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吉姫様の戦国サバイバル ベータ版  作者: 夢想する人
第四章 激動の天文十七年(天文十七年1548)
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第百七話 牛さんの来訪

遠江の戦前の来訪以来、久しぶりの牛さんの来訪です。





『博多からの船』



天文十七年四月末、博多まで行っていた鈴木党の船が帰ってきました。


頼んでいた、南蛮人の動向に関しては空振りでした。

博多には南蛮人はまだ居なかったようです。

ザビエルの来日が来年ですから、まだ南蛮貿易は本格的には始まっていないのかも知れませんね。


頼んでおいた六分儀、羅針盤も博多では見当たらず、もしかすると実物を知らないので見つけられなかったのかも知れませんが…。

これに関しては航海士ごと雇う必要があるかも知れません。だとすると、もう少し先でしょうか。

カボチャ、ジャガイモ、トウモロコシなども同じく不発。それらしい物は見当たらなかったそうです。

しかし、漢方薬の材料や香辛料は手に入ったようです。

やはり、一度佐吉さんに博多に行って貰う必要がありそうです。


ところで、この時代の日本からの主たる輸出品と云うと、銀や銅なのです。

日本には有力な鉱山がありましたから。

しかし、一番流通量の有る粗銅をそのまま売ると金を含有していたりと勿体無い事になります。

そこで、ヨーロッパや中国相手に取引する資金を作るため、南蛮吹と灰吹を使って金や銀の精錬をするのは良いと思うのです。

ですが、これは完全にお金の絡むことですから、ちょっと私の立場からは手を出すのは拙い気がするのですね…。


一度父と相談してみましょう。





『牛さん現る』



遠江での戦以来、姿を見せなかった太田殿がやってきました。


そう言えばこの人はいつもアポなしでふらりと現れるのですが、不在だったらどうするのでしょう。


「吉姫、暫く振りにござる」


「太田殿、先の戦の前にお会いして以来ですね。

 無事のご帰還何よりです」

 

「備後殿から戦のあらましは聞かれておるかも知れませぬが、此度の戦は大変でござった。正直、備後殿は危うかったでござるぞ」


「父が勝ち戦では有りますが、勝った気がしないと話しておりました。危うく討ち取られかけたと聞きました」


「左様、敵の裏をかくべく敵の背後に出たつもりが、我らの背後を太原雪斎に衝かれたのでござる」


「太原雪斎殿を最後まで補足出来なかったそうですね」


牛さんは頷くと話を続けます。


「本陣を守るは後詰を率いた佐久間半介殿の遊軍のみ。

 今川方の猛攻を半介殿の奮迅の活躍でなんとか防いでおったが、そのうち手傷を負い本陣まで敵が斬り込み申した。

  

 しかし、備後殿の馬廻りが死をも厭わず盾となり食い止めんとしたが、いかにそれぞれが武勇に優れ具足が優れておれども多勢に無勢。

 多くが討ち取られ備後殿に敵があわや届こうという所で、今川方の退き鐘が鳴り今川勢は潮が引くように引き上げて行ったのでござる…。

 

 後で聞けば川向こうで今川の本隊が三河遠江勢に敗れ義元殿が降伏し、敵の背後を衝いておった岩倉清洲の両守護代の軍勢が大急ぎで戻ってきたのでござる…」

 

「半介殿はこの度の功が認められ、那古野の勘十郎の与力に抜擢されたと聞きましたが、重傷を負い未だ療養中と聞きました」


「命に別状は無いとの事でござるが、出仕するには今少し日にちが掛かりそうでござるな」


「そうですか、重傷と聞きましたから心配していましたが、命に別状が無いのでしたら一先ず安心です…」


やはり半介殿、退きの佐久間の異名を取るだけあります。


ところで、この見てきたように話す牛さんは何をしていたのでしょう…?

まさか見ていただけなんてことは無いですよね。


牛さんが私の視線に何かを感じたのか話し出します。


「吉姫は拙者が何をしていたのか気に掛かるのでござろう?」


そう言うと不敵な笑みを浮かべます。


「そ、そうですね。太田殿の武勇伝も是非お聞きしたいです」


「ふふふ、そうでござろう。

 拙者、此度も目覚ましい働きをしましたぞ。

 守護様から有り難くも感状を頂戴しもうした」

 

なんと、それ程にですか…。


「守護様から感状だなんて凄いじゃないですか」


「そうでござろう。

 これも吉姫の弓のお陰でござるよ。

 拙者が元々使っておった弓ではここまでの活躍は出来なんだかも」


滑車弓、大活躍ですね。


「手掛けた甲斐がありましたね」


太田殿は頷くと武勇談を語ってくれます。


「半介殿の武勇は家中でも優れたるものでござるが、今川方にも武勇に優れたる武将が先手に出てきたのでござる。

 半介殿を小僧扱い出来るほどの武勇は備後殿も感心する程で、半介殿は追い込まれいよいよ危うかったので拙者が弓で敵将を射て助け申した。

 一騎打ちに水を差すは無粋にござるが、半介殿は吉姫を通じて知らぬ仲でも御座らぬ故。吉姫の悲しむ顔が見たくなかったのでござる」


確かに、幸いまだ見知った人で討ち死にした人は居ません。

もし半介殿が討ち死にしたと聞いたら、想像するだけで目頭が熱くなります。


「半介殿を助けてくれて有難うございます…」


「なに、吉姫には拙者も世話になっているでござる。

 半介殿や権六殿らと過ごした日々は拙者にとっても楽しき日々でござった故…」

 

「そして、父をも助けてくれたのですね」


牛さんは鼻頭をかき少し照れくさそうにします。


「拙者らも必死にござった。

 万が一の時、備後殿をお守りするは守護様の命でもござる故」


「弓師さんも一緒に居られたのですね。

 そう言えば弓師さんも無事に戻られたのですか?」


「七郎はここで落ち合う約束だったのでござるが、まだ来てないようですな」


「ええ、まだ見えられてませんが…。

 ところで、太田殿はいつも前触れもなく来られますが、不在の時はどうするつもりなのですか?」


それを聞き太田殿はキョトンとします。


「ん?

 拙者はちゃんと在宅を確認して来ておりまするぞ。

 そんな前触れも無く訪れるような無粋で無駄なことはしませぬ」

 

「え?」


「え?

 拙者は来る前に小者に在宅をこちらの家の者に確認して来ておりますぞ。

 拙者は多忙の身ですからな」

 

「で、でも予め他の方は予定を聞いて約束をして見えられますよ。

 来るときももうすぐ到着しますと、知らせがありますが…」


「ああ、その事ですか。

 思いたらったら吉日、そういうことにて。

 まあ気になさらず」


と云うと、ニンマリします。


「…」


私は思わず絶句します…。

なんというか、ジャーナリストとはそういうものなのでしょうか。


その時、弓師さんの来訪を告げる声が聞こえてきました。


「お、噂をすれば来たようですな」




弓師さんがやってきました。


「吉姫様、戦の前にお会いして以来にございます」


「はい。ご無事のご帰還なによりです。

 山田殿もご活躍されたと、太田殿から先程お聞きしたところです」

 

弓師さんが照れます。


「はは、又助程ではございませんよ。

 又助の働きで無事に戻れたようなものですから」

 

「そうなのですか?」


「本陣に攻め込まれ危うかった時、又助が敵の武将を手当たり次第に射たのでござる。

 それで敵の攻め手に混乱が生じ、攻めあぐねさせたのです。

 流石に今川勢は大混乱までは行きませんでしたが、指揮する敵方の武将が無視できぬ程の手傷を負えば、その敵勢は武将を下げねばなりませんから。

 討ち取るよりむしろ敵を混乱させたのです」


「太田殿…、正に守護様から感状を貰うほどの活躍だったのですね」


太田殿は胸を張ります。


「目覚ましい活躍をしたと話したとおりにござるぞ」


私は思わず太田殿の手を取りお礼を言いました。


「父上の窮地を救ってくれて有難うございます。

 父の話がやっとわかりました」


太田殿は驚くと照れます。


「なんの、拙者の弓が役立ててよかったでござる。


 あの滑車弓、今使って居るのは拙者とこの七郎の二人だけでござるが、守護様がこの度の働きを大いに喜ばれ弓衆の他の者も使えるように成らぬかと相談されたのでござる。

 備後殿には既に話を通しておる故、もう少し簡略化し簡単には壊れぬものを考えている所にござる」


「そうでしたか、太田殿はあの滑車弓のカラクリを理解している様ですから、良いものが上がるのを楽しみにしてます。

 また出来上がったら見せてくださいね」


「勿論にござる」


丁度、太田殿たちとの話が一段落した時、また来訪を告げる声が聞こえました。


「鉄砲打ちの鈴木殿と津田殿が見えられるそうです。

 多分、先日二人と話をしていた野戦陣地の話だと思うのですが、お二人はどうされます?」

 

太田殿は満面の笑みを浮かべると弓師さんと頷きます。


「勿論、同席しますぞ」





今回は前振りとして博多の話を少し書きました。

この時代は長崎、つまり平戸はあまり発達しておらず、博多が中国など海外貿易を担っていました。

これが変化するのが、翌年のザビエル渡来です。

平戸にポルトガル人などいわゆる南蛮人が来るようになり、南蛮貿易が本格化していきます。


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