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吉姫様の戦国サバイバル ベータ版  作者: 夢想する人
第四章 激動の天文十七年(天文十七年1548)
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第百二十三話 新婚宅への訪問

吉姫が佐吉さんの新居に訪ねていきます。この時代身分の高い人は身分の低い人の家には行かないそうですが、そう聞くと信長って随分破天荒だったのかも知れませんね。





『新婚宅訪問』



天文十七年六月、引っ越しも一段落と聞きましたので佐吉さん宅にお邪魔することにしました。

実は、後日遠江から新たに来た人達との顔合わせがあるのですが、その前に梓さんと話をしておいたほうが良いと思い、先にお邪魔して話をすることにしたのです。


今回は公式な訪問ではなく城の中ということもあり、滝川殿と小次郎殿の二人だけを伴い訪ねます。藤三郎殿には、津島の大橋殿の所への用事を頼みました。

そして、今日は千代女さんは留守番です。本当は居るべきなのでしょうが余計なものを触ると危険なので、千代女さんにも用事を頼んであります。


佐吉さんの新居は庭付きの屋敷になっていて、平屋というのもあるのですが平成の感覚だと結構大きく感じます。

城自体がまだそれほど古いわけではないので、同じ時期に建てられた武家屋敷も建物自体はまだ新しいです。しかし、新築と言うわけではないようですね。


訪ねていくと佐吉さんがすぐ出てきて、屋敷へ招いてくれます。



「姫様、この度は足労頂きまして恐縮にございます」


「いえ、私の方こそ急な話で無理を言いました」



お供の二人は玄関近くの客間で待ってもらうことにして、奥の部屋に案内されます。


部屋に入ると、その部屋は板間のままでテーブルや椅子などが置かれてあり、確かに洋室がそこにありました。

そして、テーブルの真ん中には既視感のあるオブジェ、ガラスシェードのランプが置いてありました。


一先ずその部屋に通され、椅子を進められたので久しぶりに椅子に座ります。

ちゃんと椅子にあった座布団が置かれてあるのがいい感じですね。


佐吉さんが梓さんを呼びに行き、少ししたら二人で戻ってきました。


梓さんはお茶セットを持って来ました。

盆に載せられたガラス製の急須に薄い紅茶っぽい色の液体が入っています。

湯呑はこの時代の普通の湯呑ですね。


テーブルにお盆を置くと、お茶を人数分淹れてそれぞれに置くと、私の前に二人で並んで座りました。


初めて見る梓さんの身長は、この時代の一般的な女性よりやや高め、という感じの美人さんです。

私より明らかに歳が上で大学生位のお姉さんっていう感じで、平成の世だと女優の菊川某さんに雰囲気が似てる気がします。

しかし梓さん眼力が強いというか、その怜悧な瞳から溢れ出る知性が半端ないという知的な容姿をされてますね。


「姫様、妻の梓です」


「お初にお目にかかります。

 梓にございます」

 

「はじめまして。備後守の娘、吉です。

 この度は急に押し掛けてしまい、申し訳ないです。

 後日、屋敷の方に挨拶に来てくれるという話は佐吉さんより聞いて居たのですが、先に会っておいたほうが良いと思いまして」

 

「そうでしたか。

 私も姫様と早くお会いしたいと願っておりまして、早速それが叶い嬉しく思っております」


「そう言ってもらえると嬉しいです。

 ところで、梓さんも語学がお上手と聞きました。

 良かったらどのぐらい話せるのか聞かせてくれませんか?」

 

 というと梓さんに頷いてみせます。

 梓さんも佐吉さんも意味がわかったのか頷き返します。

 

「そうですね、ではお言葉に甘えまして」


『これでよろしいですか?』


聞こえてきたのは綺麗な発音の流暢な英語で実際に英語を使う仕事をしていたのかも知れませんね。


『はい、梓さんも話せるようで話が早いです。

 少々私達の特殊な事情に纏わる話は他の人に聞かれると拙いので、共通の言葉として英語を使っているのです。

 この時代は平成時代と違ってプライバシーなんて気にしてないですからね』

 

『確かにそうですね。

 私は実家に居た時は離れを与えられていたので、割とプライバシーは保たれていたと思うのですが。

 姫様ともなればそういうわけにはいかないでしょうね』


私はそれを聞き思わず苦笑してしまいます。


『梓さんは恵まれた環境に居られたようですね』


『そうですね。理解ある父の御陰で自由に生きてこられたと思います。

 ただ前世の知見を活かしたものを作ったところで、姫様のように気軽に世に出すと言うわけにも行きませんでしたが』


梓さんは不思議なことを言います。何故世に出せないのでしょう。


『何故、世に出せないのですか?』


それを聞き今度は梓姫が苦笑いします。


『姫様のような生まれでは想像も出来ないかも知れませんが。

 今は乱れた世、私の実家のような小国人ではちょっとしたことが命取りになります。

 もし、目立つことをしてどこかの誰かに目をつけられれば奪いに来るかも知れない世なのです。

 もし私が何かを作っていると知れ渡れば、どこかの誰かが攫いに来るかも知れないでしょう。

 攫われなくとも駿河の殿様が差し出せと言ってくるかも知れない。

 しかし、私ごとき家格の低い家の出身者は側室にもなれず、妾として肩身の狭い思いをしなければならないかも知れないでしょう。

 いずれにせよ、自由な暮らしが奪われて死んだように生きるなら死んだ方がましですから。

 姫様のような有力者の家の生まれであればそのような心配をする必要も無いでしょう?』

 

言われてみればそうですね。

専属の警護の武士が何人も居て、常に誰かに守られている。

私の作らせた物が世に出る様になってからは特にそうです。

父ほどの有力者であれば、私を差し出せと言われることも無いでしょう。多分。

それで、佐吉さんの話に聞くほどの成果を上げながらこれまで知られなかった訳ですか……。


私はそう考えると思わず溜息が出ます。


『確かに……、そうですね』


『いずれにせよ、今回の佐吉さんとの出会いが無ければそう遠くない時期に寺に入れられたと思います。

 だから、私は佐吉さんには悪いですが多少強引に今回の輿入れの話を進めさせて貰ったのです』

 

『なるほど……。

 そういう事でしたか。

 まさに運命的な出会いだったのですね』

 

 それを聞き、梓さんと隣で話を聞いていた佐吉さんがお互いをちょっと見つめ合い少し顔を赤らめます。

 なんだか良い雰囲気です。

 

『ところで話は変わりますが、梓さんはお幾つなのですか?

 見たところ私より年上に見えますが』

 

『私は二十歳です。前世だと大学生でしょうか』


『そうでしたか。どおりでお姉さんだと思いました。

 私は今年で十五歳、前世だと高校一年生ですね』


確かに前世の感覚だと二十歳でも結婚は早いです。

十五なんて犯罪ですよ犯罪。


『姫様の年齢は聞いてましたが、実際に会うともう少し上の年齢でも通用しそうに見えますね。

 よく見れば年齢相応ですが、大人びて見えるのは前世の人生を生きたからでしょうか』


『そうですね。そうかも知れません。

 佐吉さんも今年で十七の筈ですが、二十歳位にも見えますから』


私がそう言うと佐吉さんの方を見ます。


『確かにそうかも知れません。

 この時代は前世に比べると皆大人びてますが、佐吉さんは年齢を意識させない余裕がありますね』


それを聞き佐吉さんは苦笑いします。そして、話題を変えてきます。


『そういえば姫様、梓さんに色々聞くことがあったのではないのですか?』


そういえばそうでした。時間も限られてますから、たわいも無い雑談で時間切れになるのはまずいです。


『そうでした。

 私のことは佐吉さんからある程度聞かれていると思います』


梓さんが頷きます。


『そうですね。前世では商社に勤められていたとか。

 他にも色々幅広く通じているとお聞きしました』


『ええ、商社で技術営業という営業の側面支援みたいな仕事をしていたのですが、仕事の幅が結構広くて。

 商社の性質上色んな種類の商材も扱いますから、色んな装置を設置したりプラント建設みたいなこともやりましたよ。そのときから色んな業者さんを使って仕事していましたから、今も似たようなことしていますね。

 他にと言うと、祖父の家が古くからやってる農家で子供の頃から手伝っていたとか、歴女趣味やらミニチュア細工作りやら、ほんと何が活きてくるかわからない物です』


梓さんは頷き微笑む。


『本当に。そういえば、佐吉さんの話は全然聞いてませんでしたね』


佐吉さんが苦笑いすると話し出します。


『自分は前世ではメーカーで金属加工関係の技術者をしていたのです。

 大学でも工学を学びましたから、その筋一本の人生でした。

 私が会社に入った頃はまだ自動設備なんてありませんでしたから、神の手を持つ様な先輩達の背中を見ながら色々と手作りしていたものですが、その頃の経験が今に活きるとは皮肉な物です。

 もう少し後の世代だと自動設備全盛で今の時代では役に立たなかったかも知れません。

 一つのメーカーに長く居た御陰でいろいろな製品を手がけましたし、海外にも多く行かせて貰いました』

 

梓さんが佐吉さんの話を真剣な面持ちで聞いています。

旦那さんの事はやはり気になるのでしょうか。

佐吉さんが話し終わると梓さんが話します。


『そして、その知見を活かしてこの時代で鍛冶の腕を磨き、姫様に見出されたと。

 そういうわけなのですか。

 でも、佐吉さんが話したとおり姫様との運命的な出会いが無ければ野鍛冶で終わった可能性もあったわけで、私と巡り会うことも無かったと……』

 

そう言うと溜息をつき遠い目をします。

梓さんの脳裏に去来しているのどんなことなのでしょう。

これまでの苦労でしょうか?


『では、そろそろ梓さんの事を話して貰えませんか?』


結局まだ全然話を聞けてませんからね。


梓さんは私の言葉に現実に戻ってくると私の方をジッと見つめます。

そして、ゆっくりと話し出しました。


『私の事ですか。

 何からお話しすべきなのか。

 私は前世ではとある企業でマテリアル分野の開発の仕事をしていました』

 

マテリアルというと所謂素材ですね、これだけだとあまりにも範囲が広すぎますが。


『マテリアルですか、例えば?』


『色々です。そう色々。

 大学でも似たようなこと勉強してましたし、会社が求めるマテリアルを色々と開発しました。

 一番最後に手がけていたのはバイオマテリアル分野ですね。

 それを聞けば商社出身の姫様ならなんとなくわかって頂けると思いますが』


バイオマテリアルってまた範囲が広いですね。

バイオプラスチックとかでしょうか。


『そのときの時流にあわせた素材と言うことでしょうか?

 バイオマテリアルというと幅広いですが、どのような物を開発していたのですか?

 もはやこの時代でそんなことを聞いても意味の無いことかも知れませんが、商社出身者としては興味ある話ですね。

 バイオプラスチックとかでしょうか?』


梓さんは薄く微笑むと頷きます。


『そんな感じです。

 大豆やコーンからプラチックを作れと言われたり、食べられるものは評判が悪いから今度は食べないものから作れと言われたり』

 

そう話すと、また遠い目をします。

前世で辛い目にあっていたのでしょうか。


『ちなみに、直ぐには無理だとしても、この時代で作れる物もあるのですか?』


それを聞くとこちらに視線を移しニマッと表情を変えます。


『そうですね。無くはないと思います』


それは心強いです。今でも既に色々作られてるみたいですし。


『それは素晴らしい。

 そういえば、ご実家ではガラスやファクチス、藁半紙なども実用化されていたようですが。

 硫酸とかその手の化学薬品も作ったのですか?』


『ええ、折角手の届く所に油があるのに灯りの無い生活はイヤですから。

 生活を向上させるために作れる物から少しずつ作っていきました。

 この時代でも商人を介せば小数であれば手に入る物は多いですからね』

 

なるほど。私はあまりそういう方向では商人を活用していませんね。

素材とかそういうのはほとんど職人さんに任せていましたから。

前世でもどんな素材があるのかは知っていてもそれをどう作るのかまでは……。

梓さんは私たちに足りない物を埋めてくれる重要人物なのかも知れません。


『生活向上……。素晴らしいです。

 私の立場だとなかなか自由に出来ませんが、久しぶりに洋間でダイニングテーブルでお茶を飲みながら寛ぎました。束の間前世の生活が戻ってきた気分です。

 そういえば、このお茶も梓さんが作ったのですか?』

 

『ええ、前世ではまあ趣味と言えるのか、仕事場で飲むのにお茶をよく淹れていたので。

 そのときの記憶を元に柿の葉やら色々と』


『そうでしたか。私にもまた今度教えて下さい』


『よろこんで』


そう言うと梓さんは微笑みます。


『ガラスやファクチスなど直ぐにでも欲しい素材ですが、職人さん達も今回帯同していると聞きました。

 直ぐには無理でも環境が出来ればまた作れますか?』

 

『ええ勿論。

 折角この時代の人に覚えて貰った技術、私が提供する素材が無ければ作れませんから、皆一緒に来ることになったのです。

 必要な原材料も私が懇意にしている商人に頼めば手に入りますから、環境が整えば提供出来るでしょう』


おお、それは心強い。

これからいろいろなことが出来るようになるかも。

期待で自然と顔がほころんできます。


『それは楽しみです。

 では、次は職人さん達との顔合わせになりますが、宜しくお願いしますね』


『はい、承知しました』


『では、佐吉さん、新婚家庭にお邪魔してすみませんでした。

 今日はこの辺にします』

 

佐吉さんは少し苦笑いします。


『いえいえ。お気になさらないで下さい。

 やはり、先に一度この三人で話しておくべきだと思いましたから』

 

「吉姫様、今日は楽しいお話をありがとうございました。

 今後とも宜しくお願い申し上げます」


梓さんが玄関まで見送りに出てきてくれました。


「こちらこそ、今後とも宜しくお願いします。

 では佐吉さん、今日はこれで失礼します」


「はい、お気をつけてお帰り下さい」



こうして梓さんとの対面を終え、帰路につきました。


帰り道で滝川さんが話しかけてきます。


「川田殿の家でお茶を振る舞われました。

 お茶自体あまり飲んだことが御座らぬが、美味しゅうござりました」


それを聞き小次郎殿も話してきます。


「今日飲んだお茶は珍しゅうござるな。

 以前飲んだ事があるお茶とは些か別の飲み物に感じましたが、今日飲んだお茶のほうが飲みやすく気軽に飲めるのが良いですな」

 

滝川殿が頷き肯定します。


「左様、あれならば白湯の代わりに気軽に飲めそうでござる。

 あれはどのくらいするものなのでござろうか」


「こんど梓さんが教えてくれると話してましたから、教えてもらったらお二人にも教えましょう。

 恐らくそれほど高いものではないと思います」

 

「おお、是非に」


「楽しみにしてござる」


そんな話を交わしていたら屋敷に戻ってきました。

近い所に知り合いがいるというのは良いですね。


さて、梓さんの参入で色々なことが出来るようになりそうで楽しみです。



これで梓さんが吉姫と仲間たちに仲間入りです。

吉姫とは違った方向ですがかなり先を行ってた梓さんの加入で色々と前進します。

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