第十二話 吉姫の寺通いな日々
吉姫は寺を隠れ蓑に色々とやらかしだしたようです。
『寺通いは実り大きい』
相変わらずの寺通いを続ける私ですが、講義が面白いという他にも、快川和尚との話が面白いというのもあります。
快川和尚は美濃の出身なので、美濃事情は相変わらず伝手があるのか色々詳しいですし、京へ行っていたことも有るので、京は勿論その途中の近江なども知ってます。
近江では六角定頼の優れた治世により、観音寺には賑やかな商業都市があり、誰でも商売が出来るとか、或いは蒲生氏の治める日野にも活気のある街があり、そこの行商人が遠方まで商売に出かけてるとか聞かせてくれた。
観音寺は恐らく楽市楽座。
近江の行商人は有名だけど、古渡の屋敷にも来てるのかなあ。下々のことは触らせてもらえないのでさっぱり判らない…。
美濃は例の西美濃の三人衆の話しとか、東の方には遠山氏が居り、斎藤利政が実質的に治めている美濃はまだ国の中がうまく收まってないという話も聞いた。
閑話休題、快川和尚の話は有意義なのですが、それ以外にも最近は寺通いに楽しみが増えています。
屋敷の中ではあまり自由のない私ですが、寺では割りと自由です。
寺には仲のいい小僧さん達が何人も居ますし、なにより快川和尚は私のすることはなんでも興味津々の様で、寧ろ手伝ってくれるくらいで。
最近作っているのは、寺のある山に沢山生えてるムクロジを集めておいてもらって、皆で剥いて煮出して作るムクロジ水。
それを布で濾して、陶器の瓶に詰めて蓋をして出来上がり。
陶器の瓶は自作したものをサンプルに職人さんに量産してもらった。
どの位日持ちするのかは判らないが、天然の中性洗剤として使いやすく、寺では勿論、古渡の屋敷でも好評だった。
これを固めて石鹸にできれば更に使いやすくなるんだけど、どうやるんだろう?
他には、これには随分快川和尚の伝手が役に立ったのだけど、薬草園を作りました。
薬草図鑑を持ち込み快川和尚に相談して寺の一角に薬草園を作り、薬草は自分で寺のある山で集めたり或いは快川和尚の伝手で手に入れたり、講義に通っている人が持ってきてくれたり。
薬草の種類は割と短期間で中々充実したと思います。勿論、希少な物とかは殆ど無くて、ささやかなものではあります。
薬草園のお世話は寺の小僧さん達がやってくれることになった。
小僧さん達はなんでも修行の一環と、挑戦する心が強いとても気持ちのいい人達です。
これも、体育会系の和尚さんの薫陶の賜物でしょうか。
若いのに皆マッチョ揃いです。
『アロマオイル作りに挑戦』
作ったまま放置していた蘭引ですが、使わないのは勿体無いので、そのうちの一つを寺に持ち込みました。
和尚も含めその摩訶不思議な物体に皆興味津々。
まずは動作チェックに蒸留水を作ってみました。
水を入れて火を焚べて、やがて蒸気が吹き出し、蒸留された水がポタポタと嘴から滴っていく。とりあえず、成功のようです。
混じりっけ無しの蒸留水か出来ました。
試しに味見してみると、当たり前ですが水ですね…。
一応、見学していた人達には、混じりっ気のない水という説明をした。
試しに飲んでみた人達は、味っけ無いと感想を述べていた。だから水だと言うのに…。
そして、予め集めておいたクロモジの枝葉を使って黒文字油作りにトライ。
クロモジの枝葉を蘭引に入れ、水を入れて再び火を焚べると、やがて甘い香りが漂い出し、嘴から滴がぽたり、ぽたりと。
陶器で作った小瓶に保存し、一先ず一瓶完成。
瓶の中を香れば、甘い独特の香りが漂いますが、揮発性が強く、取扱い注意の代物なので、試しに作れるか作ってみたという意味合いが一応作れることは作れた。
とはいえ、この時代だとこれを商業ベースで売るのは難しいだろう。
せめてガラス瓶でもあれば違うのだけど。
この小瓶は、屋敷で使うのは怖いので和尚に取扱を十分に説明した上で進呈した。
とりあえず、蘭引は使用可能なことがわかった。
主な使用目的は蒸留酒、つまり焼酎や、消毒用のアルコールを作る事なので、使えることがわかったのが、一先ず成果だった。
『清田畷の戦い』
寺で講義の傍ら色んなことを試す日々を送っていると、気がつけば夏の終わりを感じる季節になっていた。
予想通り古渡の城が慌ただしくなり、父が出陣すると告げた。
この度は勝ち戦の筈なので、特に小細工などはせず、兄に近況伺いの手紙を書き、それを父に託した。
父は、手紙を懐に入れると、また勝ってくる故、息災で待っているのだぞ。と、声を掛け城の者たちと出陣していった。
さて、第二次安祥合戦の始まりです。兄は無事でしょうか。