第百二十六話 工業生産的建築法
製材所と来たら次はコレですね。
『兄の結婚』
天文十七年七月、兄から井伊の姫と結婚したと手紙がありました。
井伊の姫というと私が居た世界の正史では有名な直虎さんですね。
この世界では出家する事もなく、井伊の姫のまま兄信広に嫁ぐことになりました。
そうなると直虎さんは従兄弟の息子ではなく自分の子供を育てることになりますが、有名な井伊直政はどうなるんでしょうね。
兄にはお祝いに医薬品の詰め合わせを贈っておきました。
『工業生産的建築法』
領地に新たに建設する養鶏場は試しに新しい工法で作ってもらおうと思っています。
古渡に製材所を作ったのですが、現状先ごろの陣地建設の時にフル稼働してからは余り活用できてません。
それで活用しないのも勿体無いので、製材所で作った量産建材を使って養鶏場を試しに建ててみようと考えたのです。
量産建材を使った建築法というと有名なツーバイフォー工法があります。
六種類の建材を使って木造枠組壁構法と言う構法で作る、日本の一般的な建築方法とは異なる建て方になるのです。
メリットは建材を工場生産することで品質を均質にコントロールできることと、短期間に建てられることがあります。反面、デメリットとしては決まった寸法の建材で作るため、間取りが限られてしまうとか、柱ではなく壁で強度を取るため大きな間口を取れないという事が挙げられます。
今回の場合、養鶏場の建設ですから問題ないはずです。
問題としては寸法です。この時代は当たり前ですが縮尺は尺貫法で、ヤード・ポンド法のツーバイフォーの寸法をそのまま使うことは出来ません。
ツーバイフォー建材は乾燥後の流通段階での寸法は一般的に二X四の場合三十八ミリX八十九ミリ、二X六の場合は三十八ミリX一四〇ミリになります。
それを寸に直すと一寸と二十五分。そこでやや大きくなりますが一寸半X三寸として四十五ミリX九十ミリをツーバイフォーのベースとします。
これを元に、六種類のツーバイフォー建材を用意し、それを織田家お抱えになった熱田の大工さんに見せました。
サンプルに枠組壁構法で作った模型も用意しています。
「この絵図面の建物を、私の領地に作って欲しいのです」
私から絵図面を受け取ると、大工さんは食い入るように見詰めます。
「変わった形の建物にございますね。
この様な建物、はじめてみます」
「ええ、この建物は鶏を飼う建物なのです」
「鶏にございますか」
「はい、普通は囲いに入れて平飼いし、夜になれば小屋に入れるという飼い方をしていると思うのですが、この建物は多くの鶏を飼うことが出来ます」
「それほど多くの鶏を飼うのですか」
「ええ、卵が沢山採れますよ」
それを聞き大工さんの顔がほころびます。
「それは楽しみでございますね」
「そうでしょう。
それでこの新しい建物ですが、新しい建て方を試したいのです」
「新しい建て方でございますか…。
して、どの様な方法でしょう」
用意してあった建材を指し示して話を続けます。
「あそこに置いてある六種類の建材だけを使って建ててほしいのです。
この六種類の建材は古渡の製材所で沢山作ることが出来ます」
大工さんは建材を手にとって見ます。
「この建材だけを使ってでございますか…」
当惑しているようです。
「この模型を参考に、建材をどう組み合わせて使うか考えてください。
この建て方は枠組壁構法という建て方です。
木を嵌め込みながら柱と梁で作る従来の作り方ではなく、材木と釘で作るのです。
釘はこの古渡の鍛冶に必要な数を用意させます」
大工さんは模型を覗き込んだり、外せるようになっている部分を外して構造を見たりしています。
「この模型の建物は…、実に興味深いですな」
じっくり見た後で大きな溜息を吐きます。
そして私の方を向くと話を続けます。
「この建物は随分簡単に建てられそうでございますね」
「ええ、この建て方は短時間でそれなりの建物が建てられるのが利点なのです」
大工さんは頷きます。
「でしょうね。
わかりました、とにかくこの絵図面の建物をこの工法で建ててみます」
「お願いします。
今回の仕事は、現場の村の大工さんも手伝ってくれますので、協力して建ててください」
「承りました。では、早速今日から掛からせていただきます」
「はい。こちらの建材は見本ですから持ち帰って構いません。
この模型も参考に持っていってください」
「はい、頂いていきます。
では」
そういうと大工さんは戻っていきました。
どんな風にこの時代でツーバイフォー工法が実現するのか楽しみですね。
建材を持ち込めば短時間で建物が完成する便利な工法。
匠の技が光る木組みを多用していたこの時代の大工からみたら大手抜き工法かも知れません。