第百二十四話 新たな仲間
遠江から新たに来た職人さんたちと顔合わせです。
『新しい仲間』
天文十七年六月、遠江から梓さんに付いて来た職人さん達は一先ず仮の住処を与えられ、新たに彼らのための長屋が増設されることになりました。
彼らの住処は古渡の城の外側にある城下町の方になります。
元々古渡は川を利用した二重の運河を兼ねた水堀の中にある城なのですが、堀の間の空間に足軽長屋や武家屋敷などがあります。
古渡は熱田神社から川と並行して北に伸びる街道沿いに続く門前町の延長上にある城で、職人たちは古渡城を挟んで更に北に続く街の長屋が立ち並ぶ区画に住むことになります。
仮の住処への引っ越しが一段落した頃に、工房区画で新たに来た職人さん達と顔合わせすることになりました。
一番広い部屋に全員が集まった所で、梓さんに紹介してもらいます。
「この人達がガラスを作ってもらっていた職人さん達です。
元々は陶器を作ってた人達で、ガラスの原料の硅砂は釉薬として扱っていたので、その延長の仕事として依頼したのが始まりでした」
紹介された三人の職人のうちの一人が代表して挨拶します。
「姫様、この度は召し抱え頂き有難うございます。
これからは尾張で腕を揮う所存です。
よろしくお引き立ての程、お願い申し上げます」
それに合わせて他の二人も挨拶をします。
「「よろしくお願い申し上げます」」
「こちらこそよろしくおねがいしますね」
「次に、この人達が紙漉き職人さん。藁半紙を作ってくれていた人達です。
藁半紙は普通の和紙とは薬品を使うなど材料が違うので、作り方も少々異なります」
職人さんたちが挨拶をしてくれます。
「藁半紙は学校で紙を沢山使うので助かります。
勿論、売りに出すのも問題ないです」
それを聞き梓さんが微笑みます。
「学校で使ってもらえるなら作ったかいがあります。
既に販路はあるのですが、どう売るかはまた相談しましょう」
「わかりました」
「後は鍛冶師、鋳物師、指物師、それに色々手伝ってもらっていた村の人です。
鍛冶師はこの古渡にも多く居ますが、この人は特に手先が器用で、ネジや歯車を器用にヤスリで削って作ったりしてくれていました。
ランプの芯を調整する軸もこの人の作です。
そして、鋳物師は鋳造が必要な様々な物を作ってくれていました。この人は鋳造の技も優れていますが、特に型を作るのが上手いのでガラス用の型も作ることが出来ます。
指物師は試験管立てから色んな物を作る時の治具など、色々なものを作ってくれていました。
最後に、この人は農家の三男の人で本来は農業が仕事なのですが、手が空いている時に私が作るものの手伝いを色々してくれていた人の一人です。
油田関係の人達は皆遠江に残りましたから、尾張に来たのは以上の人達です」
職人さんたちが挨拶をしてくれます。
「皆さん優れた腕を持っていそうですね。
梓さんの連れてきた職人さん達は、今後も梓さんの下で仕事をして貰うのが良いでしょう。
私がなにか頼む時は梓さんに頼むので梓さんがこれまで通りこの人達と一緒に仕事すると良いと思います。
特に、薬品を使う場合が色々あるようですから、工房も分けたほうが良いでしょう」
「そうですね。そうした方が良いかも知れません」
梓さんも賛同します。
「では、具体的な仕事は仕事場が出来てからという事で、新たな長屋が出来たらまた引っ越しもあるでしょうし、まずは落ち着くのを優先して下さい」
「「「はい」」」
梓さんと佐吉さんが残り、職人さんたちが先に戻っていきます。
「そんな訳で梓さん」
「はい」
「どんなふうな仕事場を用意したら良いかがわからないので、それぞれ必要な物事を一覧にして下さい。
それを検討して父に頼みますので」
「わかりました」
「それでは、今日はこの辺にしましょう」
「はい」
こうして、職人さん達との顔合わせも終わったのですが、どんな物が作られるのかはまだ今の段階ではわかりません。
落ち着いてから、改めて梓さんと相談する必要がありそうです。
遠江からの職人たちは以前通り梓さんの下で仕事をして貰うことになりました。
なにか頼む時は梓さんに頼むことになります。