることが多いとのことで、私の場合は信光叔父の奥様がしてくれた。


そして、この日のために父が作らせた晴れ着を着た。

儀礼用の着物は華麗で父の勢いを見せつける意味もあるのだろう。


着付けが終わり、お披露目となり宴席の場に入った。

この日は親類縁者や父の家臣達、また遠方より多くの方がお祝いに来てくれた。


皆の前で、挨拶をし、あとは父が引き継いだ。

この時代の女性は、こういう場では多くを喋る必要がないのが気が楽だ。


中身がいくら前世で三十半ばまで歳を重ねていたとは言え、行き慣れた寺ならともかく、別の世界で大勢の前で喋るなどとても無理だ。


宴席もまた贅を尽くしたもので、今日だけで父は随分とお金を使っただろう。

信広兄の元服の儀はささやかなものだったと聞くが…。


そして、宴席が終わり、参加者全員というわけではないが、父と並んで座る私の前にお客が来て、お祝いの言葉を述べてくれる。


父の兄弟の信光、信康、信実、信次ら叔父たち。そして、父の末の妹となる直叔母。

叔母と言っても私より少し年下なのだけど…。爺ちゃん元気すぎだよ。


驚いたのは岩倉の信安殿、それに清洲の信友殿まで来てくれたことだ。

史実ではこの時期は既に清洲とは関係が微妙になっていた筈だけど、勝ち戦が続く父を支持する者達が多く生き残ったことで、岩倉と清洲との関係はいまだ良好の様だ。

更には守護の武衛様からもお祝いが届いた。


他にも隣国の三河からもお祝いが届き、父の影響力の大きさを実感した。


お客たちが帰り、父の家臣や親戚などの身内が残って内祝いが始まった。


先日焦燥した顔をしていた平手政秀殿は今日は開放されたような晴れやかな表情だったのに、私を見たら何故か泣いて喜ぶの。

ちらちらとしか顔を合わせたことが無いのに何故だろう?


噂の七本槍とも対面した。幾度も戦をくぐり抜けてきた猛者達だけに、歳はまだ若いが皆オーラが凄いね。

既に知り合いの柴田権六殿と佐久間半介殿の二人もお祝いに来てくれた他、前田犬千代君の父の前田利昌殿とも初めて逢うことが出来た。




『信広兄』



私の裳着の為なのか、暫く振りに戻ってきていた信広兄がお祝いに来ていた。

山本勘助殿と、服部保長殿の二人も一緒に。


三人は、内祝いが始まり、父が今日は遅くまで宴会をやってるから、そろそろ抜けていいと言ってくれて、部屋に下がってから訪ねてきた。

宴席では末席の方に居たらしいが、話があるからと別に訪ねてきたのだ。


兄が大事な話をするのでと、女中さんをさげ私と三人だけとなった。

勿論、聞き耳を立てれば日本家屋、簡単に話を聞けるだろうが、今日は宴席で皆騒いでる上に、女中さん達も大忙しだ。


三人を前に対面する。

まずは兄が裳着のお祝いを言ってくれる。そして、祝いの品を渡してくれた。

そして、二人に視線を送ると、二人が頭を下げた。


吉姫様、この度は裳着の儀お目出度うござります。

そして、我ら二人、姫様に推挙頂き感謝いたし申す。と。


私は、その言葉に違和感を感じた。


兄に視線を向けると、兄は薄く微笑んだ。


多分、服部殿だと思われる人物が、話を続けた。

失礼でござるが、調べさせて頂き申した。


諸事に通じる高名なる快川和尚だとしても、それがし如き小物の名を何故ご存知だったのか、それが気になったのござる。


そして、勘助殿と思われる雙眼の人物が、それがしもでござる。

それがしは浪々の身、更には大きな戦で巧名を立てたわけでもなく、知る人など殆ど居らぬはず。


また服部殿が言葉を継いだ。


三郎五郎様は快川和尚の推挙だと仰った。

しかし、我ら二人は共に無名の者にて、快川和尚が我らを何処でお知りになったのか、それを知らねば安心してお仕えすることが出来ませぬ。


それで、寺にてそれとなくお聞き申した。


私は脂汗が吹き出るのを感じた…。真相が知れるにはまだ早い、まだ早いのに…。


和尚は我らのことは勿論、手紙のことも一切知り申さぬ。

ならば我らを推挙し、主に献策したるは吉姫様、貴女をおいて他にござろうや。と…。


信広兄が私を見据えて話しだした。


父の美濃での華々しい勝利、父に聞けばあれは和尚の献策だという。

その策は吉よりの手紙にしたためられていたと父は話しておった。


あれも、吉の献策であろう。

そして、先の三河での勝利、あの見事な策も先の美濃での戦を参考にしたと父が話してくれたぞ。


つまり、どちらも吉の策。


儂は吉に貰った手紙に書かれていたことを安祥の統治や調略で実践した。

三河は力ではなく心を攻めるべしと、手紙には書かれていたな。


儂はその策どおりに、例え尾張より持ち出しとなっても、戦に疲弊した民をいたわり、味方となった三河の国人、豪族達を粗略にせなんだ。


そして、この山本殿を半信半疑に出入りの商人に探させ、城に招いた。

雙眼で身体に多くの傷を負い、片足を不自由にしている。


浪々のせいかはじめてみた山本殿の風采は正直良いものでは無かった。

しかし、噂に聞く和尚の推挙故、話をしてみたのだ。

他国の城を任されたばかりの、儂が正に求めておった者だった。


父がつけてくれた家老は年相応に経験は豊富だが知恵者というわけでもない。

老齢でいざ戦となれば、どの程度役に立ってくれるかも不安だった。

儂は捨て駒に置かれたのではないかと正直思っておったのだ。


儂は日々が不安で仕方なかった。

しかし、父は安祥が攻められた時、直ぐに救援に来てくれた。


その折、渡されたのが木彫りの仏像とあの手紙だ。

最初は和尚が献策してくれたのかと思っておったがな。


山本殿が来てくれて、やっと儂は城主たる仕事ができるようになったのだ。

城の修築や調略の仕方、寡兵で被害少なく如何に敵を追い払うか。


この山本殿が居らねばここまで安祥がもったか儂にはわからぬ。


更には、少々伝手を取るのに時間は掛かったが、何処かで伝わったのか、この服部殿がふいに訪ねて来られたのだ。


山本殿が常々情報の大事さを話していて、儂もなんとか物見以上の仕事が出来る者を得られぬか、頭を悩ましておったのだが、ちょうどその時訪ねてきてくれたのだ。


儂が探しておるというのを聞いて一度話を聞きに参ったと。

聞けば服部殿はその時はまだ松平で仕事をして居たのだが、先代の当主と違い、今の当主の扱いが余りに酷すぎるので、一族率いて伊賀に戻ろうかと考えていたそうだ。


そこで、儂が家臣に一族を皆召し抱えたいと申し出て、儂に仕えてくれることになったのだ。


服部殿も正に儂が必要としていた者だった。

服部殿と一党が居らねば、ここまで有利に安祥を保ち、調略を進めることなど出来はせなんだろう。


そして二人の働きと、心を攻めよという策が結実し、今の西三河の安定が有るのだ。


儂はずっと和尚の献策だと思い、和尚に感謝しておったのだが、まさか吉、そなたの献策だったとはな…。

あの手紙をくれた頃は、今よりさらに幼かったろう。


多くは聞かぬ、他言もせぬ。

二人を何処で知り、策を何処で学んだのだ?


私は焦燥感に苛まれ、先日の平手殿の様な顔をしてるのかも知れない。

まるで悪戯がバレた悪童のように。

だが、本当の事を話すわけにはいかない。


なんとか取り繕うことを考えた。


策は書物で知りました。

祖父が遺してくれた多くの書物に古今東西の様々な故事や軍略が書かれておりましたから、三河という織田家がまだ領したことのない土地ということを考えれば、力で押さえ込むより、心で攻め心服させたほうが後々良いだろうと考えました。


お二人のことは夢で見ました。

夢に出てきた雙眼の男性が自分を召し抱えろと言うのです。それが山本殿でした。

また別の日、どこかの部屋で思い悩んでる人の夢を見たのです。その人は自分の才能を活かしたいのに活かす場がないと。それが服部殿でした。

そして、どこかの部屋で悲壮な顔をされている兄上の夢を見たのです。


これは、もしかして兄上に知らせるべきなのではないかと。

以前にも快川和尚を夢で見て父に招いてもらったことがありましたから、これもそうなのではないかと思ったのです。


嘘だと言われても、屋敷からロクに出たこともない年端も行かぬ小娘がお二人の名を知ることなど出来ませんから。


そう話すと、勘助殿と服部殿はため息をついた。

そして、兄上もまたため息をつき、にわかに信じがたいが、確かに二人が来られる前の儂はそんな感じの日々を送っておったわ。


これ以上は聞いても詮無きことかも知れぬ。

吉よ、儂はまた直ぐに安祥に戻らねばならん。

岡崎勢は先日の敗戦の痛手もあり暫く出て来れぬだろうが、そう遠くない時期に今川が出てくる可能性が高いのだ。


父をその智謀で助けてくれ。


では、息災でな。儂は成長した吉をこうして見ることが出来て何よりだ。

というと、微笑み。三人は安祥に戻っていった。





『母…、そして勘十郎』



三人を見送りに出ていると、初めて見る女性と私より少し下くらいの男子が数人の初老の武士と侍女達を伴いやってきた。


その女性も、男子も然るべき身分の方なのか、身なりが立派で、また初老の男性たちもそれなりの地位だろう身なりをしていた。立場的には平手殿位かも…。


私はてっきりお客として来ていた他家の人たちだと思い、挨拶をする。


すると、その男子がツカツカと近づいてくるとなにか哀れなものを見るような見下した目つきでいきなり無礼な事を言い出した。


お前が我が不肖の姉の吉か。母が裳着くらいはというので、この嫡男の勘十郎様が来てやったぞ。と。


うわぁ~。勘十郎…。うつけた格好はしてないけど、どんな育ち方してるんだ?


その後ろの初老の男性達、恐らく傅役だろうが注意するでもなく、そのうちの二人がニヤニヤした顔でこちらを見ている。そして他の二人は真っ青な顔をして見て見ぬふりをしている。


勘十郎は更に近づくと、見目は少しは良いようだが、この大女ぶりでは嫁の行き手も無いんじゃないのか?と無礼な目つきで見上げてくる。

そう、勘十郎は私より身長が低いのだ…。残念なやつ。


そして更に口を開けて無礼なことを言おうとした所で、後ろにいた女性が急に近づいてきて、私を抱きしめた。


見ればその瞳からは大粒の涙をボロボロと流していた。

そしてまくし立てるように懇願した。


一目見られればと思っていたけれど。


この愚かな母を許して。私が愚かだった。

あなたを疎み遠ざけた事を、許しておくれ。と…。


信秀殿の言うとおりであった。

小さいうちはわからぬ故、もう少し長じれば普通の子と変わらなくなると。

その通りであった。と…。


こんなに美しく立派に成長し、母がなくとも良い娘に育った。

信秀殿の話した通り。

寺に行っている者から聞いたとおり。


何故こんな子を疎んで傷つけるようなことをしたのか。


そういうと、号泣したのだった。


そんな母を見て、勘十郎は何が気に入らないのか私を睨みつけコブシを握りしめ、ワナワナしていた。


そして母は、もはや母と名乗るのも愚かしい。

だけど、母はもはや吉を疎んでは居らぬ。

立派に育ったと誇りに思ってると覚えておいておくれ。と。


私は、なんとも他人事の様な気分の自分が居た。

しかし、ぽろりぽろりと涙が出てきて、母を抱きしめたのだった。


それを見た勘十郎は、何だこの三文芝居は、不愉快極まりないな。と、吐き捨てるように言うと、傅役を引き連れて母を置き去りにして帰っていった。


母は、一頻り泣くと、改めて裳着のお祝いを言い、お祝いの品をくれると、侍女に伴われて帰っていった。


私は母にまつわる顛末を父に聞かねばならないのかもしれない。


兎も角、これで母とは和解できたのだろうか…。

しかし、あの勘十郎は…。あれがこの弾正忠家の跡取りなのか…。


信長の居ないこの世界には、うつけも居なければ折り目正しい弟も居ない。

居るのは、未来から転生した変わり者の女と、あの目がおかしい勘十郎だ。


父上が平手殿解任の後思い悩んでいたのはこれか…。





『大人になるということ』



私が母を見送り表で勘十郎の事を考えていると、吉左衛門殿が来た。

まずは裳着のお祝いを述べ、そしてお祝いの品を。


吉左衛門殿はまずは侍大将として召し抱えられることになったらしい。

新参だが、吉左衛門殿ほどの猛将ならば次の美濃での戦で直ぐに手柄を立て、家中で認知されるだろう。


吉左衛門殿は父が呼んでるからと私を呼びに来たらしい。

そんなもの、誰か家のものに頼めばいいと思ったのだが、多分直接お祝いを言いたかったのかもしれない。


礼を言うと、父のもとに向かった。

既に内祝いは唯の宴会に変わっており、最後まで残った身内の者達で大いに飲み食いし騒いでいた。明日は死屍累々なのだろうか?


父がいる部屋に行くと、父が待っていた。


吉よ、裳着の儀おめでとう。父よりの贈り物は既に部屋に運んでおいたから、あとで見ると良い。というと微笑んだ。


私は改めて盛大なお祝いをしてくれたこととお祝いの品のお礼を言う。


それを聞き、父は笑みを浮かべると。

さて、吉よ。今日よりそなたは大人の仲間入りじゃ。

まだ何処にもやる気はないが嫁にもいけるし、大人として自由に出歩いても良い。


とは言っても、儂の娘であることには変わりはないし、武家の姫であることにも変わりがないゆえ、自由に出歩いても良いが一人で出歩いてよいというものでもない。


そして、屋敷の者は儂の家臣であったり使用人であるので、この屋敷で儂と暮らす間は今までと大きくは変わらぬが、供の者は自分の供の者を連れねばならぬし、儂と離れて暮らすことがいづれあれば、自分で使用人などを揃えねばならぬ。


つまり、これまでは吉は自分のお金は持たず、儂の私費からお金が出ておったのだが、これからは自分のお金で全てをやりくりせねばならぬのだ。



うーん、私は無収入のニートなんですが…。これはもしかするのかな?



そこで、大人の女子の仲間入りをしたのであるから、儂から化粧地を与える。

今後はそこからの収入でやりくりするのだ。



おおう。やっとここまで来たか…。

しかし、いきなり領地貰っても家臣も居ないしどうすれば?



吉が男であったなら、勘十郎の様に城を一つ任せるところだが、女故な。

化粧地は一応儂の方で決めてあるが、どんな所が良いのか吉に希望があるならば考えてもいいぞ。と。


私は海の幸が活用できる漁村が良いと前から思っていた。

漁村と言っても畑が無いわけじゃないし。


それでは、かなえられるならばですが、漁などやってる海のある所を希望します。と答えた。


それを聞き父は笑い、そうか、中々抜け目がないな。と言い、よし良いだろう、漁村を一つ化粧地としてやろう。


と、聞き入れてくれた。


そして、化粧地には儂の家臣を代官に宛てているが、吉がいずれ自分で雇い入れた者を宛てたいというならば、儂に言ってくれればいい。


それと。入ってこい。と声をかけると。


一人の若い武士が入ってきて頭を下げる。


この者は最近仕官してきた滝川彦右衛門という、近江の甲賀出身の者だ。

なんでも寺で吉の講義を聞いて、側仕えしたいと言うのだ。


腕は立つようだから警護の任には良いと思うが、吉の警護では武功はあまり望めぬが本当に良いのか?

と、改めて確認する。


すると、拙者はまだ若輩にて、吉姫様のお供をしながら色々学びたく思います。と。


この人は多分、滝川一益だよね?

この頃はほうぼう放浪して、その内堺まで流れて信長に拾われるんじゃなかったかな?


こんなに早い時期に雇ってしまうと、史実で言うところの滝川一益にならないような気がするのだけど…。


吉の方はどうだ。

私は構いませんが、本当私の側仕えで良いのですか?と改めて聞いてみる。


すると、拙者は姫様の講義を受けて感銘を受けました。

何卒…。と気持ちは固い様子。

後悔しても知らないからね…。


わかりました。それでは暫く側仕えして頂くことにします。


それを聞いて父は、よし。と頷くと、ではそちの住むところを用意する故、先に長屋に行っておれ。場所がわからなければ番兵にでも聞くが良い。


というと、はっと返事をして私に礼をすると下がっていった。


さてと父上に話すことがあるのだけど…。


父が座り直したところで、今日母が来たことを話した。

すると、ふむ。と溜息をつくと話しだした。


祥を許してやってくれぬか。


吉が母親の祥に疎まれ別れて暮らしてる理由をもし誰かに聞いていたとしたら、恐らく男子ではなかったからだと聞いたと思う。


それはな、儂が流した話だ。


もう吉も裳着を済ませた大人故、そろそろ本当の理由を話してもいいだろう。


覚えておるかはわからぬが、吉は産まれてから四つ位の頃まで、泣きも笑いもせぬ、言葉も話さぬ子だったのだ。

とはいっても、人が話すことが理解できぬのかというとそうでもなく、どちらかと言うと手の全くかからない子であった。


しかし、まだ若く初めて産んだ子が泣きも笑いも喋りもせぬ子と言うのは、跡取りを生むことを期待されていた祥には辛い話でな。


もし、話せぬ子を産んだともなれば離縁して元気な正常な子を産める女子を新たに迎えよなどという話も出てくるのだ。

それで祥は精神的に参ってしまって、吉を疎み遠ざける様になってしまった。


儂は話すことが理解できる子供故、いずれ成長すれば変わるからと、話はしたのだが、祥の落胆ぶりを見るとな。それで手元に引き取って儂と暮らしだしたというわけだ。


直ぐに期待されてた嫡男の勘十郎も産まれ、そちらの方は普通に泣くし笑いもする赤子だった故にな。儂が那古野に移る時、勘十郎を自分で育てると言い出して、勝幡の城に残ったのだ。


そして、吉は四つになってある日突然良く笑いよく喋るようになった。儂が見立てたとおりにな。


その話を早速祥にしたのだが、信じられないのか頑なで、

結局、裳着の日になって吉の元に訪れたというわけか。


父は語り終わると、庭を眺めて大きなため息を付いた。


私は、まさか自分が障害を持つ子だと思われていたとは知らず、真相を聞かされて少々ショックではあった。とは言え、それは平成の時代ですら起きている話だ。


私は父に、よくわかりました。私は母にもはや思うところはありません。

今は離れて暮らしていますが、いずれ孝行も出来ればと思ってます。と答えた。


すると、父は私を見てうんうんと頷くいた。


そして、明日にでも化粧地に行ってみると良い。と言い残し部屋から出ていった。


今日はいろんなことが起きすぎて中々眠れそうになさそうだ…。

などと思っていたが、床についたらすぐ寝てしまったのだ。


さて、おとなになって化粧地も得て、これからどうなりますことやら。

てか、一益だよね滝川って。違う人かな?


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