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吉姫様の戦国サバイバル ベータ版  作者: 夢想する人
第四章 激動の天文十七年(天文十七年1548)
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第百弐話 新たなお供

吉姫を誰かが訪ねてきました。





『新たなお供』



天文十七年四月、春の日差しの心地よい過ごしやすい日が続きます。

松平広忠殿一行は慌ただしく三河に帰っていきました。

戦の心配は無いにせよあまり長く国を空ける事は出来ないのかも知れません。

竹千代君ら三河からの子供たちはあの日以来目に見えて明るくなり、学習意欲が大いに増した気がします。

秋には三河に戻る子も居るようで、学べるものは全て学び帰る位の気持ちなのかも知れませんね。

しかし、全員戻るのかと思えばそのまま尾張に残る子も居るようです。

特に、子供たちとは別に寺に通っている天野又五郎くんはそのまま寺での勉強を続け、将来的には尾張で仕官を考えているとか。

家の方は兄上が継ぐので問題無いとの事。

天野の家の事を考えれば、別の有力な仕官先があるなら子を分散させて万が一に備えるという事なのでしょうか。

寺でも優秀と評価が高いですから、案外父が雇い入れるかも知れませんね。



広忠殿との会見の数日後、部屋で模型を作っていると父がやって来て、明日私を人が訪ねてくると聞かされました。

父にどなたですか?と聞くと、権六殿も半介殿も役目で那古野に出仕することになり、もう吉のお供をすることは無理になり、かと言っていくら腕が立っても滝川殿だけでは不安故、またずっとというわけにはいかぬが吉のお供に良さそうな御仁が見つかったからその者が訪ねてくるとの事。

どんな人が訪ねてくるのでしょう。


翌日、父が話したとおり紹介状を持って二人の武士が訪ねてきました。

二人は滝川殿と同じくらいの年の頃で、紹介状を携えて来た方の人は権六殿の様にガタイが良くマッチョな感じの人でした。平成の世だとマッチョ俳優の金子某さんに似てるような気がします。

もう一人も体つきは細く見えますが、所謂細マッチョなのか袖から見える腕が引き締まって見えます。


早速、部屋に上がってもらうと紹介を受けました。


「一色小次郎頼栄にござる」


と云うと、紹介状を差し出します。

紹介状を受け取ると、私も挨拶をします。


「弾正忠信秀が娘の吉にございます」


小次郎殿はニッと微笑むと歯がキラッと光ります。

爽やかな感じの人ですね。

そして、もう一人を紹介してくれます。


「これなるは、奥山孫次郎。三河の兵法家にござる」


「孫次郎にござる」


そう云うと目礼します。

この人は眼光鋭く、如何にも武芸者という感じに見えますね。

この時代は剣術とか槍術とか武芸のみを極めている人というのは実のところあまり地位が高くないと聞いたことがありますが、どうなのでしょうか。


兎も角、紹介状に目を通します。


紹介状はなんと今は尾張に居られる元は美濃国主の土岐頼芸様からのものでした。

内容的にはこの書状を携えた者は廃嫡した我が長男で、今は誰にも仕えて居らず兵法家を訪ねては武芸を磨いてる日々だから暫くお供の役に立ててほしい。

とのことでした…。

確か父が動いて頼芸様と和解したと聞いたのですが、一度廃嫡されると元には戻さないのでしょうか…。

頼芸様の今の嫡男は確か今年で数え四歳の太郎法師様でしたっけ。


しかし廃嫡されたとはいえ、元守護様のご子息をお供などにして良いのでしょうか。


私の表情から何かを察した小次郎殿が笑顔を浮かべるとそれについて答えます。


「それがしは廃嫡された身で父とは備後様のご尽力で和解はしましたが、今は気ままに近隣の兵法家を訪ねては武芸を磨いている日々にて。

 美濃は斉藤家が領し、備後様が斉藤と和議して盟を結んだ今となっては、土岐の家の再興も難しいでしょう。

 父も従兄弟の頼純殿が亡くなってからは、日がな絵を書く日々で満足しておる様で…」

 

「そ、そうなのですか…」


「はい。

 それがし、美濃におった頃は叔父の光親殿のところに居り申したが、斉藤利政によって城を攻められ叔父共々尾張に落ち延びてきてからは、父の所に居り申す」

 

「和議の前に美濃の斉藤に臣従しない土岐家臣が攻められ美濃を追われたという話は耳にしたことがあります。

 その折に、左京大夫様が尾張に居られることもあってか、多くが尾張に落ち延びて来られたと聞きました」


小次郎殿が頷くと話を続けます。


「あの折は悲惨にござった…。

 叔父は父上の今の様を見て居城の奪還は諦め、備後様の口添えで織田孫三郎殿の所に出仕することになり申した」


「孫三郎叔父上の所に仕えることになったのですね。

 叔父上は知勇兼備の良き将で父上の信も厚いですから、きっと良き働きが出来るでしょう」

 

「孫三郎殿の武勇は美濃まで聞こえておりまするよ。

 それがしはこの機会に見聞を広めたくもあり、近隣の兵法家を訪ねては知己を得て武芸を磨いてはおりまするが、かと言って兵法家になるつもりもござらん。

 今は誰かに仕えて居るわけではありませぬが、何れは身を立てねば太郎法師もおりまするしいつまでも父の所には居れませぬ故…。

 そんな折、備後様が姫君の供を探しておると父より聞き申して、以前より姫様のお噂はお聞きしておりました故、暫し供回りの役を頂き見聞を広めたく罷り越した次第にござる」


なるほど、そういう事なのですね。

本人のご希望ならば私は一向に構わないのですが。

滝川殿をちらりと見ると、奥山殿をジッと見ていました。

その前に、一つ聞いておきたいことが…。


「そうだったのですね。

 ところで、一つお聞きしたいのですが。

 なぜ左京大夫様の勘気を被って廃嫡されたのですか?

 供回りというと側仕えの仕事ですから、そこはお聞きしておきたいです」


小次郎殿は少し表情が曇りますが話し出します。


「やはり、気になられますか。

 それがしも聞かれるのは覚悟しておりました。

 備後様にもお話した話になり申すが、それがしは今美濃を領しておる斉藤利政、当時は別の名を名乗っておりましたが、は誠実な様に見せてその瞳の奥に仄暗いものがある事を見ておりました。

 それ故、父上に気をつけるよう何かあるごとに諫言しておったのでござるが…。

 当時の父上の斉藤利政に対する信任は絶大でお気に入りの家臣でござった。

 非常に有能で目端が利きあっという間に父に取り入るほどの働きがあったのは事実でござる。

 しかし、それがしはその働きも父に取り入る為でいずれ土岐の家を弱体化させ仇なすのではないかと、心配していたのでござる。

 結果として、それがしは斎藤利政に父上に讒言され勘気を被って廃嫡の憂き目にあったのでござる…」


何とも、重たい話ですね…。

その見立ては正しく、実際に弱体化され美濃を追われたからこそ和解できたと…。

そういうわけですか。実は武芸ばかりではなく聡明な方なのかも知れません。


「そういう事情でしたか…。

 話してくれて有難うございます」


「いえ…」


顔の曇る小次郎殿の雰囲気を変えるために精一杯の笑みを浮かべ返事をします。


「では…。

 父も認めての今日の面会でしょうから、小次郎殿のご希望であるのでしたら私は構いません。

 こんな小娘のお供をさせるのは恐縮ですが、よろしくおねがいします」


小次郎殿は再びニッと微笑み歯をキラリと輝かせます。


「良かった。

 こちらこそ、宜しくお願いし申す」


「ところで、そちらの奥山殿もお供のご希望ですか?」


「いえ、孫次郎殿は仕官のご相談にござる。

 お役目なればお供の役も厭いませぬが、姫様が熱田で子供らを集めて手習いを教えて居るとか。そこで子らに武芸も教えて居られると小耳にはさみました故、兵法教授の役が無いかと同道したのでござる」

 

小次郎殿に紹介されて孫次郎殿が話します。


「拙者、三河亀山城の奥山美作守の家臣奥山貞久が一子にござるが、七男故継ぐ家もござらず身を立てるため剣術を志したのでござる。

 しかしながら三河も平定され戦も暫くはなさそう故、実家に居候同然の身では如何にも居心地も悪く、仕官の口は無いかと知己を得ておった小次郎殿について参ったのでござる。

 聞けば熱田で子供に武芸も教えて居ると聞き申した。

 拙者も剣術ならば些か自信がござりまして、子供らに教える役にも立てられるかと思いまする」


そう云うと平伏します。

 

感じの良い小次郎殿のご友人の様ですし、眼光は鋭いですが悪い人ではなさそうです。

一応、今は滝川殿に教授は頼んでいますが、あくまで本職の人が来るまでの暫定という約束ですし、どうしましょうか。


「滝川殿、如何でしょうか?」


ジッと奥山殿を見ていた滝川殿は私の方を見て答えます。


「拙者は宜しいかと思いまする。

 しかし、その前に腕前を見せて頂きませんと、拙者の後は任せられませぬ」

 

そう云うと、奥山殿の方にまた向き直ります。


「というわけにござる。

 一手お相手願えませぬか」


奥山殿もこの時を待っていたとばかりにニヤリと不敵な笑みを浮かべます。


「勿論、望む所にござる」


「では姫様、そこの庭を借りまする」


というと、庭に出ます。

奥山殿も後に続いて庭に出ます。


私の後ろで侍女らしく控えていた千代女さんが興奮気味に話します。


「姫様、あの人かなりやりますよ。

 剣の勝負を見るなんて久しぶりです」


やはりそうなのですね…。


小次郎殿も楽しそうに庭に出た二人を見ています。


小者に木刀を用意させると、いざ勝負です。

二人で木刀を構えた瞬間、空気が一変するのを感じます。

ビリビリとした緊張感みたいなものを感じます。


「では、いざ勝負」


「応」


掛け声をお互いに掛けると、動き始めます。

ゆっくりと間合いを計りながら円を描くようにお互いを観察し牽制します。


そして千代女さんが小声で。


「来ますよ」


というや、二人が目にも留まらぬ動きで木刀を交わします。

木刀の打ち合う乾いた音が響きます。


「おぬし只者では無いと見ておったが、中々にやるな」


「貴殿こそ、只者にはござらぬな。

 流石警護を任されるだけござるな」


そして、また木刀を構えながら二人でジッとにらみあいます。

暫ししてふっと場の空気が緩んだかと思うと、二人同時に木刀をおろしました。


「姫様、拙者の後を十二分に任せられましょう。

 子供ら相手では勿体無い程の腕にござる」

 

滝川殿にそこまで評価されるとは余程なのでしょうね。


「では、奥山殿。

 ずっとというわけでは無いのでしょうが、暫し熱田の子供達への教授をお任せします。

 滝川殿が子供らだけでは勿体無いと言うので、もし奥山殿にその気があるのでしたら道場を開けるように取り計らってもいいですよ」

 

奥山殿はその話を聞いて驚きます。


「な、なんと。

 拙者の剣を評価頂けるばかりか、道場の話まで頂けるとは…。

 是非に、是非にお頼み申す…」


「わかりました。

 では、後で紹介状を渡しますのでそれをもって熱田の加藤殿の所に持っていって下さい。

 加藤殿が取り計らってくれるでしょう」


「ははっ、有り難き幸せ」


「では、小次郎殿、暫しの間かも知れませんがこれから宜しくお願いしますね。

 住む所は後でこの城の奉行の山田殿に手配させます」

 

「はっ、有難く。

 こちらこそ、宜しくお願い申し上げる」

 

こうして、いつまでかは分かりませんが、またお供が増えることになりました。



所謂二郎サマがお供に加わりました。

こちらの二郎サマは一色小次郎と名乗っています。


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