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吉姫様の戦国サバイバル ベータ版  作者: 夢想する人
第四章 激動の天文十七年(天文十七年1548)
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第百二十話 バネと馬車

以前の荷駄革命の続きの話になります。





『バネと馬車』



天文十七年六月中旬、佐吉さんは加藤さんと数名のお供と共に遠江に旅立ちました。

といっても、以前と異なり船で行きますから見送ったその日には遠江の湊に到着し、そこから陸路で二日後には目的地の相良に到着するでしょう。


さて、父上から先日公開の荷駄の評価が上がってきました。

先ずはいわゆる猫車、これは非常に使い勝手良く今後広く活用するそうです。

更には二輪車、こちらの方は実質それ以前からあった大八車と大きくは変わらないので、こちらも想定通り人力良し、牛良し馬良しで使っていくそうです。


問題は四輪台車、こちらの方は当日見ていた感じだと草地だったせいかそこまで気にはならなかったのですが、地面が硬い所、例えば道とかそういう場所で使った場合の振動が酷くて何とかならないのか、という評価でした。

そう、二輪なら人がバランス取って上手いこと振動をいなすからそこまでの問題にはならなかったのですが、四輪台車の場合四足故に振動をいなす事もできず、この時代の不整路で使用するには厳しかったのです。

思い出せば、日本で馬車が束の間普及したのは幕末の開国で舶来の馬車が入ってきたからでしたか。あれは最初から其れなりのサスペンションが付いてましたからね。


さて、そんな舶来品が入ってくるのを悠長に待っているわけには行かないので、四輪台車にサスペンションを付けることにしましょう。


使いやすいのはシンプルにねじり棒なのですが、あれは鉄を熱して棒に一定速度で巻き口を移動させながら巻きつけるのです。

この辺りは既にネジが有り、送り台もありますから技術的には可能です。

しかし、問題は現状鉄は叩いて鍛造するモノで、熱して柔らかくして曲げるものではありません。

で、無理なのかというと、無理では無いのですが簡単ではありません。


やはりこういった大掛かりな製鉄工房は城の中に作るようなものではありませんし、先日水車を作ったお陰で、古風ですが水車動力を使った動力ふいごが使えるようになり、以前の人力ふいごとは比較にならない風量を送り込むことが可能にはなりましたが、燃料の確保が。


燃料は今後も考えて竹炭を作ることにしてます。竹は成長早いですからね。

竹を蒸し焼きにして竹炭にし、それを石臼で粉末にし固めてペレットにします。

一手間ですが、この方がいろいろ使い勝手が良いので。

ニーズが有るようなら販売するのも良いかも知れませんね。

ちなみに、竹炭を作る過程で竹瀝という喘息に効くという油分が取れたり、漢方薬の材料が手に入るので一石二鳥です。


将来的にはどこかに工房が作れると良いのですが、姫の身では差配できる範囲は限られてますし。


兎も角、今回はオーソドックスに板バネで行くのが良いでしょう。西洋の馬車でも採用されてましたからね。

板バネというのは色々ありますが、馬車程度だと弓形の板バネを向かい合わせで組み合わせというあれが良いと思います。

ねじり棒があればもっと楽にコンパクトに作れたのですが、仕方ありません。


先日、絡繰屋の屋号を貰った清兵衛さんに早速どんなものか話をして作って貰います。

清兵衛さんというと、今では織田弾正忠家のお抱え鍛冶と言うことで知名度が上がったようで、最近は古渡だけでやるのは面倒な事など設備が有る所に仕事を頼むのが随分楽になったとか。特に鋳造方面や鉄の調達など。

先日の鉈も大野とか言う知多の刀鍛冶に頼んだとか話してましたっけ。

更に守護様より屋号下賜のお墨付きまで貰えたのですから、これはwikiに名前が確実に載りそうですね。


さて、四輪台車ですがサスペンションまで付けるとなると、シンプルに台車に車輪を直付けというのでは駄目で、構造から作り変えなくてはなりません。

それで、結局ミッション付きの車軸部分の上に台車を載せるというデザインになり、どう見てもこれは普通に馬車ですね。西部なんかが似合いそうです。


二週間後、出来上がったパーツを組み上げて試作品を作り、早速大人しい馬を二頭用意してもらい、二頭立てに仕立てて城の中を軽く動かしてみました。


まあ普通に馬車でした。


現代の乗用車のような乗り心地は期待できませんが、サスペンション無しの前の四輪台車のあり得ないレベルの振動は収まり、周囲の奇異な目が気になる程度の乗り心地は確保できました。

しかし、多分この『馬車』はお安くないと思います…。


早速、噂を聞きつけて戻ってきた父に試乗してもらい大いに気に入られましたが、こんな剥き出しではなく牛車のように人が乗れるような物を頼むと言われ、結局本当に普通の馬車を作る羽目になりました。


後日、早速手に入れた黒塗りの馬車を、父信秀は武衛様と二人で得意満面に乗り回すことになるのですが、これはまた後の話。


四輪台車は結局、黒塗りの貴人向けのものが牛に引かせる新しい牛車として、数台京の都に献上品として送られ、その後、オープンデッキの大型の物が牛や馬に引かれ、尾張の街道を行き来する姿が見られるようになったのです。

沢山作ればお安くない値段も手頃な値段に下がりますからね。




結局、馬車を作ってしまう羽目になったという落ちです。

この後、尾張の主要街道は馬車の走行に耐えられるような道路に作り変えられていくでしょうね。

必然として。


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