第百十七話 資材準備
陣地構築には大量の資材が必要、それの準備を着々と進めます。
『水車完成』
天文十七年五月中旬、月末辺りに予定している陣地構築演習の資材の準備を進めなければなりません。
父の許可を得て、城の川に面した一角に作らせていた大きな代物、そう水車が完成しました。
外から見えないように木製の建屋に収めてもらいましたので、外見には大きな木製の張り出し部分が出来たようにしか見えないでしょう。
水車自体は日本でも八世紀には存在し、広く普及したのは江戸時代からですがこの時代でも使われています。
その水車が回す軸を城内に引き込み、各所で木製のギアを取り付け、複数の用途でその恩恵を活用できるようにしました。
外縁部に位置する工房区画ではふいごやハンマー、使えるかどうかは不明ですがターンテーブル。
別の区画ではお約束の石臼。これで製粉、精米が捗るでしょう。
そして今回の陣地構築演習に使うための資材を作る製材所を設置しました。
城の船着き場に丸太を運び込めば、後は城内の製材所で板に出来ます。
流石に丸鋸、帯鋸は難しく既に存在する竪鋸の大きな物を使い、それとピストンを上手く組み合わせて上下運動させ差し入れた木が楽に切れるという代物です。
既にネジと万力更には送り台も有りますから、竪鋸の数を増やせば好きな厚みに切ることもできるのです。
これの原型は既に紀元前のローマ時代には存在し、ヨーロッパでも十三世紀ごろには使われだしています。
これを使えば板の大量生産が可能になり、陣地や砦で使い潰す程度の板ならば十分に作ることができるでしょう。
鋸と動力鋸のカラクリを作ったのは清兵衛さんですが、実際に動かし木材を切り出したのを見た時は感動のあまり雄叫びを上げ、涙を流して感動したのです。
相変わらずいい仕事をしてくれます。
そして今回特に感じたのは、川城の便利さです。
資材を船着き場に直接着けることが出来るので、資材を発注してから届くまでがこの時代特有ですが陸送とは比較に成らないほど早く、多くの量を届けられるのです。
この利点が無ければ水車を短期間で作り上げることは困難だったでしょう。
この製材所で陣地作りに必要な材木を月末までに用意して、再び川を使って演習予定地近くの河原に下ろし、そこから今回作った荷駄車を使って演習地へ運び込みます。
『野外活動道具』
平成の世の和鋸は、世界中に輸出される逸品ですが鋸など民生向け工具の性能が飛躍的に向上したのは長き泰平の世たる江戸時代。
この時代も、中々の技術水準ですが後の世ほどではありません。
日本の鋸は杉などの柔らかい木材を加工することが多いため、引くと切れる薄い鋸が昔から使われています。
素人さんがタフに使うと駄目になってしまいます。
そこで試しに作ってもらった鋸は、タフに使っても駄目にならない厚みのある押し切り鋸。
更には平成の世ではよく見かける折りたたみ式の鋸の二つ。
そして鋸とは別にもう一つ、竹などを切ったり加工したりするのに使える鉈を作って貰いました。
鉈の方は刀鍛冶の人に頼んだので、中々の物ができました。
日本刀に比べるとそれはあまりにも分厚く重く大雑把。
正に鋼で出来たゴツい刃という感じの代物です、平成の世では普通に安く売られてる代物ですね…。
ちゃんと木の柄が付いて木の鞘に収められています。
押し切り鋸は試しなので一つだけですが折りたたみ式の鋸と鉈は幾つか清兵衛さんの伝で作ってもらいました。
これらを演習当日に現地調達する資材を切り出す時に使ってみようかと。そう考えています。
後は当日を待つばかりですね。
これで一通りの準備は整いました。
後は当日鈴木党の皆さんに頑張ってもらうのです。