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吉姫様の戦国サバイバル ベータ版  作者: 夢想する人
第四章 激動の天文十七年(天文十七年1548)
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第百九話 野戦陣地事始め

前回からの続きになります。






『野戦陣地事始め』



皆を前に話を始めます。


「では、野戦における陣地構築についてお話しましょう。

 陣地について話をする前に、陣地の必要性に付いて話さねばならないと思います。

 

 鈴木殿、戦での鉄砲衆の弱点はなんだと思いますか」


鈴木殿はいきなり質問されて驚きますが、暫し腕を組み考えます。

そして答えます。


「そうですな。

 鉄砲は姫様も何度かご指摘のように、弾込めに時間が掛かりまする。

 一度斉射すると弾込めが終わるまで無防備故、そこが弱点にござる。

 他にも雨が降ると使えませぬ」


「そのとおりです。

 鉄砲は一度に一発しか撃てませんから、百丁揃えて百人の鉄砲衆が同時に撃ち、全てが命中しても百人の敵を撃ち倒すだけです。

 敵が百人以下であればそれで戦は終わりでしょうが、相手が五百人であればどうでしょう。

 今の一般的な鉄砲は距離が離れれば命中率が低く、恐らくそれなりの経験がある鉄砲撃ちで五十間(約九十メートル)程度。

 今の弾込めの速さであれば一度撃てば二度目を射つまでに槍足軽が雪崩込みます。

 つまり、最初の斉射で五百人のうち百人を撃ち倒しても、残りの四百人に蹂躙されることになります」


鈴木殿は顔が青ざめます。


「まだ本格的に戦で使ったことはありませなんだが、今のままではそうなる可能性が高いと思いまする…」


「しかし、例えば籠城戦や砦を守る戦いであれば、いきなり雪崩込まれることは無いでしょう。

 また、撃った時の威力は全員で同時に射つのが最も大きいですが、射撃頻度と言う意味では、例えば二隊の五十人ずつに分けて撃てばどうでしょう。

 威力は半分になりますが足軽が雪崩れ込むまでには二度撃つことが出来るでしょう。

 相手からすれば、どれ程の人数が同時に撃っているかなど分かりません。

 一度鉄砲の轟音が聞こえればバタバタと人が倒れるのに、敵陣に辿り着くまでにそれが二度も聞こえるとなれば警戒するでしょう」

 

「確かに、何組かに分けて撃てば同時に撃つ人数は減りまするが、引っ切り無しに撃つことも出来るやも知れませぬ」


「そうですね。

 そして、迫り来る敵相手に安定して弾を浴びせ続けるには、砦などの中であったほうが良い。

 鈴木殿、今の時点での鉄砲の天敵は何だと思いますか?」

 

鈴木殿はまた腕を組み考えます。

そしてチラリと弓衆の二人に視線を向けると、考えがまとまったのか答えます。


「弓にござるな。

 弓は威力こそ鉄砲に劣りますが、矢を射る頻度は鉄砲とは比較になりませぬ。

 更には射程も弓の方が長うござる。

 つまり、同じ飛び道具を使う鉄砲衆でござるが、矢を射掛けられると無事では済みませぬな」


「そのとおりです。

 ですから、今は鉄砲衆は矢盾なり矢を防ぐ手立てが無ければ存分に活躍出来ません。

 しかし、鉄砲はいずれ今より更に射程を伸ばすでしょう。

 先日の津田殿の新しい鉄砲なれば、普通の弓より飛ぶ可能性もあります。

 また鉄砲はいずれ数を揃えることができれば、槍足軽を圧倒することも出来ます」


それを聞き鈴木殿は目を丸くします。


「今は鉄砲は高価で百を揃えるのも簡単ではありません。

 しかし、千を揃えることが出来たら。

 更に今の二匁半の火縄銃ではなく、津田殿の新しく作った六匁の銃よりも更に飛ぶ火縄銃であれば。

 どうでしょうか。

 一般的な弓衆は遠くから射掛けることしか出来なくなるでしょう」


鈴木殿は遠い目をします。


「途方もない話でござるな…」


津田殿も隣で何度も頷きます。


「ここで先日の話に戻るのです。

 鉄砲の欠点は重いこと。

 弓に比べればずっと重く、特に津田殿が先日作った鉄砲ともなると更に重く、野戦で攻める戦に使うのは一苦労でしょう。

 更には引き絞るだけの弓と異なり弾込め中には無防備になってしまいます。

 ですから野戦で陣地を作り、そこに敵を引き込むのです。

 今の鉄砲は攻めるより守るほうが向いているでしょう。


 でも攻める戦でも、鉄砲衆が槍足軽と共に前進し、槍足軽が突撃するのに合わせて射撃するなどと言うことができれば、より攻める戦はやりやすくなると思いますが。

 これは可能でしょうか。鈴木殿?」


「…。

 不可能ではありませぬが、槍足軽が突撃した後は味方に当たる可能性がある故、もはや鉄砲は使えませぬ。

 戦場のど真ん中で無防備に弾込めなどして居っては何が起こるやら。

 結局、引き上げるか鉄砲を片付け刀を抜いて共に斬り込むか、ということになりまするが、いずれにせよ戻れぬものがそれなりに出ましょう」

 

「つまり、鉄砲は前に出る戦には少なくとも今の段階では向かないということです。

 それ故、現状待ち伏せするか敵に攻めさせないと鉄砲衆は活躍が難しいのです」


鈴木殿と津田殿が頷きます。


「問題は野戦の最中に陣地、つまり築城など出来るのかということです。

 陣地と言っても、野戦の時の矢盾を巡らせ陣幕を張っただけの陣では敵を受け止めることなど出来ませんから」


それを聞き津田殿が口を開きます。


「左様、故に姫様の言われる野戦陣地の話をお聞きしたいのでござる」


「そうですね。

 私が言うのは、野戦築城によって築かれる陣地の事です」


皆が頷きます。


「築城というのは、ご存知の通り簡単ではありません。

 砦であっても一日で築くなど無理でしょう。

 かと言って長く掛けては当たり前ですが敵に攻められます」

 

「ですが、姫様はやりようがあると仰った」


「そう、やりようはあるのです。

 様々な地形にあわせた築城の手順、手法を予め決めておくのです。

 そして、とにかく共通化をします。

 例えば、堀はこの形でこの手順で作る。

 柵は予め作っておきそれを持ち込み決まった場所に決まった手順でつける。

 そうすることで、現地で建材を切り出し加工するという手間を省きます。

 運び込む手間は掛かりますから、事前に集積所を作るなどの工夫は必要でしょう」

 

皆は分かったようなわからないような、そんな表情で腕を組んで考えています。


やはり、口だけでは難しいですね…。


「では一度、試しに作ってみましょう。

 後日、準備をしておきますから鈴木党の人たちに陣地を作ってもらいましょう」

 

鈴木殿が驚きますが、ニヤッと笑います。


「それは面白そうですな。是非に」


津田殿も手を叩いて同意します。


「うむ。それは良き試みでござるな」


「それがしらも見聞したい故、その日には呼んでくだされ」


太田殿達は楽しそうですね。


では、ちょっと佐吉さんに頼んで大工の人を呼んで貰って準備をしますか。


「わかりました。

 では、準備が出来たらまた知らせます」


こうして後日実際に陣地を作ることになったのです。


いわゆる標準化とマニュアル化、戦国時代の人に説明するのは難しそうですね…。


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